ショタの兄って公爵なんですよ
丸一日投稿を我慢出来ました!(*´∀`*)ノ
セルフィルが名付けた【統合中枢詰め込み部屋】。
『愚かな国の象徴をようやく排除出来て、その後始末で忙しいのに個室で仕事をするんですか? 相互連絡に人を使うし遅いし無駄ですから、この大広間に全員集まって仕事も会議も監視も一緒にやりましょうか。国家が安定したと僕が納得するまで』
そう言って国盗りをしたショタが権力を放棄する最後に出した命令で、今愚王が最後の夜会をした大広間に国の上層部が集められて詰め込んだ。
王城に勤務する者は言う。あそこは常人の精神と胃を半日で壊す地獄だと。
業務でなければ上昇志向の高い文官も寄り付かず、宰相をからかいにくる小悪魔ショタとお菓子を貰いに来るキャッスルブレイクのじゃ姫くらいしか来ないその地獄に、現在普段よりも大勢の人がいた。
宰相にいつもの大臣ズ、ショタの長兄ハイブルク公爵バルト、その隣に婚約者のアリシア。そして壁際には貴族たち。
「これが弟が今日報告した全てだ」
バルトが読み上げた書類を机に置く。
書類はセルフィルが彼の前で、エグエグとウソ泣きをしながら作成した報告書であった。
ハイブルク公爵家のメイドの無詠唱という希少な魔法使い差し出しから始まり、チェルシーという増幅魔法使いの奴隷の引き渡しを求めてきた。そしてショタがその奴隷を一時的に保護をすることになったこと。
それを聞いていたのは国の上層部たちだ。
「その奴隷を魔法協会に引き渡せば済むのではないかね」
大臣の一人が発言する。
「協会が素直に引き渡しの要求をしてきていたら私も同様に考えていただろう」
「ならば」
「私の弟は今の時点で引き渡すのは得策ではないと判断した」
「子供の戯言を公爵である貴方が本気にされるのですか」
いつもは部屋にいない貴族がバルトを嘲笑う。
彼の他にも力を持つ貴族たちが部屋にいた。彼らも若い貴族に同調するように騒ぎ立てた。
彼らは魔法協会が魔法使いの雇用の撤退をちらつかされて国に訴えていた。その報告がなされると情報を得て強引に出席を取り付けたのである。
ここ数年で急激に力を拡大し続けていたハイブルク公爵家が、自分たちに被害を被るような失態を犯したと嬉々として責めようとした。
「魔法の威力を増幅する魔法を協会が得てどうなる? 何度も強引な手段を勝手気ままに取って法も契約も無視し、今回は国を脅迫してきたのだ。強くなったと増長して、もっと理不尽な強要をしてくるとは思わないのか」
バルトは貴族に返答しているように聞こえるが、その顔は最初に奴隷引き渡しを提案した大臣に向けられていた。
若い貴族は己が無視されたことに気づき顔を真っ赤にする。
「私を無視するなっ!」
「……それは私に言っているのか?」
カッとなった彼は叫んだ。
反応したバルトは僅かに眉をひそめて彼を見た。
それだけで彼の周囲の騒いでいた貴族たちはひるんで勢いが萎んでいく。だが、自分に視線が向いたのをチャンスが来たと考えた。
「ええ、そうですよ。貴方は私たちの質問に答える必要があります」
「答える必要があると?」
バルトが聞く耳を持ったと察した貴族は内心で嘲笑った。
「今回の魔法協会との揉め事の原因は貴方の弟にある」
「うん、原因は確かに弟だな」
バルトが認めたことに貴族は自分が正しいと確信した。ただそこには食い違いがあることに彼は気づいていない。
「魔法使いの貴族から全ての撤退するかもしれない。これは国を揺るがす大きな問題です」
周りにいた貴族も同調して騒ぎ立てる。
「まあそうだな。問題ではある」
これにもバルトは肯定した。
貴族相手に同意する行為は悪手に近い。いくらでも曲解して自分たちに有利に持っていこうとするのにだ。
「解決には死んだ魔法使いの奴隷を渡す事。なのに貴方の弟が奴隷を協会に渡さなかった。それどころか保護をして敵対しようとしているっ!」
「敵対しようとはしていない。それに奴隷の彼女は主人だった魔法使いの火魔法の余波で負傷している。簡単には移動する状態ではないから引き渡すまで保護しようとするのだ」
「おや? 奴隷は一人で動けるほど回復していると聞き及んでいますよ」
「……負傷ということになっている」
バルトが言い淀んだと感じた貴族は更に増長する。
「私たちから魔法使いを引き揚げるという被害があるのに、その奴隷にそこまでする必要が価値があるのか? とは思いませんか皆さんっ!」
彼の勢いに、共に【統合中枢詰め込み部屋】に入室を許可された貴族たちも同調してバルトを責め立てた。
力も大きさもある昆虫でも弱れば蟻が倒すように、数というのは時として力になる。
「つまり私の弟は失策をしていると言いたいのか」
「現に貴族は不安になって、魔法使いを引き留める為に少なくない損害が出ております」
直接は言わない。ただその裏には不安になった分を補填しろと暗に告げていた。
急に頭角を現したハイブルク公爵家が気に食わなかった。理由はたったそれだけで、少しでも弱みがあったら足を引っ張りたいのだ。
「そうかわかった。ならば弟を今回の件から引かせよう」
バルトが頷く。
勝ったと責め立てた貴族たちは思った。
だが相手はハイブルク公爵バルトである。
若輩だがバルトは当主不在の公爵家を維持した美の付く魔女の母と、短期間で国盗りと革命潰しを行う弟がいて、大人しい人物だろうか?
「そして私も責任を取って国政から退こう」
「「「は?」」」
もちろん大人しくなんてありえない。彼らは喧嘩を売る相手を間違えたのだ。
「弟は私が許可して今回の件に関わった。なら私も責任を取るのが当然だ。よしハイブルク家の者も寄子の貴族も領地に戻すか」
「あ、いや、そこまで責任を取れとは」
「ではセイレム公爵家も国政から手を引きましょう。私の第一王子との婚約破棄が国を傾け、魔法協会に付け込まれるようなことにはならなかったでしょうし」
貴族が追加していくバルトを止めようとすると遮ってアリシアが発言する。
「待て、それは困る」
バルトとアリシアの撤退宣言を止め動きをしたのは、聞きの姿勢の宰相であった。
愚王と愉快な仲間たちをざまぁして排除して平和になったとはならない。汚職まみれの存在でもいきなり消えれば国政が機能不全になってしまう。その穴を埋めたのはハイブルク家である。
小悪魔が愚能と判断した寄子の貴族をサクッと始末して、洗の……教育を施した者に継がせた社ち……貴族を派遣したのだ。
最低限の仕事は出来ると小悪魔に認められた彼らは有能な文官並みに働いていた。
混乱の国政をギリギリで運営を出来ているのは彼らのおかげだ。その彼らと、まともに業務をこなしていたセイレム派閥も抜ければ、短期間でエルセレウム王国は荒れた国になるだろう。
「多くの貴族から責任を取れと言われたのだ。不興を買ってまで付き合う義理はハイブルクにはない」
バルトはそれをわかっていて拒否した。
「なに大丈夫だ宰相。ハイブルクの仕事はお粗末らしいので貴公らが代わりにやってくれるらしい」
そして宰相の責める視線を自分を責めていた貴族たちに誘導する。
宰相と大臣たち、国家運営を行う猛者に見つめられて動揺し始める貴族たち。
ただ彼らは弱みを見せたから、そこを突いて旨味を得ようとしただけなのに、国の盛衰に関わってしまうなどつゆほども考えていなかった。
「い、いえいえいえっ! 私たちはただ魔法使いを引き留めた分の費用を賠償していただければ、それ以上ことは何もっ!」
「賠償はハイブルクはしないぞ」
「は?」
「弟の配下のメイドの魔法使いが、協会の目に留まったのが原因ではある」
「それならっ!」
「弟が原因でも目を付けて圧力をかけてきたのは魔法協会だ。貴公らはまず協会を非難すべきであっただろう? それともなにか、国から認められている貴族は魔法使いよりも格が低くて、子供にしか何も言えないのか?」
貴族たちは何も言えない。
自分たちは子供のやることにケチを付けたと先ほど言ったばかりなのだ。肯定しても否定しても揚げ足を取られてしまうしかない。
しかし、貶められようとして、口だけで終わるほどバルトは優しくはない。
「それと見当違いで私の弟を責めて我が公爵家に賠償させようとしたのは敵対行為とみなしているぞ私は」
冷たい視線の送るバルトに、ようやく自分たちが泥の着いた手で引き落とそうとしたのが間違っていたのに気づく。
「まずは……あーすまない、貴公らの名も爵位もわからないな」
「バルト様。代表で話していたのがリブー伯爵です。その背後におられる方がケクラン子爵、クラーツ男爵、アルケ騎士爵……」
尊大に貴族たちを指を指したが名を思い出せないバルトの代わりに、アリシアが人物名を呼んでいく。
「全員の顔と名前を知っているとはアリシアは凄いな」
「いいえそれほどの事では、私が記憶しないと王子の政務が破綻しましたので」
バルトに褒められて、ブラックな返しを照れながらするアリシア。
国の上層部は問題児であった第一王子の相手を殆ど元婚約者であったアリシアに任せて放置した負い目があったので、そっと目を逸らした。
「本人とわかるなら間違いは無いな。まずはハイブルク領からの関税を五割引き上げよう」
「「「なっ!?」」」
「バルト様、この中には法衣貴族で領地が無い御方もおられますよ」
「そちらは王都に向かう物を三割引き上げて、誰のせいでそうなったか布告しておこうか」
「ふ、ふ、ふざけるなあぁぁっ!」
絶句しているリブー伯爵のを押しのけてケクラン子爵が叫ぶ。
とうてい認められなかった。ショタがやらかしまくって急成長したハイブルク公爵領の恩恵は国全体に影響を及ぼしている。もし経済制裁を行われたらどうなるか、そのくらいは貴族たちにも容易に想像出来た。
「貴公らは公爵家を脅してきたのだ。報復措置を取られるのは当然だろう」
彼らは間違えた、若かろうと甘く見られようとバルトは強大な力を持つ公爵である。大海を泳ぐシャチをどうやって蟻が倒せるだろうか。
「余った物資はセイレム公爵領に流すつもりだ」
「それはセイレム領としては嬉しいですね。きっとお父様も喜びますわ」
彼らが享受出来るはずだったものが、別の場所に流れるのをあっさりと目の前で決められしまった。それはもう一頭のシャチであるセイレム公爵家も完全に敵対すると宣言するようなものであった。
「ハイブルク公爵」
あとは喰われて糧にもなれずに海の藻屑になるはずだったところで、宰相の一声が入った。
呼ばれたバルトが視線を宰相に移す。
「後は私が話をつけておく。貴公らはこの部屋から出て行きたまえ」
「いや、しかし……」
「聞こえなかったか」
宰相はバルトを見たまま貴族たちに告げ。代わりに他の大臣たちが邪魔だと言わんばかりに不愉快な顔を向けていた。
元々数をたよりにして強引に【統合中枢詰め込み部屋】に入室を許可されていた。だが強気の介入をして敗北した彼らに主張する発言の機会はもう無くなったのである。
大臣の一人が騎士を呼ぼうと動いたところで、貴族たちは悔しげな顔を晒しながらすごすごと部屋を出て行くしかなかった。
我が事知らずショタ「長兄のやられたらやり返すストロングタイプです」
長兄「お前にだけは言われたくない」
お久しぶりの長兄とアリシア登場(^^)
長兄はかなり公爵という地位を使います。もちろんアリシアも宰相たちもです。
木っ端な貴族たちは調子に乗りすぎて、どうにかしてほしい要望を越えて、利を得ようとしてしまい権力に叩きのめされました。
ウザったいから殺虫スプレーを持つ相手の前に誘導されていたのにも気づかず…(-ω-;)
この回は後編があって次回です。
投稿するのを我慢しろ自分!読者を焦らすのだっ!
下記にコミック一巻の表紙を貼り付けました(´▽`)そこから購入先のリンクが繫がっていますので、行って買ってぇーっ!(>_<)









