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理不尽しかない人権

設定を考えるのは楽しいですが、それを物語に落とし込むのは難しいです(;´Д`)

「それでチェルシーさん、魔法協会から貴方を寄こせと国に対して要求がありました」


 自分の膝の上に国家の最重要人物がおわす事の緊張より、幼女の癒しが上回って厳しい現実世界に舞い戻ってきてしまったチェルシーに、残酷な告知をした。


「契約書も確認しました。サルマーンという魔法使いの死後、奴隷チェルシーの権利は魔法協会に譲渡すると記されていました」

「そうですか……。あいつなら死んでも私を苦しめるとどこか思っていました」

「細かい文字で条件が幾つも書かれていたので見落としていたと思いますよ」


 チェルシーは力の無い笑みを浮かべる。そこには諦めた感情があった。


 奴隷制度は国によって違うが、ほとんどが奴隷の所有者が死亡した場合は、誰かが奴隷の所有権を受け継ぐことが基本の条件となっている。

 奴隷は国が認めた資源、道具なので、解放にはそれなりに手続きがいる。所有者が死んだ時に逃げれば、最低限の身分の保証も無くなってのたれ死ぬしかない。裏の住人になることもあるだろうが、よほどの才能と運がなければ元奴隷が数年も生き残れない。

 個々を魔法で監視出来ないから、国が法で厳しく取り締まるのである。そこには奴隷の人権は含まれていない。

 なんちゃって中世だけど、所有者が死亡したら解放なんてそんな生易しい世界ではないのだ。


「私はこの後、協会に送られるのでしょうか」

「僕が今日、魔法協会で起きたことを国の上層部に報告すれば問答無用で送られるでしょうね」


 魔法使いのご機嫌取りになるなら、ある程度の被害は国は黙認する。奴隷の小娘なんて奇麗におめかしぐらいして差し出すだろう。


「でも、たかが奴隷を国を脅してまで手に入れたい魔法協会の意図を知りたいんですよ僕は。それ次第で保護も検討します」


 俺も意図が気になっても、面倒くさいからのし付けて渡すだろう。


「僕の執事が。あ、貴方を最終的に生かそうと決断した奴が言ったんです。僕の婚約者を殺せる存在かもしれないと」


 いや驚愕したね。

 俺直属の変態な執事アレハンドロ。

 個人戦闘ならハイブルク家の中で突出している人たちの中でも暫定序列一位。その変態は強者の強さがなんとなくわかる(スキル)を有している。

 その昔、アレハンドロにみんなどのくらい強いの? と聞いたことがあった。すると自分を一位にしてすらすら答えたのである。それを聞いた勝手にランク付けされた人たちはブチ切れてトーナメント大会することになった。

 結果、アレハンドロの予測は全て当たった。彼に暫定が付いているのは格付けに興味が無い同格と判断したロンブル翁が参加しなかったからである。

 獣じみた勘はハイブルク家に大いに手助けとなり、信頼されている。


 だから、グリエダさんの家臣であるエイプ子爵の前で、俺にグリエダさんを殺せる可能性があると言われた時は肝を冷やした。だって剣を僅かに抜く音が聞こえたからね。


「貴方は何を持っているんです? 正直に答えて重要だと判断したら要望を聞いてもいいですよ」

「……本当ですか?」

「騙す必要性は感じませんね」


 エイプ子爵は未知で不快だから殺した方がいいと進言してきた。この世界で奴隷の命は(わずら)わしくて叩き潰す虫と変わらない。

 でも殺すとなると、どうもチェルシーの生存を確信しているような魔法協会が何をしてくるのか予想がつかない。無知に甘やかされた協会をなだめる為に、ウチのメイドを差し出せと国の上層部が言い出すかもしれないのだ。

 愚王を蹴落とし、甘い汁を吸っていた貴族の大部分を処分している途中である。今、ハイブルク家にだけ不利益を(こうむ)らさせると、国の混乱は続くどころか悪化するだろう。


 殺すか、保護するか、渡すか、逃がすか。彼女の手持ちのカードを見ないことには選べないし、その価値について判断出来るのは地球の知識と奴隷ではなく人として見れる俺しかいない。

 全く半日ほどで先の境遇がころころと変化する人物なんてそうそういないよ。



 チェルシーには自分の状況はわかっていないだろう。それでも選択したようで、覚悟を決めた顔になった。


「私は……魔法が使えます」

「魔法協会が欲しがるのですからそうでしょうね」


 それは予想の中で一番の候補だったので驚くほどではない。問題はその属性だ。


「属性は火土水風のどれでもありません。発動した魔法の威力を上げる増幅魔法です」

「……なぬ?」


 ちょっとどころか予想外の答えが返ってきた。


「増幅魔法ですか?」

「あいつはそう名付けました」


 ある貧しい田舎の村で女の子は生まれた。

 特産というものは無く、隣の村には三日も歩かないといけない距離、日照りが続くと飢えに苦しむしかない村で彼女は成長した。

 税で半分以上取られて、水のように薄い粥で年を越すことが殆どであった。なんちゃって中世のこの世界にはいくらでもある困窮が常態化している村で少女は暮らしていた。


 それでも両親、兄妹と畑を耕し、森に川の恵みを獲って女の子は暮らしていた。

 年に一度行商人が来る日はお祭り騒ぎ。彼女は隣の家の幼馴染と空いた時間で小物を作り、お菓子を物々交換して二人で分け合った。いつか成長したら、とお互いを意識したりした。

 ある貧しくとも幸せがある田舎の村で少女は生まれ生きていた。


 チェルシーと呼ばれる彼女はそんな自分のもう戻れない過去を惜しむように話す。


「そんなある日、魔法使いサルマーンはやって来ました。護衛の兵士とあいつの炎の魔法で、村の人たちは全員殺されました」


 でもそれは一瞬にして暗く深いものに変わった。

 父親は子供を逃すため騎乗した騎士に立ち向かい槍で突かれ、母親は妹を(かば)って共に炎に包まれ、兄は首に縄を掛けられ引きずられたらしい。


「幼馴染は私を庇ってあいつの火魔法を受けました。全身に火を私は助けたくて手を伸ばしました」


 チェルシーは自身の手を見る。


「その時、火の勢いが増して、彼は一瞬で……」

「なるほど、初めて魔法を発動したんですね」

「はい。その後は私が魔法発動したのに気付いたサルマーンに捕まり、名前を変えられヤツの奴隷に落とされました」


 唐突に始まる自分語り

 人は理不尽な人生を歩むと誰かに聞いて欲しくなるので、魔法の事を聞いたのに身の上話をされたのは仕方がないと思う。

 なかなかヘビーな過去をお持ちのようで、聞くだけでメンタルポイント(MP)をゴリゴリ削ってきますよ。


「火の魔法を増幅して燃焼効果を上げたというところですか。炎獄の魔法使いと呼ばれるなら威力を上げるのなら欲しい魔法ですね。もしかすると、第二王子の時に巨大な火球を生み出していたのは?」

「サルマーンです。私が増幅していました」

「やっぱり。一際(ひときわ)目立ってましたから。ちなみにその炎獄のサルマーンにとどめを刺したのは僕の婚約者です」

「!?」


 驚いてる驚いてる。


「君たち第二王子の軍の背後から馬で飛び越えて、途中で大きくていい目標になる火球があったから槍を投擲したそうです」


 そこは俺も見てたけど槍の口径より大きな穴が身体に開いてたんだよね。対物ライフル並みの威力の投擲だ。


「婚約者は僕を守るために倒したそうです。なのでチェルシーさんの仇を奪ってしまったのは僕の責任ですので、恨むのなら僕を恨んでくれて構いません」

「は、いえ、そんなっ! ……私ではあいつを殺すことはできませんでした。お礼を申し上げたいくらいですっ!」


 頭を下げる俺に、チェルシーは慌てて違うと俺の言葉を否定してくれて、内心ホッとした。

 たまに世の中には自分がするはずだったのに! お前がやったんだから責任を取れと理不尽ギレする人がいる。彼女の慌て具合と申し訳なさで、そういうタイプではないようだ。

 いや確認しとかないと、チェルシーは主を脅かすかもしれないと考えるエイプ子爵に今晩中に暗殺されると思うの。彼女の発言が廊下で待機しているエイプ子爵に届くといいな。


「さて話を戻しますが、貴方は人の魔法の威力を増幅させるでいいんですね?」

「はい。サルマーンが言っていました。自分に都合が良い道具だと」

「んー、増幅魔法かぁ」


 俺は腕を組んで考える。


「確かにその魔法なら、努力も才能が無くても外付けで簡単に実力を伸ばせるのですから、国に喧嘩を売ってでも魔法協会は欲しがるでしょう」


 その昔、魔法がある世界だと知って竜〇斬を習得しようと、色々(・・)と調べたり研究(・・)したりした俺が知らないから、たぶん歴史上初の魔法だと思う。


「……やはり私はすぐに引き渡されるのでしょうか」

「その程度なら僕は引き渡します。国に報告すれば、う~ん引き渡すでしょうね」


 増幅魔法がどのくらいの脅威度なのか、俺がちゃんと報告すれば魔法協会との関係が険悪になってまで保護しないだろうし。


「でも今のところはそこまで話は進みません」

「え」


 ポカンとするチェルシー。


「僕は『正直に答えて重要だと判断したら要望を聞いてもいい』と先ほど言いましたよね。だから軽はずみに判断出来ないと考え、貴方の要望を聞くのは保留します」

「……それはまだ協会には」

「ええ引き渡しませんよ」


 ニッコリ笑顔で今の状態を保証した。


「それで保留の条件で一つ絶対に聞きたいことがあるのですが」


 いまだショタボディの俺は、下から彼女の顔を覗き込む。


「チェルシーさん。貴方は火魔法の大規模暴発の中心近くにいて、どうして死んでいないのですか?」

「え?」


 不思議だよねー。

 この部屋に来るまでにアリーから回復魔法で癒したと聞いたんだけど、それは裂傷や骨折で重度の火傷は聞いていないのよ。


 あ、のじゃ姫寝ちゃってる。


関心ショタ「どんな状況でも眠れるとは凄いなぁ」

のじゃ姫「Zzzz、むにゃむにゃ今日は池のお魚を獲るのじゃぁ」


奴隷紋や、なんか自動的に絞まる首輪とかある世界にすればよかったかなと、ちょっと後悔した回でした(´`:)


一つ謎を解決すると一つ謎が浮かんでくる。この負のスパイラルから筆者は逃げることが出来るのか!(≧Δ≦)


頑張って前話で宣言した通り、真面目な話を書きましたよ!(*´∀`)

コメディを書いてないのは何時ぶりでしょうか……。

その反動で短編書いたら[日間]現実世界〔恋愛〕ランキング1位をとりましたよ!

ただコメディゼロのバッドエンドですが…(-ω-;)

初恋を諦めることを許されない

https://book1.adouzi.eu.org/n6698kp/

救いの無いお話です。


よし次回はボケを入れよう。じゃないとアイデア帳から、また悲恋系を抜き出して書きそうだ(´`:)


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【コミカライズ一巻も発売するよ!】 【ハイブルク家三男は小悪魔ショタです1~3巻、コミックス1巻絶賛発売中!】 表紙絵 表紙絵 表紙絵 表紙絵 表紙絵
― 新着の感想 ―
今の章になって続々明かされる変態執事の有能さが凄いですね。 さすが変態なのに皆に認められるショタの専属執事。 チェルシーさん 3巻の初登場シーンで彼女を慰み者にする為の連れ去り後に魔法使いの素養があ…
黄昏よりも暗きもの、血の流れより赤きもの、時の流れに埋もれし偉大な汝の名において、我ここに闇に誓わん、我らが前にたちふさがりし全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを! 部下S…
更新ありがとうございます。 チェルシーさんが何故無事か。 確かにおかしいな、とは思ってたんです。火球が制御不能になってホッとしてたから、生きたいと思ってた訳でなく。なのに丸焦げどころかほぼ無傷。衣服…
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