真エピローグ覇王様は我慢の限界です
さ、流石に脳が死ぬる(´д`)
「どうしてここにいるんですかセルフィル様」
「……」
ほぼ王城に住んでいるダッシュ君が現れ詰問されてしまった。
もうダメだ死ぬしかない。
「どうして王様の執務室で、グリエダ様に抱き抱えられながら書類仕事をしているんですかセルフィル様」
「図太くなったねダッシュ君……」
「ふむ。それは成長したと褒めてやろうか」
「ここ三日ほど徹夜をしたら何も怖くなくなりますよ。あといりませんグリエダ様」
ダッシュ君が反抗期に入ったようだ。
でも今の俺には彼をイジる気力がない。
「私が答えてあげようか」
「はっ!? グリエダさん駄目―止めて―っ!」
「是非とも」
やだっ! 積極のレベルが上がっているわこの子!
「そうだな、まず数日前のセルフィルを覚えているか?」
「覚えていますよ」
「地獄から響いてくるような声だね」
「第二王子様の件でただでさえ机を埋め尽くしていた書類が、今は床にまで山となっているところに、『僕、報告書を書いたのでお仕事終了でーす♪ 戦後処理? それは貴方達文官のお仕事でしょう。僕は自分のお仕事の分はきっちりと終わらせました。内政の分? それは僕の仕事ではありません。いくら人員不足と言っても子供を酷使しないでください。するならお金を払ってくださいね。本気の僕を雇うと結構なお値段がしますよ。しょうがないですね、ダッシュ君とスナオ君が現場にいましたから参考資料に差し上げましょう。家には僕から伝えておきますから帰さなくて結構です』と言って、ハイブルク公爵様が休憩中に逃亡しましたから、よく覚えていますよ」
「声真似が上手いねダッシュ君」
「ハハハ、殺意を覚えると上手くなるようです」
そんなに熱視線を俺に向けても靡かないよ。
「私は、今回一番頑張ったセルフィルだから、ある程度目途が立ったので返してくれた。明日から学園でゆっくりまったりお茶でもしましょうと、本人から聞いたんだがな」
「少し盛った感じもしないわけではありません」
コラッとグリエダさんに頭を軽く小突かれた。
「でもでも、本当に自分の分の書類は終わらせたんです。追加は全部文官が限界を超えた分を僕にさせようとするんです。横暴なんですよ!」
「私は貴族の当主だから仕事として割り切れるが、そうかセルフィルは中等部の学生でする必要はないんだったね」
「僕もスナオ君も中等部生なんですが」
「ダッシュ君達は将来の為の研修だよ。単位も変換出来るように学園と交渉したから、ちゃんと卒業出来るよ」
いつの間に……と、絶句するダッシュ君。部下の管理をするのは上司の義務だよ。パラメータが低いキャラを特殊アイテムで最大値まで上げるのとか楽しくない?
「まあそこら辺は横に置いておこう」
僕は横に置かれるのか……、とか絶望しないの。
「自由になったセルフィル、ある程度辺境伯の仕事も処理出来たから学園に久しぶりに登校しようとしたんだ。ところがだ、早馬がやって来て王妃が城に来いと勅命を差し出してきた」
普通、勅命は王様しか出せないんだけど、今の国のトップは王妃様。娘が手元に戻って強引さがよりパワフルに。
「登城すると王妃とヘルミーナ様が額に青筋立てて待っていてな。そしてセルフィルにあるモノが渡された」
「あるモノ?」
うわぁその二人を怒らせたのという顔で見るんじゃない。
グリエダさんがツンツンと俺の柔らかい頬っぺたを突いていてきた。
え? ダッシュ君に自分で話せと?
「給金未払い通知書……」
「は?」
「だから深い部分はダッシュ君の命が危ないから言わないけど、僕が雇った情報屋兼暗殺者達の給金が支払われていないって、王妃様に通知されてたの!」
「言ったーっ! 僕の命に関わる事全部言ったーっ!」
「さすがに酷いと思うよセルフィル」
俺の恥を覗き込もうとしたんだから巻き込んでやる!
俺のもう一つのネットワーク、元暗殺者ギルドで構成された普段は平民、貴族の屋敷、王城などに入り込んで普通の生活をしているんだけど、お金を払えば情報から暗殺までやってくれる必殺な便利屋さん。
俺が作ったけど運営は彼ら任せで、ちゃんと俺もお金を払わないと動いてくれないのだ。
だからマロッドの件の情報を横流しして、ぼろ儲けした商人ズから支払わせることにしていたのである。
俺実は結構なハイブルク家を抜きにしてもお金持ちなの。商人達に未来のシステムを教えて儲けた分の何割かが彼等の中でプール貯蓄されていて、たまにノリで喫茶店とか作る時はそこから資金が出るようになっている。
商人ズも必殺な便利屋さんを使っているから、安心していつものように支払いをお願いしていたのに。
商人ズの長老が二度目の裏切りをしやがった!
俺に物資を頂戴されたのを怨みにもち、支払いをヘルママに送るように指示したのだ。ここまでなら、以前に商人ネットワークと同様に必殺な便利屋さんもハイブルク家に渡すつもりの様なことを零したから、ヘルママに知られるのは別によかった。
ただ問題はこれから、ヘルママは現在王城に滞在している。長老は『貴族の中で一番身分が高い女性に届けるように』と言ったらしい。
そこで伝言ゲームの法則が働いた。
ヘルママは王城にいる、では城で働く者に渡してもらおう、身分が低いから高位貴族に近寄れないから上の者に渡してもらおう、そしてそれをあと数回繰り返すうちに『一番身分の高い女性に届けるように』と変化してしまったのだ。
「愛娘と一緒に寝ている寝室に、支払い通知が置かれていたらかなりの恐怖だったろうね」
「言わないでください……」
朝に悲鳴を上げた王妃様は通知に書いてあった俺の名前から、ヘルママを呼び出し、そして俺が呼び出されたのである。
そりゃあもうヘルママにマジ怒りされたよ。
斬首じゃ生ぬるいぐらいで、ハイブルク家もかなりの損害を被るところだったんだから怒るよね。
助かったのは愚王の失脚、リリィの保護、マロッドと愚王派の貴族の壊滅の恩と、すぐ傍で俺を害したら殺すと殺気全開のグリエダさんがいたからであった。
「不問にする代わりに、その必殺な便利屋さんを寄越しなさい」
でも必殺な便利屋さんを王妃様に乗っ取られ、商人ズも関与していたことがバレて首元を掴まえられてしまう。
商人ズは国に不利益にならない限り不干渉ということになったけど、長老は他の連中に激怒されて、給料も無い商人ギルドの会長職に死ぬまで就くことになった。
「僕は無限お財布を限定凍結されて、ハイブルク家はヘルママのお怒りでお金を出してもらえず。得意な事務処理で王妃様に雇われることになりました。愚王の執務室なのは統合中枢詰め込み部屋だと、出戻りの僕を宰相が確実にからかってくるので僕がイラッとして殺さない為の対策です」
「私は街道を少し破壊した費用をセルフィルがこっそり出そうとしてくれていたみたいなんだが無理になったので、騎士団や貴族の私兵との訓練で支払うことになった。ここにいるのは訓練場に近いのと、セルフィルを膝に載せながら辺境伯の仕事をすると早く処理できることに気づいたからだね」
「あーあー聞こえません僕は知りません。これ以上国の闇の部分に関わらせないでくださいっ!」
途中から指で耳栓をし始めたダッシュ君に、二人で暴露大会を繰り広げる。
そしてダッシュ君は部屋から逃げ出した。しっかりと書類は置いていって。
「少し可哀そうな事をしたかな」
「いえ、聞きたくないふりをして逃げたんです。ダッシュ君の生き残る精神の図太さは中々のものですから」
あの折れない心は見習いたいとは思わないかな、逃げ癖が付きそうだ。
「しかし王妃に渡してよかったのかい。聞いた限りでは王都ではかなりの切り札なんだろう」
「ん~、惜しいとは思いますけどいいんじゃないですか。お金で買える部下は王妃様に必要だと思いますし」
忠誠心のある配下は得るのに長い時間がかかるけど、お金の関係は支払うだけで部下が出来るので、たった一人で頑張ってきた王妃様には今から必須だろう。
「ふーん」
グリエダさんは自分の書類から手を放して、俺のお腹に回してくる。密着度が高まり匂いと柔らかさが背後から迫ってくる。
「セルフィルは王妃とリリィにご執心だね」
「え?」
「だってリリィが来てから楽しんでいたろ?」
彼女は俺の肩の上に顎を乗せてきた。少しだけ見える綺麗な顔は口を突き出して不貞腐れていた。
え? 何? グリエダさんがジェラシー?
「構ってやるなとは子供相手に言えなかったから我慢したが、王妃は許さないぞ」
「えぇー。王妃様には力を付けてもらわないと貴族に力関係が偏り過ぎて、ちょっと待ってください!」
「い・や・だ」
覇王様、子供とその母親に嫉妬が爆発したようです。
そういえば二人っきりの時の密着度が普段より多かったような。あれは甘えだったんですね。でも一線を越える、こちらの理性を試し過ぎな感じがすると思うのですが。屋敷で一緒に寝る時は積極的だったし、愚王の寝室では背中越しだったけどポヨンポヨン。
あ、心のオッサンが白装束で穴に頭を埋めた。
そしてグリエダさんは俺の首筋に顔を埋めてくる。
はぅん。
「すぅー、良い匂いだ……」
「ふおおぉぉ」
くんかくんかされるなんて初めてで、身体が硬直してぷるぷる震えた。なすがままグリエダさんにオモチャにされて、解放されたのは数分後。
「ハァハァ、お、落ち着きましたか?」
「ん……。満足かな?」
「そこは疑問形にならないでください」
後ろを振り向くと、美女が少し上気して恍惚な顔をしていた。人に見せられません。
今回のでわかったよ。男は女性に口も物理も心でも勝てないよ。マロッドも妹にも恋人にも勝ててなさそうだし、ハイブルク家にいたっては男共は全敗だ。
「よしセルフィルを十分に吸ったから、騎士団との訓練に行ってこようかな」
「いってらっしゃいませ。グリエダさんが戻って来るまでお仕事を頑張ります」
俺は何を吸われたのだろうか。
一度持ち上げられて立ち上がったグリエダさんの後に座りなおされる。う~ん、愚王の椅子だから最高級な筈なんだけど、グリエダさんの太ももの上の方が座り心地が良いような。
バンッ。
「お勉強が終わったのじゃっ! 遊んでくれなのじゃセルフィ―!」
「……今日の訓練は中止だ。少し王女様に人の男に関わるとロクな目に遭わない事を教えようか」
「にょわっ!? わ、わらわの頭は掴むモノではないのじゃっ!」
「ハハハ、リリィぐらいの重さなら大丈夫。襟も念のため掴んでおくから」
「痛いのじゃーっ!」
王女にあるまじき扉の開け方をしてやって来たのじゃ姫。嫉妬が再燃した覇王様に捕獲されて入ってきた扉に消えていく。
「野生児化進行してない? そろそろ王妃様に監督責任で呼び出されるかも」
今のグリエダさんならそれも嫉妬の対象になるかもしれない。うん、その前に城を出れるように働くか。
「ああ、俺が望んだ学園ラブコメまで遠いなぁ」
マロッドお兄ちゃん戻って来ません? 今なら野生児のじゃ姫の教育係に就けますよ。
覇王様「よし、城が無くなればラブコメが出来るんだね」
ショタ「仕事が終わればですよ。物理的に城が無くなったら内乱勃発です」
これで第二章終了です。
王妃様に戦力が付いたので、国政が一気に安定します(^^)忠誠が無くてもお金で雇われるのは現代地球と同じシステムです。
覇王様は第二章の間ずっと不満でした。付き合い初めのバカップルで、ショタとずっと一緒にいたくてたまらない状態でした。そこら辺は前世オッサンのショタは落ち着きすぎて気づかなかったのです。ショタが悪い(`・д・´)
閑話を書くかもしれませんが、編集作業にこのまま入るので時間がかかると思います。一気に書いたから修正作業が怖いです……(つд`)
第二章を読んでいただきありがとうございましたー!(*´▽`*)
寝よう死ぬ
のじゃ姫「ありがとうなのじゃっ!」
お暇なら【釣り合う二人はバカップル】などどうでしょうか。ほぼコメディ、筆者は狂ったのか?と思える作品です。
ノクターン版
https://novel18.syosetu.com/n1277hy/
カクヨム版
https://kakuyomu.jp/works/16817139556484842815









