エピローグどっこい生きてたお兄ちゃん(+それぞれの結末)
サブタイでバレてーらヽ(´▽`*)ゝ
「あ、いたいたこっちですよこっちー」
俺がいるのは王都郊外だ。
目的の人物を見つけて手招きして呼ぶと、彼は周囲を見回してあたふたとこちらに向かって走ってくる。
ん~、余裕ぶっていた男は足腰の鍛錬が足りんね。
「ゼェゼェ、こ、こんなウェップ場所で目立っつエレレレレ」
「逃げ足を鍛えていないとは嘆かわしい。ほらもう少しですよ」
最初の勢いはどこにやら、よたよたと足取りおぼつかなく平民の旅装の姿でマロッドは歩く。なだらかな丘を登るって体力使うよね。選んだのは見晴らしが良かったのと地味な嫌がらせだ。
「ひぃひぃ」
「はいお疲れ様です。残念ながら水は持って来ていません。でも途中の行商のお婆ちゃんから買った果実はありますけど食べます?」
俺のいる場所にやって来たマロッドはそのまま受け身も取らずに地面に倒れた。顔が真っ青なので購入した果物を顔に近づけると、おぼつかない手を伸ばして受け取って齧り始めた。
「ブホッ!」
「それかなり酸っぱいですよね。でもその酸っぱさが疲労に効くと思いますので」
一度噴き出し、そして酸っぱそうな顔で齧る。幼少期食うや食わずの生活を送っていたらしいから食べ物の不味さの許容範囲は広いのだろう。
「ふぅ、それでなぜこんなところにいるんだい、セルフィル君」
「醜態をさらしていたのに、今さら格好つけるのもどうなんでしょうか」
回復したマロッドが俺の横に座る。
何故に横? え、元第二王子はそっちもイケるの!?
「まあ大したことではないんですが、処刑を一週間待っていたのに強制的に招集された兵士その一として平民に落とされて城を叩き出され。『ああ、これはセルフィル君の仕業だな』とか感謝して、乳母だった義理の母の墓参りから人生をやり直そうかとかしていた元王子様に気になる事を教えようかなと元ヒラリス侯爵領に行く街道を見張ってました」
「待って、今日一番気になったことをサラッと流さないで欲しいな」
「ちなみに僕は潜在的な敵なら処刑した方がいいと意見したんですが」
「したんだー」
「国の上層部が悲惨過ぎる貴方の人生に同情して、身分を死んだ平民兵士と交換して放逐となりました。ちなみにハイブルク家とアレスト家は全員処刑賛成派でしたね」
もう殺すつもりは無いですから腰をずらして距離を取らなくてもいいですよ。
「あ~感謝した方がいいのかな」
「生きていられることになら、まともな大人達にしてください。決定権は彼等にあるんですから」
「じゃあ妹達の為に動いてくれてありがとう」
「頼まれたお仕事でしたから」
「それでもさ。かなり無茶をしてくれたみたいだから」
返答はしない。
マロッドの兄妹のおかげで俺の功績と恩はすっからかんだ。まあ無くてもイタズラした時の残機が少々心許なくなったぐらいなのでどうでもいいけど。
「それで僕がどうやって助かったのかを教えるだけで待っていたわけじゃないんだろう?」
「それがメインだったんですけどね。ついでに気になりそうな事を教えたり、頑張ったお兄ちゃんに餞別でもあげようと思いまして」
え、そっちがメインじゃないのとか呆然としないで。
え~と、どこにやったっけ。
俺の後ろに置いてある荷物から紙束を取り出す。
「なんだいそのミミズがのたくったような線は」
覗き込んできたマロッドは酷い事を言ってくる。日本語で書いてあるんだから読めるわけない。決して俺の字がミミズの様に見えるわけではない!
「まず最初にのじゃ姫っ子リリィですが」
「のじゃ姫っ子?」
気にしない。
「王城で元気いっぱいに暮らしているようです。よく逃亡して木の上や屋根の上で盗んだ鳥肉を食べて骨を齧りながら寝ているのを発見されているみたいで、やらかしたお兄ちゃんに似たんですかね」
「僕のせいにしないでもらえるかな。ハイブルク邸で、やたら狩猟が得意になったのは報告を受けているんだからね」
知りませーん。そろそろ王妃様に呼び出し貰いそうで怖いの。その時は野生児化に大いに関わったロンブル翁も連れて行くつもりだ。
「では次に第一王女オーレッタ様ですが、王都の教会預かりになりました」
「……そうかい」
巻き込んだ妹には思うところがあるようだ。全く家族に甘々なお兄ちゃんだな。
「芸術の知識があるということでお手伝いを頼んだら、反逆者の薄幸な妹として箔が付かないかしらと持ち掛けられて、会わせた商人から還俗して商人にしないかと催促を受けて困っています」
「……あの子は結構気が強いから」
こっちは俺のせいじゃないぞ。顔を手で隠すな兄! でもハイブルク家が商品の一つにしているオタク文化芸術に特化しているのは秘密だ! 事実を知ったらマロッドお兄ちゃん憤死しそうだもの。
「そしてこれ以降は結末を知りたいと思います。まず貴方の祖父ランドリク伯爵は一族郎党処刑が決定しました」
「あぁ、それは嬉しいね」
妹達の時とは違い心底嬉しい暗い笑みを浮かべるマロッド。
「他の反逆者に認定された貴族も一家全員処刑です。騎士魔法使いは奴隷に、兵士は今までの罪を調べて労役を加算することになりました」
「兵も悪人を選んでいたけど、無理矢理連れ出された者もいそうだし妥当だね」
マロッドは淡々と罪悪感を感じていないように言葉を付け加える。
善人だけど甘くはない、為政者として本当に完璧だ。もったいないわ~。
「偽装工作で呼ぶフリをしたハイブルク領兵を入れる駐屯地を改造して、貴族専用の監獄地にしてますので気が向いたら見てみるのはいいと思いますよ」
「それセルフィル君の案だよね。悪趣味だなぁ」
「いえいえ、ついでに一緒に処刑方法も提案したら僕の管轄にされまして、子供になに任せるんだと憤慨しましたけど」
「何それ? 教えて教えて」
教えてあげると、物凄く嫌そうな顔をされる。
「あの時、全員戦死した方が彼等にはよかったと思うよ」
「殲滅するつもりだったんですけど、生き残ったからには使い潰さないと」
二人で雲一つない空を見る。
一人は憐れんで、一人は使う時に維持するのが面倒だなと思って。
十秒ほどでぼーっとするのに飽きてたので、次に進む。
「貴方が人質に使いリリィに恨まれる原因となったゼンーラですが」
「ゼンーラ?」
「貴族として生きるのは嫌だというので、王城の庭師として雇ってもらいました」
「ねえジェロイ君は覚えているけどゼンーラって誰?」
「最近、ハイブルク邸の庭園が良くなっていたなと思っていたら、メイド達がゼンーラに押し付けていたんですよ」
「改名? 改名したんだよね? 知っている前提で話を進めるの止めてくれないかな」
ちなみにジェ何某はジェ何某=ゼンーラに名を変更した。元のヒラリス子爵家が嫌になったかららしい。でも、のじゃ姫を守れる所にいたいとか我が儘を言ってきたので、ゼンーラになるなら都合をつけてやると言ったらあっさりと変更を了承したのだ。
ジェ何某部分が無くなると困るとかさらに追加してきたので、長兄にお願いしてジェ何某=ゼンーラ准男爵にしたのである。
「まあ城で働くなら貴族籍が必須だからね。でも思い切ったなジェロイ君……。会ったことは一度も無いけど」
ジェ何某=ゼンーラ准男爵になった経緯を教えると、マロッドは何とも言えない顔になる。短時間で興奮したり黄昏たりすると寿命が縮まるよ。
「あ、そうそう。そのジェ何某がいらないと言ったから宙ぶらりんになった貴族籍がありましてね」
「?」
「第二王女を保護育成した功績はあれど、何故か当主と後継が平民になって畑を耕したいと貴族籍を返上してきたんですが、どう扱うか王妃様も扱いかねていたので貰ってきたんです」
ポケットからこの国の貴族の証のピアスを取り出しマロッドに見せる。
「それは……」
「さらに何故か男爵に降爵してしまって男爵の地位なんですが要ります?」
誰もいらないものなら誰にやっても問題はない。
マロッドはゆっくり手を伸ばしヒラリス男爵のピアスを取り強く握りしめた。
「ありがとう」
「平民よりは身分を証明してくれますから。それとこれもあげます」
最初は手間を増やしがってと軽く恨みもしたが、結果は愚王の派閥はほぼ壊滅して今後の政が数段しやすくなった。
だからプレゼントをいっぱいあげようじゃないか。
ちなみに俺の後ろにあるそこそこの量の物資もマロッドにあげる用だ。商人ズの長老がヘルママに頼まれてヒラリス子爵の情報を俺に教えないようにしたり、俺の情報を一部マロッドに流したりしていたのだ。
その裏切り者から物資を大量に頂いたので、騎士団や戦ってくれたアレスト、セイレムに渡して余ったのを持って来たのである。
「これは?」
渡したのは小さな革袋。マロッドが覗くと中には石の欠片が入っているだけだ。
「王墓に刻まれた先王の名前を削り取った欠片です。どこに撒くもあなた次第です」
「っ!?」
驚くよね。驚いたなら許可してくれた王妃様とヘルママが大喜びしますよ。
どんな賢王だったとしても、親子の愛の為としても、やってはいけない上限を超えれば報復を受けるのだ。
惨めだな先王、けど死して鞭を打たれる覚悟で国を女の命を愚王の生贄にしたんだから、墓から名を抹消されるぐらい納得しろ。
「あとこれは物ではないですけど、側妃には自分の血が途絶える事実を伝え、愚王に呪いの言葉を掛けてもらいました。『第二王女は本当に貴方の子なの?』と、二人とも狂ったように叫んでいたそうですよ」
側妃は事実ではないけれど確かめる術がない彼女には、子も父も一族がいなくなるのは絶望だろう。
愚王は最後の糸を切ってやった。自分の子孫が続くのに執着するのは貴族の本能のようなものだ。愚王は第二王女リリアーヌという存在がいた。蔑ろにしていても自分の血は残ると心のすみにはあったのだろう。
だからヘルママに貴方の子なの? と言われて狂ったように叫んだのだ。疎んでも自分達の幸福の為に、傍に置いておかなければいかなかった王妃様。彼女が不貞をしていたら? 王家は乗っ取られてしまう。血が繋がらなければ自分を助けてくれなくなってしまう。
愚かな王様は王家という後ろ盾がなければ、ただの愚か者なのだ。死ぬまで自分の子供か疑心暗鬼で狂っていて欲しい。
「それは見たかったね!」
「迷惑を被った僕も見たかったです!」
二人で大笑いをする。
宰相が知ったら悶死する内容だけど、ここは街道から外れた丘の上で誰にも気兼ねはしない。
「さて、そろそろ行こうかな。もう話すことはないんだよね?」
「元王族で平民から男爵になったばかりの貴方には話せない事しかありませんね」
ヘルママと女性達が黒幕なんて絶対に教えられない。
街道を歩いていた時はどうしたらいいのかわからなそうにしていたマロッドの顔は晴れやかになっていた。
「どこに行きます?」
「ん~、まずは最初に決めた通り母上の墓前に報告をしに行くよ。そのあとは紅い花を観に行って、その先にかな」
俺の話から未来を予測しやがったよ。どれだけ優秀なんだろうこのシスコンお兄ちゃんめ。
「その後ろの荷物は僕が貰っていいんだよね? でも徒歩だから全部は持てないなぁ」
「それは大丈夫ですよ。貴方には責任を取らないといけない大切な人達がいるでしょう」
俺は王都に続く街道を指差す。
まだ遠いが荷馬車が数台こちらに向かって来ていた。その荷台から何人もの手を振る女性の姿が見える。
「……彼女達には僕のこと忘れて幸せになって欲しいんだけどなぁ」
「言っておきますけど、彼女達に脅されたんですからね僕」
たぶんヘルママから黒幕の女性達に、そして生存をマロッドの恋人達に教えたんだろう。惚れさせたんだから彼に責任を取れという国の裏ボスの優しさだ。
でも、詳しく教えないと王都で騒動起こすぞと、脅迫された俺だけ被害者だ。
立ち上がったマロッドの背を押す。
「マロッド=ヒラリス男爵。貴方はもう自由の身です。好きなように生きて、満足して死んでください」
それでも彼は妹達の為に暗躍するだろう。
家族思いで女好き、王になれるチケットを破いた男は、手を振る恋人達に応えるために走り始めた。
「さて帰りますか。グリエダさーん」
俺は彼等の反対側で白王に騎乗して待っていてくれたグリエダさんに合図を送る。聞こえる距離ではないのにこちらに向かってくる。う~ん、地獄耳。
グリエダさんが来るまで走り去るマロッドを眺めて思う。
彼には伝えられなかったことがある。
「たぶん真の黒幕は亡くなったヒラリス夫人だと思うんですよ」
ヘルママが俺に吐露した時に気づいたことだ。
ヒラリス夫人は今回の重要人物の殆どと関係があった。
王妃に成れる娘がいる侯爵夫人で、女傑のヘルママが敬意を表すほどなら貴族の女として最高峰の人であったに違いない。
でも愚王に疎まれて貴族が関わるのを恐れたとしても、娘を殺した男の子供を育てることが出来るだろうか。そこには兄妹を洗脳しようとする悪意があったと思う。
自分の代わりに実の親を殺してくれるように。
落ちぶれていくヒラリス家、ヘルママや女性達に助けを求めればどうにかなっていただろう。でも一切助けを求めなかった。
先王が生きていたら迷惑をかけるといえば美談とも見えるが、男の身勝手で女が落ちぶれていく様を見せつけていたら?
娘を見殺しにした男達に不信感をもつように。
姉を侮辱する息子に、娘を死に追いやった夫、彼女にはヒラリス家が憎悪の対象だったからリリィを預かった時に、王女と教えず養育費を取られ放題で放置した。
罰を受けてヒラリス家が無くなるように。
種を、一つでも復讐の実が生るように種を蒔き続けた。
先王を愚王を側妃を、その一族を、貴族の男共を、夫を息子に少しでも傷がつくように。
「ま、亡くなった彼女の気持ちなんてわかりませんけどね」
所詮たらればの俺の推測だ。
リリィは愛されていたと信じているし、リリィの兄同然にされたジェ何某がいればヒラリス家は残る。
善悪は生きているものが決めるのだ。
「ヒラリス夫人、貴方を知っている人の殆どは冥福を祈っていると思いますから、安らかに眠ってください」
復讐の一部は俺が有効活用させてもらいますけど、たまに見に来てもいいですよ。
「さあ、これで俺のお仕事は終わりだぁーっ!」
うーん、どんなお仕事でも終わるとスッキリするもんだね!
これで次回から学園ラブコメ『覇王様とショタ』が始められるぞ。楽しみだなぁーっ!
予告ショタ「次回! 学園でイチャつくショタと覇王様。そこにやって来る謎の男!彼はいったい何者だろうか!覇王様とショタにご期待下さい」
チャラ王子「最後だから言うけど、そのノリは僕でもツラい」
は~い、きっちりざまぁをしまたよ(´▽`)ノ
先王が国としては最大級の罰ですね。未来で賢王なのに墓から名を削り取られている。よほどやってはいけない大罪を犯したのだろうと評価されます。まーこの人がちゃんと対処すれば、誰も不幸にはならなかったのでやはり大罪かと(・・;)
たぶん皆何となくヒラリス夫人が種を蒔いたのに気づいています。彼女が憎悪に狂っていたのか、それとも赤子のリリィに会って正気に戻ったのか、その行動だけではわかりません。結末は彼女には悪くなかったと思います。
なんかショタがふざけたことを言っているので、次回オチ回で第二章終了です。









