黒幕
長くなったので、後でもう一話投稿します(_ _)
悪を倒し平和が国に訪れた。
で現実は済まないのである。
「捕縛したマロッドは貴族牢に入れて、兵は王都に残留したハイブルクの兵を集合させて王都郊外で監視勾留中です。愚王派の貴族で中、下位の半数は死亡、生存した者も重傷者が殆どです。高位貴族は無傷でしたので平民の重犯罪者用の牢に収容しました」
お仕事は指揮者が後始末までしっかりし指示しないと下の者が困るのだ。アホな部下数名を引き連れて先陣を切って打ち上げに行き、問題が起きた時にスマホを切っていた前世の上司には俺は絶対にならない。
「ところでどうして僕は脱衣所で報告をしているんでしょうか」
「そうねぇ。頑張った貴方に少しの休息を与える為に経緯を聞いておきたかったのよ。それともこれから動き出す関係各所との話し合いに参加するのかしら」
「ありがとうございますヘルママ」
目の前で悠然とお座りなさるヘルママにヘヘーと頭を下げる俺。
その日のうちに終わらせなければならないのは指示し終わり、戦闘中の埃にのじゃ姫リリィが投げつけたいろんな液体混じりの泥団子の汚れを落とすために、王城のお風呂を使用させてもらう事になった。
ハァハァ興奮するメイド達に下着まで脱がされたところで、ハイブルク公爵家の裏ボスであられるヘルママが俺に報告させにやって来たのである。
ヘルママは一部分がはち切れそうな豪奢なドレスを着て、やたら豪華な椅子を持って来させて座っている。その椅子夜会で愚王が座っていたのじゃないかな?
俺はパンイチで脱衣室の簡素な木の椅子に座らせられていた。なにこれそういうプレイなの?
「ご報告も終わったのでそろそろお風呂に入ってもよろしいでしょうか」
ぷるぷる、ショタのお肌は敏感で寒いのです。
「あら? 貴方が聞きたいかもと思って来たのもあるのよ。今は気分が良いから口を滑らせて何でも答えてしまうかも」
ヘルママが手を横にやるとセイトがワイングラスを差し出し、カルナがワインを注ぐ。そのワイン、ロンブル翁に報酬に渡した試作品ですね。取られたか哀れジジイ。
「ん~、ではマロッド王子を動かしたのはヘルママですね」
「そうねぇ。そうかもしれないわ」
俺の問いに、ヘルママはグラスに口を付けてクイッと一口飲んで答える。
やっぱり今回の黒幕は身内のヘルママですか。
「最初からおかしかったんですよ。まず第二王女を僕に預けるなんて正気の沙汰じゃない事が行われていますし」
「自分で言っていて悲しくないの?」
「聞かないでください」
いやだってねぇ。少し前に愚王を蹴落として短時間だけど国を乗っ取った美少年だよ。俺にはグリエダさんが傍にいるし、元暗殺者の変態執事に変態な三人メイドと石投げジジイと、ハイブルク邸は防衛戦力としては十分過ぎた。
「だから貴族が王族の保護なんて名誉にちょっかいを出さないはずないんですよ」
知っていれば干渉しないだろう。だけど俺は王都では第一王子の婚約破棄まで大人しくしていた。だから俺の総戦力を知らないで、覇王様の武力があっての口先だけと思っている貴族達はいたはずである。
「なのに一度も手を出されていないんですよね」
その異常な事に数日前まで気づかなかったのが恥ずかしい。誰か高位の貴族でも干渉しなければ、恩恵を欲しがるのが貴族なのだ。
「そうね。セルフィルに聞きたいのだけれど、女は弱者?」
「え、いきなりなんです? 強いじゃないですか。ウチの男性陣が勝てたことありますか、最近グリエダさん加入でも僕の勝率はゼロのままなんですよっ!」
「それは貴方が意識矯正を施したからでしょう。そうじゃなくてこの国の女性達よ」
う~ん疑問に質問で返された。
これは今世の僕の感覚ではなく、前世の俺で答えろみたいなんだろう。
「あまりよくはありませんね。女は男の所有物感が全体にあります。これは文明の発達がまだまだなせいで、知識を共有して集団という数で個々では不可能な……」
「そこまで詳しくは言わなくていいわ。そう所有物なのよ。平民も貴族も王族も女性全員が」
ヘルママは苦笑して俺の知識披露を止めた。そして僅かに憎しみを込めて自分達女性は男より下に見られているのを認めた。
「私はいくつも見てきたわ。でもね女は我慢するのよ生きる為に子供の為に、凄いでしょ?」
コクコクと頷く。心のオッサンも正座で頷いていますから眼力で脅さないでください。
「それも限度があるのを、この国の一番上にいる男達は知らなかったの」
「あ~」
この時、俺はわかった、わかってしまった。
「もしかして貴族の奥様方はかなりのお怒りでヘルママに手を貸したのでしょうか」
「そうね。貴方が愚王と呼ぶ男が婚約破棄をしてお相手が亡くなった時を覚えている女性の殆どは」
「……」
「当時は世代の中で最も優秀な彼女の死が私達は許せなかったわ。そして女の子を産むと彼女の母の気持ちがわかるようになるの。ねぇ、娘を国に差し出させて、いらなくなったとゴミの様に捨て、周りの男共は男一人の興味も引けないのかと踏み躙り追い詰め自殺……いえ、あれは殺したのね」
ヘルママはグラスに僅かに残っていた赤い紅い血の色に近いワインを飲み干す。
俺の予想は間違ってた。
ヘルママがリリィの成長を促すのと保護することで、王妃様に恩を売る為に貴族に働きかけていたと思っていた。
「アリシアさんが婚約破棄されたのは、その過去を思い出させ恐怖させ、その時の女の怒りを思い出させてくれたのよ」
それは全く違った。
「皆喜んで手伝ってくれたわ。彼女を嘲笑って手を差し伸べなかった貴族には王女の成長を守る名誉を得られないように、今動くのは得策ではないとその耳に囁くの。汚らわしい女の種は国の頂きどころかその正反対に落ちるように、その恋人達に反逆者になるよう噂を流すの」
ニッコリと妖艶なその美貌に少女の笑みを浮かべるヘルママ。
ヘルママだけではなく、この国の男共に不信感を持った女性達が今回の黒幕だったのだ。
「少しはヒラリス侯爵令嬢の死を望むほどの屈辱は晴らせたかしら。ヒラリス侯爵夫人の娘を殺された怨讐を少しは果たせたかしら」
彼女達は女の誇りを踏み躙った父、祖父、夫、子に口を出し、噂を流しささやかな復讐を行った。
それらは集まり絡まり一本の縄となり、愚王と側妃の首に実の息子である第二王子マロッドが掛け、二人の血が玉座に就くことは永久に不可能になった。
怖っ!
主導していたのはヘルママだろうけど、今回のマロッド反逆騒動の黒幕は貴族の女性達だった。それってこの国の上澄みの半分が愚王の潜在的な敵だったということじゃないか。
俺個人でマロッドに相対する為に根回したときにすんなり貴族が了承したなと感じたけど、あれご婦人方が裏で動いていたからなのかもしれない。
気づけば幾つもの誘導された箇所が思い浮かぶ。これマロッドは気づいていないよね。ハーレム野郎も女性の手のひらの上で操られていた道化でしかなかったようだ。俺もだけど。
「今回の件は、ハイブルク家の利益の為に動いたヘルママに操られた僕とマロッド王子の人形劇と思っていたんですけどねぇ」
「あら、それ当たっているわよ」
「へ?」
まさか裏で多くの女性に操られているとは、と言おうとしたら途中で遮った。
「私がハイブルク家の為に裏で頑張っていたのよ。ジョデリアは出産直後に手放しているから娘の王女を甘やかすのが目に見えているわ」
「は?」
「だから貴方の下で少し鍛えてから会わせようとしたの。ついでに第二王子と第一王女も排除出来そうだったからついでにね。セルフィルなら余裕だと信じていたわ」
「え?」
ヘルママの話に頭がついていかない。
「だからさっきのお話は嘘よ。冗談冗談」
そして混乱の渦に入り込んでいる俺に嘘と言いやがった義母。
「……あー、僕をからかったんですね酷いっ!」
「何でも答えてあげると言ったけれど、真実かどうかは私次第でしょ?」
ドッキリが成功したと笑うヘルママ。
よく目は笑っていなかったとかあるけど、彼女の目はちゃんと笑っている。人を騙すなら全てを演技しないといけないと言わんばかりに。
ヘルママは教えてくれたのだ。いや告白したかったのかもしれない。
ヒラリス母娘に今回起きたことを捧げたぐらいだ。愚王が婚約破棄した当時、ヘルママは二人と親しかったのかもしれない。
王子の婚約者になった優秀な少女と、その少女を育て上げた母親。ヘルママは同世代の地位の近い友人と、高位貴族の礼儀作法を教えてくれた先達を同時に失くしたのかもしれない。
貴族の女性達に自分の憎悪を吹き込み、ずっと愚王達に復讐しようと考えていたのかもしれない。
しかし、彼女は嘘だと冗談と告げたので質問は出来ない。相手のプライバシーに踏み込んではいけない事を知っているオッサンを心に飼う俺だからヘルママは吐露したのだろう。
すぐ傍にカルナとセイトが控えているけど、俺に忠実なメイドなので言いふらしたりしない。その前に自発的に耳塞いでるし、間抜けに見えるけどたぶん優秀だ。
「あ、そうそう言っていて思い出したわ。第二王女の資質はどうだったかしら?」
この国の女王候補はついでらしい。
「問題は無いと思いますよ。ただどのあたりで教育を間違ったのか行動力が野生児並みになりまして、王妃様に怒られませんかね僕」
「そこは素直に怒られなさい」
◆◆◆◆◆◆◆◆
あの後、俺が商人ネットワークだけでなく、王都の暗殺者ギルド(笑)をアレハンドロとメイド達と夜のお店一週間タダに釣られた石投げジジイを使って壊滅、まともそうなのを引き抜きいろんな場所に潜入させているのを吐かされた。
うん、路地裏に潜ませて逃亡する連中を処理させていたのがやり過ぎてバレた。変態執事だけでは取りこぼす可能性があったから仕方なくだったんだけど、駄々を捏ねて取り上げられるのは阻止した。
こういう時はショタで良かったと思う。オッサンでは気持ち悪いからね。
そして愚王と側妃に死ぬまでお仕置き区画から出れない事実を報告しに行くヘルママに幾つかお願い事をしてお風呂に入った。
一つは俺に多大な迷惑を掛けた報復と、マロッドの復讐をささやかながら叶えるために、愚王に一言伝えてもらうことだ。俺よりヘルママから伝えられるほうが信憑性が上がるだろうから、後で状況を教えてもらおう。
そのマロッドだけど、こちらも迷惑を掛けたのだから本人によく効く嫌がらせをお願いした。泣いて五体投地をして俺に感謝するはずだ。
「グリエダさん~入りますよ~」
風呂から上がった俺はある部屋、まだ取り壊されなかった愚王の部屋の扉を開ける。
後処理をしている最中にグリエダさんが、泣きつかれて眠っているリリィを抱きかかえていた王妃様に今回の褒章を求めた。
それは一晩王城の良い部屋を貸し切りにすること。破格に安い褒美だけど、アレスト家に人的被害は無かったからと押し切ったグリエダさん。
その後に俺にのじゃ姫護衛の報酬で一晩とか言い出さなければ格好良かったけどね!
太陽はすでに山の向こうに落ち、灯した蝋燭の明かりだけで薄暗く部屋の輪郭を闇でぼやけさせていた。
「グリエダさ~ん」
ベッドにこんもりと人の形に膨らんでいるので呼ぶが反応がない。
報酬は値切って添い寝を条件に入れてアレストの名に誓ってもらったから俺の貞操は安全だ。未成年でそういうのは心のオッサンが許しません。
「グリエダさ~ん……。あらら」
近づいて覗き込むと銀髪美女はスースーと寝息を立てて夢の中だった。
「まあグリエダさんでも幼女を乗せて白王で王都まで爆走すれば疲れもするか」
顔にかかる一房の髪を手に取りどかす。んんっと反応するグリエダさんは年相応の女の子だ。
毛布に潜り込み彼女の傍に寄っていく。
「報酬は添い寝ですからちゃんと履行しますよ」
俺もここのところ徹夜が続いたので眠いのだ。あ~すぐに睡魔がやって来そう。
……眠っているはずなのに長い腕が伸びてきて俺を抱えてくるぞ。あれ~? 背中側に生地の感触が俺の寝間着分しかないんですけど。柔らかいんですけどーっ!
「ん~♪」
「起きてる。絶対に起きてますよねーっ!」
ピンチショタ「アー!!」
覇王様「フフフフ♪」
一応書きます。イタズラだけです。力尽きて半脱ぎハァハァ汗をかいて艶めかしく見えるショタでも未遂でございます。
さあ黒幕はヘルママと女性達でした。
愚王のやらかしに先王の横暴な対処、女性を貶めたこれらは何時か爆発する可能性がありました。今回第一王子が愚王と同じ婚約破棄をしたことで静かに爆発、暗躍していました。
愚王の時に静観した貴族は今回も静観してお零れを一切貰えず。過分なラッキーを得た愚王の関係者は全員地獄に落ちることになりました。
因果応報、女舐めんなよです((((;゜Д゜))))
二人は相変わらずです(´ω`)
もう一話投稿してエピローグです。ラブコメに早く戻りたいなぁ(´Д`)









