騎士道(我欲)を貫きたくば倒せ!覇王様を……
頑張れマロッド!敵は圧倒的な覇王様だぞ!
今回の最後に反抗の意思を持つ者、それは騎士だ。
兵士の大半はその時その時に掻き集められるが、攻撃力が破格の魔法使いと個人戦闘能力が高い騎士は貴族や大商人らに高待遇で雇われる。
つまり、権力の下で傲慢で横暴に振る舞っていた殆ど山賊みたいな奴らが、今俺の目の前に数十名いるのですよ。
「マロッド王子は将の才を持っているようだね」
騎馬民族とバチバチにやり合っている辺境の地のトップのお墨付きをもらえるぐらい、マロッドは残った山賊モドキの騎士を上手く纏め上げていた。
「この殆ど終局に向かっている場で指揮を執るつもりということは」
「おそらくマロッド王子自身が先頭に立って、運を天に任せての一斉突撃での大逆転。を装った、逃すと確実に強盗盗賊に落ちぶれる騎士達を巻き添えにした自殺です。うへぇ、僕は王族の後始末係じゃないんですけど」
前に来たから良く見えるよ。
めっちゃ余裕のあるリーダーみたいに周囲の騎士モドキには見えるだろうけど、俺には良いものを見れたからもう現世には未練は無いと死を覚悟した笑みにしか見えない。
あ、こっちにウィンクしやがった。確定だな。
「もしかして対処できないのかい?」
「いえ、時間はたっぷり取れましたので、アレストのお爺さん達の弓とウチのメイド達の魔法で全滅させる態勢は出来ているんですけどね」
さすが戦場の一流の兵だ。何も言わなくてもアレストの爺さん達は配置を変えていつでも射れるように構えている。カルナとセイトはさっき命令しているからもう完璧にジェノサイド出来ちゃうの。
「このままだとマロッド王子も殺してしまうんですよ」
「セルフィルはマロッド王子を殺したくないんだね」
「もう少し詳細にすると死なせたくないですね」
先頭、もしくは中心にいても馬で突撃してきたらほぼマロッドは死ぬ。一流が使う精密射撃出来るコンパウンドボウもメイド達の大規模昏倒させる魔法も、高速移動する騎馬の集団で一人生かせるほど万能ではない。
なら今実行すればいいではないか。
たぶんそれをしたらマロッドは、己が最初から全員を裏切っていたことを暴露して憎悪を向けられて殺される。
己がここで死ぬことで大義名分を無くし、王族の人質という最終手段を残させないつもりなのだろう。あとリリィの玉座に座る障害にならないためかな? 本当面倒くさいまともなチャラ王子だ。
「ふむ……。よし、私がその悩みを解決してやろう」
「え? ちょ、待ってくださいぃっ!」
いっそのことマロッドも降伏した連中も諸共に処分すればどうにかなるかなと考えていたら、グリエダさんが動き出した。
手を伸ばして引きとめようとするけど、すでに彼女は土塁の防壁をマロッド側に下りていって届かない。
下りきったグリエダさんは、初手で使用した落とし穴を軽く飛び越え、焼け焦げた貴族と魔法使いを通り過ぎ。
マロッド率いる騎馬の前に立つ。
「第二王子マロッド様、アレスト女辺境伯グリエダは貴方に決闘を申し込む」
緊張のきの字も無く、サラリとヅカイケメン覇王様は決闘を吹っ掛けた。
マロッド側大困惑で、馬がぶつかり合っているよ。
俺? 顎カクーンです。
「図々しく遅参したこの身。少々武功が無いと婚約者に格好がつかないものでな」
「前線爆破に巨馬で空から降ってきたら十分ですって、戻って来てくださーいっ!」
「ほら彼も応援している」
「してませんーっ!」
グリエダさんが暴走し始めたーっ!
あ、でもマロッドの間接的な自殺が止められるかも。
「私には受ける必要性がないな」
もちろんマロッドに受ける気はない。
「そちらが勝てば王妃と第二王女は捕縛して構わない。アレストの兵は王城に残るハイブルク公爵家の者の保護をしてからの撤退を約束しようか」
しかし、グリエダさんはマロッドの発言を無視して条件を提示する。
だってさ。
「更に付け加えよう。私が敗北した場合、アレスト辺境伯家は今後第二王子マロッドに付くようにしようか。お前等それでいいな」
「儂らはアレスト家当主が決めた決闘を止めるほど無粋ではないわい!」
「「「おうっ!」」」
グリエダさんの言葉にランドン男爵が応え、爺達が肯定する。
ここまで破格の条件を突きつけられるのはマロッドではないのだ。
「マロッド様。ここは相手に応じなければ貴方の恥、そして配下の騎士である吾輩達の恥になりますぞ」
マロッドも気づいたのだろう。慌てた感じで口を開こうとして、体格のいい騎士が先に発言をした。
はいマロッドの自殺行為は止められました。
グリエダさんはマロッドと交渉する気は全くなかった。相手に選んだのはその周囲の騎士達。
「王族が決闘するのはあり得ない。代理で吾輩タエルスが騎士として相手を致そう」
そう、格好良く騎士道みたいな感じで出てくる欲深馬鹿に主導権を握らせるのが、グリエダさんの目的だった。
「待てっ! 私は応じないし許可もしないぞ!」
「いやいや、マロッド様。王族とあろう者が配下の心意気を汲まなくてどうするんです」
「そうでございますぞマロッド様」
マロッドが否定するけどそれはスルー拒否して、た、た、タウロス? うし君かな? まあタウロスが俺にノッて来てくれる。
いや~、体格からして強欲な馬鹿かなと予想したけど大当たりだったようだ。
これでマロッドは何も出来ない神輿になってしまった。
いくら王の才覚で操ろうと持ち手の騎士がろくでなしのクズだから、自分の利になりそうになったら即座に裏切ってくれる。消耗品としては使い勝手は良かっただろうが、ここぞという時に害にしかならないんだよな。
いや本当にお互い下から数えた方がいいぐらいに予想が外れているね。そして最後は俺達の手から離れて、人の暴力に委ねられた情けないところも同じだ。
でも一つ、マロッドお前はもうわかっているから諦めた顔をしているよな。互いの暴力に圧倒的な差があるからさ。
「では騎士タエルス。馬上かそれとも剣で勝負するか」
「ふん。剣だ」
グリエダさんの問いにタウロスは馬から降りた。白王の空から御降臨を見たら馬ではやらないよね。
「おい吾輩の剣を持って来い」
タウロスの後方から騎士が剣を抱えてやって来た。いや剣なの? 二人で抱えて持って来てるよ。
「むうんっ」
タウロスが両手持ちで剣を引き抜く。
「見ろ! これが特注で作らせた吾輩の最強の剣だ!」
「うえぇ」
剣を掲げたタウロスに思わず呻いてしまった俺。
いやだってさ、グリエダさんより頭一つ高いタウルスの身長を超えている超巨大両手剣を自慢されたらドン引きですよ。
え、何あのキワモノ剣、刃渡りだけで俺の身長よりあるんですが。やたら金ぴかに光るし、鍔にどれだけ宝石を埋め込んでるだろう。
心が痛い、いや心のオッサンが胸を押さえているよ。中二病だった頃に書いた『僕が考えた最強のドラゴンスレイヤー』みたいで心の奥底から泣いちゃってる。
「……それは振るえるのか? いや、うん、それでいいならいいんだ」
グリエダさんが敵を心配してる。
わかりますよ。あんな超大剣、上段からの振り下ろしぐらいしか出来ないはずだ。
「ふんっ。吾輩の上段からの斬撃を受けきれた者などおらんわっ!」
「……」
言っちゃったよタウロス君。
こちらを困った表情で見ないでくださいグリエダさん。きっと彼の言葉の駆け引きなんですよ。決して馬鹿正直に必勝の攻撃パターンを教えてくれるわけないじゃないですか。どうしてマロッドは頭を抱えているの? 止めて、最後のシメの敵がアニメ初回でやられちゃう雑魚ボスとかやめてぇーっ!
「来いっ! 吾輩の剣の錆にしてやるっ!」
俺の声にならない想いは届かず。タウロス君は超大剣を真っすぐに頭上に掲げた。
俺もマロッドと同じように頭を抱えたくなった。本当にごめんなさいグリエダさん、すっごくやる気が無くなったのがわかりますよ。でも最後までやり遂げてください。
「はぁ。来い、と言うのはあまりにも可哀そうか」
ため息一つ吐いてグリエダさんはタウロスに歩いていく。
それに僅かに驚きの表情を浮かべるタウロス。
「その剣は対個人戦用のものだろう。しかも逃げることを許されない状況に追い詰め、相手から向かわせるように仕向けて攻撃の届かない距離から一方的に斬り殺すための」
「ほう、よくわかったな」
グリエダさんの指摘を肯定するタウロス。
「吾輩の膂力でこいつを振るうと人がたやすく切れるのだよ。家族を人質にして親を向かわせて真っ二つにするのが快感でな。決闘を挑んでくるぐらいだから逃げはせんと思ったが、まさか正面から来るとはな」
タウロスは舌舐めずりする。
やっぱり愚王に媚びるクズ貴族の騎士はクズの中のクズだったようだ。
グリエダさんはそんな挑発に反応せず、ゆっくりと腰に差した自分の武器を抜き始めた。
「抜くのが遅いわっ!」
待つ構えのタウロスが勢いよく前に出て、グリエダさんとの間合いを一気に詰め超大剣を振り下ろす。
どうやら待つ姿勢は嘘で、先手を取る為の作戦だったようだ。
避けるタイミングをずらされたら受け止めるしか方法はない。だがタウロスの剣は超巨大で、その膂力も相まって容易く受け止めた武器ごと身体を切り裂くだろう。
グリエダさんは抜き終わった剣をそのまま片手で超大剣と自分の間に挟み込んだ。歩きながらの片手での力の入らない防御。
「無駄だ死ねぇいっ!」
タウロスは自分の勝利を確信しただろう。
でもね、お前の相手はグリエダさんなのよ。
そして、彼女が持っている剣は俺がロンブル翁と悪ノリで作った、牛どころか鬼を一刀両断出来る試作品オーガスレイヤー。
鬼を切るのだから切れ味は日本刀を参考に長さは一人で抜ける限界まで伸ばし、刃の幅は倍近くになり、厚みにいたっては三倍ほどになった化け物な片刃の剣になってしまった。
人の頭ほどの石を長距離精密投擲出来るロンブル翁が一振りしただけで、両腕肩腰首を壊した、オーガスレイヤーと名付けたのにオーガ本人ぐらいにしか扱えなくなった、狂気の沙汰ではない剣なのである。
俺のガラクタ倉庫の中で鎖を巻き付けて格好良く台座に差していたのを、グリエダさんが抜き放ってしまった。
聖剣魔剣の様にでなく純粋な身体能力で所有者を選ぶ剣が真なる主を得てしまった。
つまり何を言いたいかというと。
タウロス君が筋肉盛り盛りにして振るう超大剣、かたや片手でグリエダさんに
超大剣を超える重さで軽く振るわれる剣。
「は?」
パキンと音を立ててタウロスの超大剣は折れた。
両手上段振り下ろし対片手抜き打ちの圧倒的不利を、圧倒的質量と膂力でグリエダさんは覆す。
「たしか真っ二つにしていたのだったな」
グリエダさんはゆっくり振り切ったオーガスレイヤーを片手上段に構える。
ポカンと何が起きたのか把握出来ずにいたタウロスの表情が恐怖に彩られていく。
「ま、待て待て待て待ってぇっびょふぁっ」
「なむー」
折れた超大剣、兜、鎧を切り裂きオーガスレイヤーは地面すれすれで停止した。
思わず念仏唱えてしまった。クズにはもったいない。
「さて」
グリエダさんは血振るいしたオーガスレイヤーの切っ先をマロッドに向ける。
「言い忘れていたが、こちらの要望は全面降伏だ。受けるな?」
傲慢、超傲慢なグリエダさん。
「受けるつもりがないなら。来い」
「え?」
え? 何? 俺の後方からバカラッと馬の蹄の音が聞こえたと思ったら、太陽が一瞬遮られたよ。
そして目の前で白い巨体が地面を爆発させて着地した。
「ブルルッ」
「私とこの白王でマロッド王子以外を受けるまで処分してやろう」
壮絶な光景をもたらした美貌の女騎士と、空から強烈な登場をした白い巨馬に。
「うん。さすがに無理だね降伏するよ」
両手を上げてマロッドは降参する。
その顔にはここまでする? と書いてあった。
したのは俺じゃないから受け付けません。
訂正ダッシュ「本文の中に登場する騎士タエルスの名前がタウロスと表記されている箇所がありますが誤表記ではございません。ここにご報告させていただきます」
ハテナショタ「え?タウルスタウロスどっちなの?」
ダッシュ「タエルスです。全部間違っているのはセルフィル様の箇所なんですよ!」
タエルスタウロスタウルスがゲシュタルト崩壊起こしそうな筆者です(´д`)
さあ覇王様の覇王っぷりで強制決着が着きました(´▽`)
一年近く城門前を書いてましたよ……(;・д・)しばらく戦場シーンとヒラリス親子は書きたくありません。てかヒラリス親子は二度と書かん!(▼皿▼)
覇王様の剣オーガスレイヤー登場です。日本語訳は鬼切丸。長さは携帯出来る範囲だけれど、重さは考慮されていないバケモノ片刃剣です。覇王様しか使えない剣です。聖剣魔剣よりも持ち主を選びます。
さあ、次回から楽しい戦後処理エピローグ(●´∀`●)
黒幕は誰だ!ダッシュだ!
ショタ「黒幕は死ねー!」
ダッシュ「僕なわけないでしょうがーっ!」









