子供は子供の道理がある
のじゃ姫は良い子なのです(っ´ω`c)
「嫌い嫌い嫌いなのじゃーっ!」
リリィは泥だんごを投げる。
手元に無くなると、すぐさま屈んで土を握って投げる投げる。投擲でスナイパーをするロンブル翁がコーチをしたおかげで、六歳なのに投げるのが上手い。
「ほっはっとりゃっ! どうして僕にだけ、涙だけじゃなく鼻水涎混じりのを投げてくるのっ!?」
その泥だんごの的の一つ、セルフィルは器用に避けていた。それでも周辺に当たって砕けた泥だんごの破片は彼に当たって少しずつ汚している。
反対側にいるマロッドにも泥だんごは投擲されているが、セルフィルよりも距離があって届いていない。それでも近寄るなと言わんばかりに泥だんごを投げつける。
それでも全力拒否にマロッドお兄ちゃん、かなりショックを受けていた。
「あ、あのねリリィ」
「うるさいのじゃっ!」
一言でも喋ろうとすると、泥だんごではなく土を直接かけてくる。お前には泥だんごも勿体ないと暗に言われているようで更に倍で内心落ち込むマロッドだった。
セルフィルとマロッドは子供相手にやり過ぎたと考えた。だがこの二人はリリィの一番触れて欲しくない心の内に爪を立てたのに気づいていない。
彼女は生まれてすぐに追いやられ、育ての親の乳母もたった数年で亡くなった。リリィは幼いうちに二度も居場所を失っていた。
ただ一人、縋れるはずのジェロイは暮らしを維持できずに託すことを選んでしまう。
「ここに来て何が悪いのじゃっ! ジェロイを助けて何が悪いのじゃっ! 悪いことをした兄上をメーッして仲直りしたいのじゃっ! わらわのを取る奴は許さないのじゃぁあぁぁぁっ!」
リリィはもう泥だんごではなく土を掴んで、届くなんてどうでもよくてただ自分の主張を表す為に投げていた。
「あー、僕間違えましたか」
「……」
マロッドは母同然の乳母の復讐と妹が幸せになるように、国の淀みである貴族達を巻き込んで敵にまわった。
セルフィルはリリィの覚悟を聞いて、その望みが叶うように教育した。
ジェロイもリリィの為にと離れようとした。
誰も彼もがリリィの為にという名目で、少女の心をないがしろにしてしまった。
「ババ様はいなくなったのじゃ。もうジェロイにはいなくなって欲しくないのじゃ」
六歳、人の死を理解するにはまだ早い。でも傍にいてくれなくなったのはわかるから、大切な人にはいなくなってほしくなかったリリィ。
「わらわには兄上と姉上がいると知ったのじゃ。でも悪い事をしてるからメーッして仲直りしたかったのじゃ」
リリィは誕生日の度に送られるプレゼント。乳母から『貴方を大切に想ってくれる人達がいるのよ』と教えられていた。ハイブルク邸で兄と姉がいると知って、もしかするとプレゼントをくれた人達かもとワクワクした。
兄がジェロイに悪い事をしたのはきっと理由がある。だから叱って皆で仲良くしようと、自分が皆の居場所になろうとしたのに。
「もう知らないのじゃぁっ!」
お前はいらないと二人に言われて頑張ろうとした気持ちが折れた。
この場所は危ないから避難しろ、いい経験になったろ? あとは俺達に任せなさい、という意味が含まれていたのだが、幼いリリィに察しろというのは無理があった。
自分の作る皆の居場所はいらないと言われたようにリリィは受け取ったのである。子供に大人の道理は通じないのだ。
泣きながら暴れるリリィ。
セルフィルもマロッドもリリィの想いはたぶん届いた。
だがそれに構っているタイミングでもなかった。
しばらく放置していれば子供なので体力が尽きて大人しくなるだろうが、その前にマロッドによって夢に毒されていた兵達の目が覚めてしまうのが早い可能性があった。
グリエダによる派手な登場によって意識が飛び、訳も分からず小さな王女が出てきてそちらに注視することになった彼等だが、意識が戻れば目の前のリリィを自分達のマロッドの敵と認識するだろう。
下手にこの場の責任者の二人が安易に行動を起こすと、マロッド陣営の兵は緊張の糸が切れ暴徒と化して、どんな行動を起こすのか予測不可能な状況であった。
セルフィルは二人のメイドに命令を出すのを、マロッドは兵士達の注目を一度自分に向けさせる為の言葉を発するタイミングを計っていた。
ぶっちゃけるとセルフィルはグリエダがリリィを担いで安全な場所に移動してくれるのを望んでいるのだけれども、グリエダはどこ吹く風で楽しそうな笑みを浮かべているだけだった。
すぐに兵達の間からざわめきが出始める。
リリィはまだまだ元気いっぱいに泣き喚いているが、場はもう限界だった。アレストの老人兵達は身体の下でコンパウンドボウを引き絞り、セルフィルは腕を振ろうと力を入れ、マロッドは深く呼吸を吸う。
リリィの癇癪は最悪の状況を作り出そうとし、それはもう止めることはその場の者には無理であった。
そうその場の者には。
針の一刺しで爆発しそうな場にありえない音が響いた。
マロッドから見たら正面、セルフィルにとっては背後にあって守る存在の城門。
それが重厚な音を立てて開いていってるのだ。
再度、場が城門に注視して停止した。
わずか一人分の隙間だけ開いて停止する城門。
そこから一人出てくる。
今のエルセレウム王国で頂点の地位にいるのに華美な装飾を施していないドレスはしわによれが入りまくり。綺麗にセットしてあるはずの髪は幾か所もほつれ。激しい運動なんてしたこともないだろうに荒い息をし。
「リリアーヌ?」
リリィの母、エルセレウム王妃ジョデリアが現れた。
覇王様「場が混沌化していくのは楽しいな♪」
パニックショタ「ヤバいこんなの想定してないよほ~」
子供の突拍子な思考を読み解くのはかなり難しいです。でも理解すると、親や友達の為の行動を取っていたりしてます。ちゃんと理由があるのです。無いときもありますが(^^;)
リリィは六歳、居場所が欲しかった女の子です。自分で居場所を作ろうとした頑張る子供なのです。なので悪いのはショタ、チャラ王子、ゼンーラ。関わったのにリリィの気持ち全無視でしたから戦犯です(`・д・´)
登場王妃様。それは次回で~(´▽`)
あと、いと憐れランドリク伯爵達(合ってるかな?)、場を全てを幼女に持っていかれてたぜっ!(∩´∀`∩)
愚王の裏目魔法バックファイヤーは遺伝じゃなくて感染するのかな?怖っ!(;・д・)









