前門の兄後門の笑顔でナイフを投げるショタ
忘れてた100話だー!(●´∀`●)
マロッドは厳しい顔でリリィに言い放った。
「せ、せんじょーなんて知らないのじゃ」
「知らないで来たと?」
「ひぅっ」
何とか絞り出したリリィはマロッドに詰問されて怯む。
幼女の妹に容赦ないわ。
「そこの穴から這い上がっても隠れようとしているダッシュ君」
「はいぃ!?」
石畳玉座裏の避難用落とし穴から這い上がってきていたダッシュ君に声を掛ける。こっそり逃げればいいものを、俺の愚痴をブツブツ言っている面白いダメっ子だ。
「君はマロッド王子の目標は知っているよね」
「え、王様と側妃様を殺害って僕とスナオ君に暴露してくれましたよね」
「ちゃんと覚えていたね。覚えていなかったらGS持たせて突撃させていたとこだよ」
「え」
「……スナオ君、喜んでその槍を差し出そうと動いたのは忘れないから」
部下達が友情を育んで幸いだ。
「マロッド王子の一番やりたかったのは育ての親の復讐だったんだろうけど。それがどれだけ困難で迷惑をかけるかもわかっていたと思うんだよね僕は」
いや本当にマロッドを王にしたい。
「子供は目標に真っすぐに進んで成功か失敗の二つで終わってもいいけど、大人はそうもいかないよね。マイナスにならないように悔しくても妥協する覚悟が必要なんだよ」
マロッドは愚王殺害を諦めている。
俺だけなら何とかなると考えていたようだけど、グリエダさんというジョーカーが場に出るとあっさりと捨てた。
「わ、わらわはジェロイをイジメた兄上にお説教しにきたのじゃっ!」
「ジェロイ? ああ君達を王都から引き離す為に使った男だね。それがどうかしたのかい?」
「ジェロイはいっぱい怪我をしてたのじゃっ!」
「……君と私は敵対しているのだから怪我させる可能性があるのは当然だろう」
「悪いことをしたら怒られてはんせーしないといけないのじゃー!」
「反省する気はないし、私達は敵同士だから怒られるわけにはいかないな」
「……のじゃ?」
リリィは首をコテンと傾けた。
ちゃんと聞きなさい。お兄ちゃんは妹に嫌われて死ぬ覚悟をしたのだから。
生まれは愚王のせいで悪かったが、周りの人には恵まれたリリィを否定する悪人を演じてくれている。
グリエダさんの登場でリリィの女王就任は決定した。国を傾かせかけた第一王子に、反逆中の第二王子、その二人と同じ母の第一王女を王位に着けようとする貴族はいない。残るのは一人だけ、直系で王妃の娘リリィしかいない。
いくら王妃様やセイレム公爵、ウチの長兄がいても、幼女では舐められて欲望と悪意をもって近づく者は出てくるはずだ。
マロッドはそいつらの前に反逆者として死ぬしかない己で悪意の体験をさせるつもりなのだろう。
アホだ家族愛過ぎるマザコンシスコン野郎だ。子供にもわかりやすい言葉を使っているのがもろバレだぞ。
「さあ、大人しく怒られない私をどうする? 抵抗どころか君もセルフィル君達にも襲い掛かるぞ」
「ひぅっ!」
マロッドが子供を怖がらせる叔父さんにしか見えない。
こうもう少しシリアス感を出してくれない? シスコンだから無理? コンが付く病は死ぬまで治らないかー。
しょうがない俺が手伝ってあげよう。
リリィは高いテンションで乗り切れなくなり。オロオロと周囲を見回して、ズタボロの兵が自分を凝視しているのにひょえっ! と悲鳴を上げ、黒焦げの貴族達の死体に口を押さえた。
そして俺の方を縋るような目で見てくる。
最初に隣のグリエダさんを頼らなかったのは何か言われたからかな。無償で助けてくれるのはヒーローで、責任を負う貴族は損得で動いてくれるのだ。
ですからマロッド陣営を見回して楽しそうに笑みを浮かべないでくださいグリエダさん。ステイ!ステーイッ!
「セルフィ~」
助けを求めるリリィにニッコリ笑ってやる。
それに安心したのかパァーと光る笑顔リリィ。
「襲い掛かってくるならこちらも迎え撃つ準備をしないといけませんね。でもリリィが助けに行ったままなら余裕だったのに。あ~あ、リリィが挑発したから何人か怪我するかも。いや死んじゃう?」
そして俺の言葉にすぐに絶望的な顔になったリリィ。
甘い。敵は前だけじゃない、後ろからナイフで刺してくるのだ。ここらで一度味方がいない状況をリリィには味わってもらおう。
命を懸ける現場で安全を確保して、ボッチになれる経験は滅多にないし。
「こちらは役立たずの貴族が死んで前が開いて突撃しやすくなったな。魔法使いの損失は痛いが、これからは体力の無い彼等はいなくてもいいけどね。これも感情だけで動いた妹のせいかな」
マロッドも俺に乗ってくれるみたいだ。
麦は幼苗の頃に足で踏みつけられる。変に成長しないように、寒さに強くなるように、根が強く張るように、期待を込めて踏むのである。
幼いリリィは優しい敵と、尊敬すべき俺によって踏まれる。その未来が幸せになるようにと想うマロッドと、俺はここで踏ん張ればマシな女王になれるかなぐらいの気持ちで。
「ふぐゅう~~」
リリィはオロオロと周りを見渡すが、誰も手を差し伸べなかった。
アレストの爺さん達は危ない事をしている孫を見守ってアワアワしている感じになっているけど、当主のグリエダさんが動かないから動けずにいる。
「お飾りなんだから、誰かに逃がしてもらいなさい。そのくらいは待ってあげよう」
「それではこっちはただでさえ少ない人を割かないといけないじゃないですか」
「ううくきゅぅぅぅ」
マロッドとチクチク言葉の棘をリリィに向けて投げ刺していく。
心が痛まないのかって? 愚王派の貴族を壊滅出来る機会を、マロッドを叱るというだけで台無しにされればねぇ。あと久しぶりに『暴徒鎮圧魔法重度の二日酔い』を使用できなかったせいではない。
リリィの顔が困惑、憤怒、悲哀とコロコロ変化する。
だからまだいけると俺もマロッドも考えてしまった。
俺はハイブルク邸でかなり耐えて頑張れる良い子と思っていた。マロッドは苦しい生涯を送るかもしれない妹に少しでも教え伝えようと考えたのだろう。
だから六歳の子供の限度を間違えた。
「リリィ。君は決着が着くまでここに来てはいけなかったんだよ」
「大人しくあちらで待っていて来ないほうがよかったんですよ。リリィ」
リリィの顔から表情が抜け落ち、空気がピシリと鳴った気がした。
そこで俺は、たぶん女好きのマロッドも気づく。
リリィはその場に蹲る。そしてカルナの土魔法で剥き出しになった土を手に取り、ギュッギュッと丸め始めた。
隣のグリエダさんが一歩横にずれてリリィから距離を取る。
前世でよく見た。心に溜め込んでいる人ほど、その人の心の壁の限度を壊す言葉を投げつけられたとき、感情が一度リセットされるのだ。
「あ、あの~リリィさん」
「……」
無視。そして泥だんごが出来上がり、二つ目にリリィは取り掛かる。
「リリィ?」
「……」
マロッドも無視された。
たぶん女性関係ぐずぐずのマロッドもリリィのようになった女性の相手をしたことがあるのだろう。
リリィの二つ目の泥だんごは、ポタポタと落ちてくる涙を吸って結合力が増していた。
肩を竦めてやっちまったな感を出さないでグリエダさん。
「うううう」
リリィは出来上がった泥だんご二個を両手に持って立ち上がる。
「「「……」」」
涙をボロボロに流し、歯を噛みしめ可愛い口を歪ませたその姿に、この場にいる誰も何も言えない。
「……さいのじゃ……るさいのじゃ。うるさいのじゃぁーっ!」
リリィが爆発した。
そして俺とマロッドに泥だんごを投げてくる。ロンブル翁に習ったのか、投球フォームが綺麗だ。
「僕の方に利き手で涙付き泥だんごっ!?」
「嫌いなのじゃーっ!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
少し時間は遡り、城壁の上。
「あら? もう飲んでいるの」
「おう。儂の仕事は終わったからな。あとは高みの見物だ。そっちこそこんなところに来ていいのかよ」
「さすがに母親になられたら止めようがないわ」
「カッカッカッ! そりゃ違いない。母は強しだもんな。あ、儂の酒ぇっ!」
「数本貰っていくわね。今回の隙を狙って動き出そうとするお間抜けな貴族を抑えるのに使わせてもらうわ」
「待て待て待ってぇー! それセルフィル様の作った中でも試作品でもうねえんだよ。持っていくなら……くっ! こっちのにしろっ!」
「相変わらずお酒に汚いわね」
「酒と女の子と、ちょっとした刺激が若さの秘訣なんだぜ。ところで、これどう決着すると思う?」
「そんなの考えるまでもないわ。世の中は情と暴力で大体は解決出来るの」
懐かしショタ「怒鳴るしか出来ない上司に追い詰められた新人君が同じ顔をしていました。ある日奇声を上げて退職届を拳で上司の顔に叩きつけて、奇妙な踊りで出ていきました。スッとしたなぁ」
ダッシュ&スナオ「「何そのおかしな空間」」
マロッドとリリィの対峙シーンがあると予想した人は多いでしょう。それを裏切るのが捻くれ筆者です(∩´∀`∩)
だってのじゃ姫6歳だから口で勝てないの(´д`)
さあ次書こ書こ。
あ、第二章の主題は王位継承のお話ではありません。









