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雰囲気でお読みください。
二人は今日も伝達魔法で今日あったことを話しているようだ。
『今日お城で会ったとき、私のこと笑わせようとしたでしょ。』
『ごめん、あんまり君が令嬢らしくしてたものだから崩したくなってね。』
『王女様のお茶会よ。令嬢らしくもするわよ。それなのにあなたがイザールはハゲなんてハンドサインで言ってくるから。イザールを見るたびに笑いそうになって大変だったわ。』
どうやら令嬢は王城での王女様のお茶会に呼ばれたらしく、王子がお茶会に顔を出したときハンドサインで自分の護衛の髪型について令嬢に伝えたようだ。
『ごめんって。それより明日はまたすれ違い防止について話すんだろ。』
『話をそらしたわね。まあ、いいわ。すれ違いにまた新しいパターンが出てきたのよ。詳しくは明日話すわ。』
夏の日の午後。陽射しは強く、肌を焼く。風通しのよい東屋ではあるがじんわり暑い。
冷たいお茶が体に嬉しい陽気のなか、二人の子供が冷えたゼリーを食べながらお茶をしている。
一人は形のいいおでこに薄い唇の男の子。もう一人は片えくぼに少し低い鼻の女の子。この国の第三王子のシリウス・アンタレスとその婚約者である侯爵令嬢スピカ・ミアプラである。
ゼリーをつるっと飲み込んで王子が話す。
「それで新しいパターンってなんだい。」
令嬢はめずらしく元気がない様子で答える。
「最近流行ってるお話があるの。簡単にいうと王子と平民が恋に落ちるの。その王子には公爵令嬢の婚約者がいるのだけど、婚約を破棄して平民と結婚するの。婚約破棄された公爵令嬢は追放されてしまうのよ。」
「婚約解消ならわかるけど、なんで破棄に追放なんだい?」
「公爵令嬢が平民をいじめていたからですって。だからって、だまし討ちでパーティー中に婚約破棄して追放だなんてひどすぎるわ。破棄する前にちゃんと両家揃って話し合えばいいのよ。」
「なるほど、君は公爵令嬢に感情移入して落ち込んでいたわけだ。」
なんで元気がなかったか分かったよと王子が笑いながら話す。
「だって、私は王子の婚約者だし、侯爵令嬢でしょ。感情移入もするわよ。」
「僕は第三王子だし、君の家に婿入りする予定なんだから心配する必要ないと思うけど。」
「あなたもいきなり婚約破棄するんじゃなくて、事前に相談してね。でも問題なのは平民の女の子が魅了の魔法を使っていた場合なのよ。」
「魅了の魔法?」
「魅了の魔法で王子やら側近やら宰相やら近衛騎士やら、みんなでその子を取り合うの。そんなことになったら国家の危機よ。」
「魅了の魔法か、防止する方法は思いつかないけど、魅了の魔法なら神官なら解けるはずだよ。」
その言葉で令嬢はハッと顔をあげる。
「定期的に教会に行けばいいのよ。それならたとえ魅了の魔法にかかったとしても傷は浅くて済むわ。それに併設されてる孤児院の支援と視察を名目にすれば定期的に訪れてもおかしくないわ。」
そんなこんなで二人は月に一度教会と孤児院を訪れるようになったのだった。
紅葉から雨が滴る秋、少し肌寒く感じる日。暖かいお茶がちょうどよい。少年と少女がアップルパイを食べながらお茶をしている。
少し大人びた表情に笑みを浮かべ相手の話を聞いてる少年はこの国の第三王子のシリウス・アンタレス。少年に対して大きな瞳をきらめかせて嬉しそうに話しているのはその婚約者である侯爵令嬢スピカ・ミアプラである。
「いよいよ来年、学園に入学するのねっ。一般的な物語だと、この時期にすれ違いが起きるのよ。」
「この数年間いろいろ学んだよね。まさか魅了防止の魔道具の開発や魔法を使えない状況を仮定したサバイバルまでやるとは思わなかったよ。」
あの時は本当に大変だったよとぼやきながら王子が話す。
「何が起きるか分からないでしょ。でも監禁されても抜け出せるし、市井でも生き抜いていける自信がついたわ。」
令嬢は自信満々で話しているが、王子は呆れた様子である。
「君は剣まで習い始めて、何を目指しているのだか。」
「そんなこと言うならシリウスはやらなくてもよかったのよ。王子教育もあったし大変だったでしょ。」
「婚約者の君がやってて僕がやらないなんておかしいだろ?」
「そうかしら。でもこれで大抵のことには対処できるはずよ。もしも婚約破棄されて追放されても生きていけるわ。」
「そんなようにはならない為に頑張ってたんだろ。」
「そうだったわね。」
二人で笑いあいながらお茶の時間は過ぎていくのであった。
もろもろお許しください。




