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けだし あやかし〜最強幼女がぐいぐい来てちょっと困るけど幸せだからまぁいいや。  作者: さくらさくらさくら


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西の水妖・奪還戦(物理)

 ほんのりと目の端を桃色に染めて、わらしさまが顎をつ、と差し出した。

「う」

『腹を据えろ、真人! おなごにここまでいわせて恥ずかしいと思わんか』

「わ、わかってらあ!」

 ぎゅっと目を閉じて、細くて折れちゃいそうな肩を、力を入れすぎないように気を付けながら、触れて引き寄せる。おそるおそる顔を傾けると、ふうっと吐息が顔を撫でた。

(ぬしさま)

 ふにっと、くちびるにあたたかくてやわらかい感触があった。電流みたいなものが背筋を通って、腰から足の先、脳天まで花火のように突き抜ける。

「ん、ん」

 くちびるだけじゃなく、顔全体が沸騰したみたいに熱くなった。

 重なり合う柔らかな感触に、恥ずかしくて、叫びたくなるような訳のわからない衝動を抱く。その反面、全身全霊でこの幸福の感覚を、忘れないようにと味わった。

 やわらかい、あたたかい。

 吐息が甘くて―――甘いはずはないのに甘いと全身が叫んでいた。


 風が舞う。

 つむじ風のように渦を巻いて天へ突き抜けていく。

 ぱた、ぱた、ぱたたと水滴が雨のように落ちてくる。大蛇の引き出した水が、風に吹き上げられたのだろう。

 そっと目を開ける。

 いつか見たつややかな美女がそこにいた。あの日見た、想定したとおりの変化は、すでに終わっていた。

(ぬしさま)

 いつもなら下げて合わせるはずの目線さえ、そのままだ。同じ目線でまっすぐに瞳を見込まれ、心臓まで射抜かれる気分になる。

 そして、すべてを見通すような、まっすぐなまなざしで―――微笑んだ。

 オトナのわらしさまは、破壊力が半端ない。

 あでやかに染まった目の際も、鮮やかな血の色の唇も、白くてたおやかな首筋も、ぺたんこだった胸元も、いやいや待て、俺。待て俺。今から親父を助け出そうとしているのに、手助けしてくれてるわらしさまにあやまれ。

 後光が(いや、光輪か?)目に染みるわ。神々しくてまさに女神。そう、女神なんだよ。もとから!

 童貞高校生には刺激が強すぎる。

 くっ、まぶしいほどに清すぎて、汚れっちまった俺には、とても直視できない……!


(とても良い気でございます。一度のふれあいでここまで満たされるのも、ぬしさまの清廉な気質あってこそ……(ふふふ初心なわらわを手籠めにする野卑な男の心情を思い知る日がこようとは。さすがわたくしが見込んだぬしさま……)←)


 袂から茶扇を手に取り、つうと俺を流し見―――ずきゅん! と、撃ち抜かれた。イチコロダ。

 ぐっと胸を抑え込む俺に、わらしさまが茶扇に吐息をのせてささやく。


(ぬしさま、時雨を召喚召され)

 はっとして、いかんいかん! と首を振る。色ボケしてる場合じゃないんだ。

 本来の目的は親父の奪還だ。

 ふふふと笑ったわらしさまは、ぱちりと茶扇を閉じると帯に挿しこんだ。

「わかった。時雨、行けるか?『応とも!』……よし、顕現!」

 時雨に尋ねるとすぐに答えが返ってきた。意識を集中させながら、右手を差し出す。

 右手のひらから、光を伴い研ぎ澄まされた刀剣が現れた。

 いつ見ても不可思議。

 しゃりしゃりと音を立てて現われた刀身は青空を映したように澄み切ってきらめいている。

「あれ、柄色が変わってる?」

 前は黒の鮫革に、金雲の目貫だったのが、目の覚めるような赤の鮫革に、黄金竜が渦を巻く目貫に変わっていた。

『ふふん、真人よ、わし進化したのよ!』

 時雨の自己申告に、なるほど分かりやすいと納得する。


(ぬしさま、これより橋姫の神域に干渉してまいります。息苦しくなるかもしれませぬゆえ、異界の空気に慣れるまで、時雨と同調してお待ちください)


 オトナのわらしさまは、右手にさずかりものの神楽鈴、左手に榊の枝を携えていた。

「榊の枝?」

 どこから持ってきたのだろうと思っていると。

『ふふふー、富士山本宮浅間大社に祀られておった榊の枝をちょっともらってきたのじゃー!』

 富士の雪妖がどやっと胸を張った。

「いいのかよ、罰当たらない?」

『じゃってわらわの家じゃもん。飾ってあるもの拝借するくらいええじゃないかー』

「ごめんなさい、後で必ずお参りに行きます……って、富士山本宮浅間神社って……」

(富士の山頂にございますなあ)

 まさかの、登山コースだった。途中で息絶える自分の姿しか浮かばない。

「どうしよう、何をもって謝りに行けばいいのか、想像もつかない……」

(なあに、ご尊父様と共に、お礼参りに行けばよろしいのですよ、ぬしさま)

 そう言って、ふわりとほほ笑むオトナなわらしさまに、顔が熱くなる。きっと赤くなってるはずだ。

 

 しゃらん、と鈴が鳴らされた。


 右手の神楽鈴を鳴らしながら、わらしさまが足を鳴らす。左手の榊の枝を神楽鈴の上にかざして、また一つ、足を踏み鳴らす。

 しゃん、とん。

 榊の枝の示すところに光が現れた。……いやあれは鏡だ。教科書で見るような古い銅鏡だった。

 しゃらら、ととん。

 また光が現れる。鏡の後に続くのは、勾玉だった。

 しゃんしゃん、とん。

 次は大振りの剣が。

 しゃららら、ととん。

 薄絹のスカーフのような布も現れた。

 わらしさまが神楽鈴を鳴らし、足を踏み鳴らすたび。

 わらしさまが指し示す榊の枝の先に、ポツリと明かりがともる。明かりはやがて神代の宝物に姿を変えた。

 榊を捧げ、わらしさまがうたう。

(これなるは、沖津鑑おきつかがみ辺津鏡へつかがみ八握剣やつかのつるぎ生玉いくたま死辺玉まかるかへしのたま足玉たるたま道辺玉ちかへしのたま蛇比礼おろちのひれ蜂比礼はちのひれ品物之比礼くさぐさのものひれ、あまつしるし、瑞宝みずたから謹んでここに祀らん)


 いつのまにかわらしさまの腰の高さに、銅鏡が二種、剣が一種、勾玉四種、比礼スカーフが三種浮かんでいた。くるくると光を放ちながら回っている。


 わらしさまが神楽鈴を打ち鳴らしながら、うたう。

 唄にこたえるように銅鏡が剣がちかちかと輝く。勾玉が輝き、ひらりひらりと比礼が舞う。

 シャンシャンと鈴。

 とん、ととんと足が鳴った。

(京の大神に御願い祀る。ここが此岸と彼岸の境、古より若武者と闘った鬼の念、七日七晩願った鬼女の念、悪しき災い成さんとする鬼の念、なにとぞ解き放ち、御霊を鎮め給え。ここに護国の印とならんことを、十種の神宝とともに古渕の奥底へ鎮めたる。御願い奉る、御願い奉る)

 しゃん、しゃん、しゃらら、ととん!


(ぬしさま、時雨をこれに!)

「は、はい!」

 時雨を逆手に持ち直し榊の枝が指し示すところへ突き立てた。

『うぐう!』

 突き立てた途端、ここが震源地かといわんばかりの地鳴りに襲われた。体が大きく宙に浮きあがり、振り回される。

 ブレることのない時雨の刀の柄が、大きく揺らぐ。慌てて両手に力を込める。

『真人お!「しぐれえ!腰入れろおっ! ま、『まけてたまるかああああっ!』!!」

 俺の両手に合わさるように、浅黒い太い腕が重なって見えた。

 四本の腕で、大地の反逆をむりやり抑え込む。

『おお、おおお、怨怨怨怨怨』

 突き立てた大地の奥底から、恐ろしい声が響いた。揺れは大きくなるばかりだ。

「畜生、もう、すこ、し『真人お!もう少しじゃっ』こ、んのおおおおお!」

(ぬしさま、あと少しにございます!)

 いつも涼やかなわらしさまの、刹那の声が響く。その声の鋭さにわらしさまでもこの状況は厳しいんだと悟る。

「時雨え!『真人お!』ここが……『男の見せ所ぞお!』だあっ!」

 わらしさまの、時雨の声に励まされ、なお一層力を込めて、剣を突き刺していく。

『ヒューヒュー!がんばれー!』

 ――――ずっこけそうになった。やべえやべえ。

「(獅子身中の虫がここにいたわ!)力抜けるからやめてよね嗚雪さん!」

『なんのなんの、女子の精気はあんまり好みじゃないのじゃがなあ……』

 俺と時雨で抑え込んでいた、柄頭に、ふわりと女物の草履が乗った。

「嗚雪?」

『腹を下したら、口直しを頼むぞえ』

 そういってふわりと。花弁のように空を舞い、時雨の柄をなぞるようにして、地面へと消えていった。

「うあ、『わらわ、富士の雪妖、いざ参る! くー、なんちゅう苦い精気じゃああ』嗚雪さん、生きてる」

(よくやった、乳女! そのまま、凍てつかせることは可能か?)

『苦ーい、まずーい、ほれ、凍らんか!』

 わらしさまの声に反応するかのように、嗚雪さんの声がして、抑え込んでいた大地がビシリと凍り付いた。

<キュー、キュン、キューン>

「こ、コマ?『コマ殿!』」

 水流に呑まれたはずのコマの声が、あたりに響いた。

 親父のせいで水没してたコマだけど、地鳴りのせいか、嗚雪さんが地面を凍らせたせいか、やっと姿を現したみたいだ。

 俺たちがいる地面より一段高い岩肌を、石のしっぽを振りながら、わっふるわっふる駆けてくる。

「コマ! こっちだ! おさえこめ!」

『コマ殿! 頼むでござる!』

<キュン、キューンっ!>

 任せてとばかりにコマが岩肌の端を蹴りつけて、ぱっと華麗に宙を舞う。

 そのまま、くるっと身をひるがえし、時雨の柄頭に器用に四つ足をのせて、びしっと立った。


 ずうううううんっ!

 時雨の柄頭までが見事に地面に突き刺さった。


『コ、コマ殿おおおお……自重ありすぎでござるうううう』

 時雨の哀愁をそそる声だけが物悲しく響いた。



 ※※※


『真人、真人お、わし、刃こぼれしとらん?しとらん?』

 ガチ泣きしている時雨をなだめつつ、わらしさまの隣に立つ。

 コマの一撃でオーバーキルみたいになったけど、物騒な地鳴りは収まっていた。

「わらしさま?」

(ええ、ぬしさま。しとめましてございます)

 わらしさまの指し示す所、ひび割れ深く亀裂の入った大地。

 ぽっかりと口を開けたその奥底で、泥にまみれ、ムカデやミミズにたかられ、住みかとなり果てた、しゃれこうべが、光を失った眼窩で俺たちを見ていた。 

 よっこいせと時雨をしゃれこうべから引っこ抜く。

「これ……」

( 呪いの骨にございます。おそらくは、神代の頃の人柱かと)

「人柱……人身御供ってこと?」

(古来より地鎮や自然災害の防止のために行われていた儀式の被害者でしょう。一条戻り橋付近ですが、長い年月で祀られていた社も取り壊されたのか狂骨きょうこつとなりはてたようです。おそらくは、この骨が橋姫に影響を与えていたのでしょう)

「じゃあ、鬼女は?」

(正気に戻れたならよろしいのですが)


 しゃん、とわらしさまが神楽鈴を打ち鳴らす。


 しゃん。しゃんしゃらん。


『ぺええええ(お、拘束が緩んだぞお)』

 ぺえぺえないてる親父は放っておく。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 野卑な男の心情って▪️▪️▪️ワラシサマ〜 (´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) [一言] 一応、男の子の意地があると、たぶん、思うんで。 それと、富士詣で? あそこの御神…
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