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決着再び


 空中でモンスターの残骸を引っ張りながら、器用に石山に着地したトールはゆっくりと息を吐いた。

 しかしながら凍りついた赤水の邪霊の体の大半は、盛り上がった土山の斜面を滑り落ちて川面に消え去ってしまう。 


 残った部分に精霊核があることを祈りつつ、トールは自らの状況を確認してもう一度息を吐く。

 幸いにも手首までで済んでいたが、左腕は完全に赤い水と一緒に凍りついてしまっていた。


 魔晶石は手に持って念じなければ、その力を解放することはできない。

 ただし代償として炎晶石なら腕も一緒に燃えるし、電晶石なら確実に感電してしまう。

 おまけに数回でひび割れて、高価な魔晶石は二度と使い物にならなくなる。

 まさに腕や石を元に戻せるトールにのみ許された使い方であった。


 解体用のナイフで氷を削ればいけるかと考えながら、引っ張ってみると手は簡単に抜けた。

 もっとも借りた杖と革手袋を氷の中に残したままであったが。

 そのうえ、左手首の先は感覚がいっさいなく、指一本も動かせない状態である。

 もっとも痛みはないので今は後回しにして、トールは石山を伝って川岸へ急いだ。


 水際で杖にすがったまま座り込んでいた少女は、連続で魔技を使用したにもかかわらず意外と余裕がありそうであった。

 この河原でみっちりと二種類の魔技を使うようになってから、ずいぶんと魔力が成長したようだ。 


「よく、頑張ったな、ソラ」

「あー、トールちゃん、おかえりー。かっこよかったよー」


 いつもより間延びしているのは、少しは魔力不足の影響が出ているのか。

 手を差し出したトールに五分前に<復元>されて、ようやくソラは普通の話し方に戻った。


「どうどう? 今の<固定>、けっこういいかんじだった?」

「ああ、文句なしだ。いや、あれ以上はない出来だったぞ」


 トールの褒め言葉に、ソラは満面の笑みでその胸に抱きついた。

 胸板におでこと鼻先をくっつけながら、安心したように肩の力を抜く。

 そこへ成り行きを見守っていた三兄弟とディアルゴも、緊張を解いて話しかけてきた。


「助かったぜ、トールの兄貴!」

「ああ、マジですげえな。悔しいが、もうそれ以外に言いようがねえよ」

「ホントーにサクッと倒しちまうんだもんな。いったい、何者なんだよ、トールの兄貴は……」

「ありがとうございました、トールさん」


 口々に騒ぐ四人であったが、かなりカラ元気な部分もあるようだ。

 完成間近の橋の脚が、半分近く崩れてしまっては無理もない。


「こ、これくらいなら、まだまだ頑張れるぜ」

「初めて川スライムに食われた時も、こんなもんだったしな」

「それなんだが、あの程度なら――」


 トールが朗報を知らせようとしたその時、土手の方から複数の声が聞こえてきた。

 目を向けると、見慣れた顔が手を振って駆け寄ってくる。


「お久しぶりね、ソラ。元気だったかし……。昼間っから、ずいぶんとお盛んなのね」

「ベッティさん、どうしてここに?」

「おおお、またべっぴんさんだぜ、兄貴!」

「気が強そうなところが、めちゃくちゃ良いな!」

「落ち着け、お前ら! まずは自己紹介からだぜ。初めまして、お嬢さん。長男のロロルフです」

「えっ? 誰? なに?」


 抱きあっていたトールとソラを詰問しようとしたベッティーナだが、いきなりむさ苦しい男どもに囲まれて狼狽えた声を出した。


「ゴ、ゴダン、なんとかしてちょうだい!」

「かしこまりました、お嬢様。む!」


 付き添っていた茶角族の青年は、同じ茶角族のディアルゴに気づき動きを止めた。

 ディアルゴの方も、前髪の下の目を大きく見張る。

 しばし見つめあった二人だが、いきなり近づくとその角を互いにぶつけ合いだした。

 固太りの男たちがくっつきあう異様な様子に、赤毛の乙女はまたも動転した声を上げる。


「な、なにをしてるの!」

「失礼、お嬢様。これは同郷の挨拶でして」


 離れた盾士の二人は、なぜか頷き合うとがっしり握手を交わした。

 そんな混乱する現場に、さらに新たな声が響いてくる。


「……お待たせした」

「……煮るなり焼くなり、好きにしてくれ」


 最後に登場したのは、タパとタリの二人であった。

 それともう一人、後ろ手に縛られ口に布切れが押し込まれた男。

 身を隠して逃げ去ったはずのリシだった。


 今まで双子の姿が見えなかったのは、逃げた弟を追っていたためであったようだ。

 捕まえられた末っ子は、雨に濡れたまま首をうなだれている。


「……そこのお二人に、助けて頂いた」

「……協力、感謝する」


 魔技の風で身を隠し逃げ出したリシであるが、動くものであればタリの起こす風は見逃しはしない。

 <風隠>と同じく風精樹の下枝スキルの<風察>は、小さな風を放ち地形や動いているものを把握する魔技である。

 だがその効果は、兄弟であるリシも十分承知していた。

 先触れの風をその頭髪の緑の羽で読み取り、身を潜めてやり過ごそうとしていたのだ。


 そこへ下流へなぜかやってきたベッティーナとゴダンが鉢合わせる。

 一瞬でリシの場所を見つけ出した赤毛の冒険者の手助けで、あっさり弟を捕らえることに成功したというわけであった。


 大勢に囲まれたことに気づいたリシは、顔を上げて状況を受け入れる。

 しかしその目は崩れかけた石山を映したとたん、ギラギラと輝きを取り戻した。

 その様子に気づいたトールは、口に押し込まれていた布をとって喋れるようにしてやる。


「はは、かなり壊せたようですね。スッキリしましたよ」

「てめえ、ぶっ殺すぞ!」

「いえいえ、恩人に向かってその態度はないでしょう。あなた方が頑張ってこられたのは、全て私のおかげですよ。それに壊れたのなら、また頑張ればいいじゃないですか? その努力こそが、あなた方をさらに高めるんですよ」

「それ以上は止めとけ」

「なぜです? あなただってそうやって頑張ってきたんでしょ? 二十五年も泥漁りなんて呼ばれながら」

「……俺には希望があったからな。だから耐えられた」


 チラリとソラへ視線を送ってから、トールは話し続ける。


「だがお前は、無理やりに見せかけの希望をもたせているだけだ。そんなやり方は間違っている」


 言い切ったトールは急に立ち上がり、再び石山を渡って崩れてしまった場所まで行く。

 そしてしゃがんで手をふれながら、魔力をかき集める。


 次の瞬間、失われたはずの石山は、元の高さを取り戻していた。

 

「そ、そんな…………」 


 壊したはずの橋が再生した事実に、リシは大きく目を見開く。

 かすれた声を漏らしながら、男はがっくりとうなだれた。


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【コミカライズついに145万部!!】
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