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方針会議という名目のお茶会


「もう、すっかり上は暑いわね」

「いらっしゃいませ、キキさん」

「はい、これ。前に約束した品よ」

「あら、わざわざ取り寄せてくださったんですか。ありがとうございます。さっそく冷やしてお出ししますね」

「相変わらず気が利くわね、貴方は」


 手土産の茶葉を嬉しそうに受け取った家主へ、キキリリは鷹揚に頷いてみせた。


「ん」


 続いて姉の後ろに居たネネミミが、甘酸っぱい匂いが漂うカゴをユーリルへぶっきら棒に手渡す。


「迷宮堂の菓子だ。その茶に合う」

「これは、大変だったでしょう。ありがたくいただきますね、ネネさん」

 

 迷宮堂とは内街にある生菓子の高級専門店で、いつも行列ができるほどの有名店である。

 特に杏ジャムなどを練り込んだ薄い生地を何枚も重ねてパリパリに焼きあげた菓子などは、午前中でよく売り切れになるほどの人気の品だ。


「私からはこちらを」


 最後に挨拶をしてきたのは、蒼鱗族の男性モルダモだ。

 小洒落た包みを差し出しながら、言葉短く説明してくる。


「海藻から作ったご婦人用の髪油です。皆様でお使いください」

「いつもご丁寧にありがとうございます」


 三人を招き入れたユーリルは、お茶の支度のために台所へ向かった。

 キキリリたちは、勝手知ったる様子で平然と居間へ入っていく。


「来たわよ」


 ズカズカと近づいてきた紫眼族の女性に、ソファーに腰掛けていたトールはほんのわずかに顔をしかめた。

 その膝の上には黒猫がくつろいだ様子で、尻尾の先をゆらゆらさせながら寝そべっている。

 人懐っこいシマと違い、用心深いクロが自らトールに近づくのは大変珍しい事態であった。


 懸命に目配せしてくる男をチラリと眺めたキキリリは、素早く手を伸ばした。

 一瞬で猫を抱きかかえたかと思うと、トールの隣へ腰を下ろし背もたれにだらしなく身を預ける。

 そして持ち上げた片方のふくらはぎを、猫の代わりにトールの膝に大胆に置いてみせた。


 今日のキキリリは膝上のピッタリとした黒いタイトスカートに、薄紫色のブラウスという格好だ。

 レース編みが施された薄手の衣装のせいで、地肌がところどころ透けており、似合ってはいるがなかなかに扇情的でもある。

 ちなみに妹は、姉とは逆に黒いブラウスと薄紫色のスカート姿だ。

 二人とも年中、陽の当たらない迷宮暮らしのせいか肌が抜けるように白く、黒い系統の服装がよく似合っている。


「おい、返せ」

「さあ、この子はどっちが良いのかしらね」


 柔らかく頭を撫でられた黒猫は、即座に喉を鳴らしながら体を丸めてしまった。

 心変わりの様をむざむざと見せつけられ渋い顔になるトールへ、猫を抱きかかえたキキリリは勝ち誇ったように言い放つ。


「代わりに、私の足を置いておいてあげるわ。心から感謝なさい」

「邪魔なだけだ。さっさとどけろ」


 どうやら艶っぽい話にはならないようだ。

 洗濯物を畳みながら二人のやりとりを見ていたソラは、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 縞猫と鼻をくっつける挨拶をしていたネネミミが、その様子にいぶかしげに尋ねる。


「お前の男だろ。怒らないのか?」

「うーん、キキさんはトールちゃんの魅力がわかってくれる数少ない同志だしなー。ちょっとくらいならゆるしちゃうよ」

「そんなものなのか。よく分からん」


 余裕たっぷりの少女の言葉に、つまらそうにネネミミは肩をすくめた。

 トールの冒険者としての技量は認めているが、くたびれた中年の男にしか見えない外見にはあまり興味がそそられないというのが、双子の姉とは違う妹の正直な感想だ。


 などと考えていたら、テキパキと洗濯物を仕分け終えたソラがいきなり立ち上がって駆け出す。

 そして背後からトールに抱きつくと、その肩口に顔を埋めて息を吸い込んだ。

 

「やっぱり、わたしもまざる! あー、落ち着くなー、トールちゃんの匂い」

「ソラってちょっと変わってるわね……。どこが良いの? そんな男臭い匂い」

「ふふーん。キキさんもまだまだですねー」

「なんか、ほんの少しだけ悔しいわね」

「暑いんだよ、お前ら」


 トールにくっついたまま会話を続ける二人を呆れた表情で見ながら、ネネミミは縞猫を抱き上げて向かい側のソファーに座った。

 反対側の端にモルダモが腰を落ち着けたところで、台所から賑やかな声が聞こえてくる。

 

「ユーばあちゃん、ムーにどんとまかせてー!」

「はい、ムムさん。頼りにしてますよ」


 奥から現れたのは、お盆を手にしたユーリルとムーの二人だった。

 たちまち、居間中に甘い香りが漂い出す。


 穏やかな笑みを浮かべた家主は、陶製のカップを優雅にローテーブルへ並べる。

 中身は涼やかな氷が浮かぶ、冷やした薄紅茶だ。


 そして得意げな顔のムーが、小皿に載った菓子をその横へ置いていく。

 ただしその口元には、すでに粉砂糖や食べかすらしい破片が付着していたが。


 全員が席に着き、お茶とお菓子が行き渡ったのを確認して、ユーリルが優しい声で告げる。


「さあ、お茶にしましょうか」



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【コミカライズついに145万部!!】
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