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第四のスキル


「伏せろ!」


 叫びながら、トールの体は引いた踵を支点にして半回転する。

 同時に持ち上げた刃で、寸前まで居た場所を薙ぐ。

 ゴツッと鈍い音が生じ、鉄の柱を叩いたような手応えが走った。

 間をおかず、通路に大きな破砕音が鳴り響く。


 視線を一瞬だけ後方に向けたトールは、内心で安堵の息を吐いた。

 ソラはきちんと身を屈め、ユーリルは壁に体を寄せて、今の攻撃を無事に避け切ったようだ。

 ムーも仰向けにコロンと寝転んで目を丸くしていたが、怪我らしきものは見当たらない。


 そして通路の奥の壁には、二本の氷柱が杭のようにめり込んでいた。

 一本が斜めに刺さっているのは、トールが剣で弾いたせいだろう。

 衝撃の激しさからか、石壁には細かいひび割れが大きく広がっているのが見えた。


 前方に向き直ったトールは、またも鋼巨人の手のひらに円錐状の氷柱が伸びゆく様を睨みつける。

 刃が折れ曲がった剣を床に落として剣鉈に持ち替えながら、背後の少女に静かに指示を出す。


「ソラ、二つとも<固定>してくれ」

「うん!」

「あいつが床に落ちるのに合わせて前に出る。また氷が生えたら消すか止めてくれ」

「まかせて!」 

 

 会話の最中も、みるみる間に氷柱は形成されていく。

 先ほどと同等の長さまで育ったかと思えた瞬間、凄まじい勢いで氷片が弾け飛んだ。

 <固定>されて動けない氷柱が、押し出す力と反発した結果だ。


 粒状となった氷が降り注ぐ中、トールは身を低くして通路を駆け抜ける。

 同時に魔力で形成されていた氷の塊も、形を失って溶けていく。


 地面に落ちながらも、鋼人形はもう一度手をかざした。

 しかし反動をまともに受けたせいで、すでに手首より先は消失している。


 その機を逃さず、トールは一息に距離を詰めた。

 振り上げた黒い剣身が、真っ向から甲羅状の頭部を叩き切る。

 音もなく入った刃は、鮮やかにモンスターの胸部までを半分に分かつ。

 わずかに体を小刻みに震わせた鋼人形は、すぐに静かになった。


 周囲を見回して増援がないことを確認したトールは、ようやく深々と息を吐く。

 そして吐息が白くなる寒さなのに、背中にじっとりと汗をかいていたことに気づいた。


「トールちゃん、これ」

「ああ、すまんな」


 駆け寄ってきたソラが、拾った真銀の剣を差し出してくる。

 トールが剣身をまっすぐに戻す様を眺めていた少女は、しみじみとした表情で呟いた。


「それ氷柱に当てたせいだよね」

「そうだ」

「ありがとうね、トールちゃん。髪の毛にかすった時は、心臓ドキドキだったよー」


 本当にギリギリであったらしい。

 あとほんの少し軌道が下だったら、頭の天辺を持っていかれるところだったようだ。


「ふぅー。わたし、ほとんど見えなかったよ」

「俺もだ」


 それほどの速さであった。

 上の階の鋼人形が飛ばしてくる雷撃も、確かに速い。

 だが放つ前にわずかに手首より先が発光するので、タイミング自体は掴みやすいのだ。


 しかし先ほどの氷柱を飛ばす攻撃は、先触れが何もなかった。

 気がつくと、すでに通り過ぎていたとしか言いようのない速さだった。


「もしかして見たの? トールちゃん」


 その問いかけに、トールは脳裏に浮かんだ光景を思い出しながら黙って頷いた。

 氷柱が胸を抉る映像。

 それはトールの新たな魔技、<予知>がもたらしたものであった。


 <予知>――戦闘に関わる対象者の行動を予め知る。

 レベル:1/使用可能回数:一時間二回/発動:瞬/効果:一秒/範囲:自身。


 一秒先の自分自身の未来が、前もって分かるという恐ろしく便利なスキルだ。

 <加速>の使用が安定した理由も、これのおかげである。


「用心して使ってみたが正解だったな」


 ただ一見、無敵に思えるスキルであるが、欠点がないわけでもない。

 一つは使用可能回数の少なさだ。

 一時間に二度しか使えないため、本当にここぞという場面でしか許されない。

 ゆえに<加速>もそれに合わせて、使用が制限させてしまうというわけだ。


 そして二つ目は、効果時間の短さ。

 わずか一秒先のため、使用のタイミングがずれれば何も起きない未来が映るだけである。

 今の氷柱を回避できたのは、運の良さも相当に含んでいたと言えよう。


 そして最後。

 これが非常に厄介で、見える映像は一つではないのだ。

 一秒先の確定した未来が映るのではなく、厳密にはその可能性を秘めた未来が見えるといったところだろうか。


 つまり先ほどの場合なら、氷柱が胸に刺さって絶命したトールが存在しているが、床に伏せて躱せたトールもまた居るといった感じだ。

 それらが無数の雨粒のように、視界いっぱいに降り注いでくるのである。

 <復元>や<遡行>で鍛えた感覚がなければ、氷柱を弾き飛ばせる未来を選び取ることは不可能であっただろう。


「まあ、次からはこれもなんとかなりそうだな。頼んだぞ、ソラ」

「まっかせてーと言いたいけど、ちょっと一度戻らない?」

「どうかしたか?」

「えーと、その、服をちょっと着替えたいかなーて」

「ああ、破れたのか?」


 <復元>しようと無遠慮にソラに触れたトールは、履歴にそれらしいものがないため首をひねる。


「うん? なんともなってないぞ」

「えっと、直すとかじゃなくて、濡れたままだと風邪引いちゃうから。って、もう!」


 そこでようやく意味を察したトールに、少女は赤く頬を膨らませて横を向いた。


「まったく、トールちゃんは! そういうとこだよ!」

「ええ、トールさんは、そういうところで、もう少し気遣いを覚えてくださらないと」

「そういうとこだぞ、トーちゃん」


 なぜか腕組みをしたムーまで二人の真似をしてくる。

 これからは会話の前に<予知>を使っておくべきかと、顎の下を掻きながらつい真剣に考えてしまうトールであった。


「分かった。じゃあ今日はここで切り上げるか」


 そんなわけで、まずは途中に置いてきた荷物を回収して六階まで戻ることとなった。

 九階への階段まで引き返したトールたちだが、不味い事態が起きていることに気づく。

 

 鉄格子が降りてしまっていたのだ。



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【コミカライズついに145万部!!】
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