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地道に探索


 七階への下り階段は、午前中で見つかった。

 南東の通路が入り組んだ奥だ。

 あまり広くない部屋には三体の鋼の番人が居たが、ユーリルが容赦なく<冴凍霧>を撃ち込み凍結させて動きを止める。

 後はトールが剣鉈を振るって、さっくりと解体して終わった。

 頭部に取り付く小型の鋼人形が居なければ電撃を放つことはないので、足止めできればそう手強い相手ではない。

 

 次の階も似たような造りであった。

 ただしモンスターは鋼人形主体である。

 こちらはあえて合体させてから、ソラの<反転>で電撃を戻して仕留めていく。

 

 それとこの階からは挙動が少し変わり、たまに複数の仲間を呼ぶようになった。

 鋼人形にも強制的に眠らせる<冷睡>や体力を奪い思考を低下させる<寒失波>は効かないが、死霊どもと違って冷気そのものは無視できない。

 冴え渡るユーリルの魔技で、まとめて固まる羽目となっていった。


 行動阻害と防御兼反撃がガッチリと組み合わさった二人の働きで、特に苦戦する場面もなく探索は進んだ。

 

「うーん、むむむー」

「どうした、用足しか?」

「ううん、そっちはさっき済ませたから大丈夫だよー」

「ソラさん、おおっぴらに言うようなことじゃありませんよ」


 眉根をやや寄せて唇を尖らした少女は、通路の先と地図を交互に眺めていた。

 本人曰く、熱心に考え中らしいが、少しばかり愛らしい表情だ。


 ソラが視線を向けていたのは、四体の番人が立ちふさがる部屋であった。

 その奥には、暗闇の底へ伸びる階段が見えている。


 監獄ダンジョンの探索三日目、トールたちは地下八階へ通じる階段を発見していた。

 だがそれは地図製作者のソラには、どうにも納得がいかないようである。


「狭くなっている?」

「うん。ほら、広さがぜんぜん違うよ」


 六階の地図と七階の地図を重ねてみると、確かに七階のほうが狭いようだ。

 半分ほどの面積しかない。

 しかも六階はまだ回れていない場所もあるから、それ以上の差がつく可能性もある。


「それは妙な話だな」


 七階は一番外側の壁を確認してから内側を埋める形で探索したので、大きさを間違えることはまずないはずだ。

 通常、このような地下の迷宮は深層ほど広さを増すため、主が守る階層以外が狭くなることはほぼありえない。 


「どう思います? ユーリルさん」

「隠し扉のようなものが、どこかにあるのかもしれませんね。ただ、それらしいのは見当たりませんでしたよ」


 トールたちと違いダンジョンでの経験が豊富なユーリルは、しっかりとその辺りは確認していたようだ。


「ふむ、どうしましょうか?」

「まずは行ける範囲を埋めていきましょう。何かしらの仕組みがあるにせよ、手掛かりがなければ紐解けません。今は情報を少しでも多く集めることをお勧めしますね」

「分かりました。では先に八階へ進みましょう」


 大人たちが真面目な話を続けていた中、ムーは額に伸ばした片手を添えてひたすらトールの太ももに突進していた。

 本人曰く、かぶと虫なりきりごっこらしい。


「ムーがトーちゃんをもちあげて、ひっくりかえしてやるぞ!」

「じゃあ、まずはわたしが受けて立つよ! いたっ、いたたっ! グーは意外と痛いよ、ムーちゃん」

「だから、かぶと虫はあまくないっていったでしょ!」

「えー、初耳だよー」


 番人をさっくり片付けて、トールたちは次の階へと足を踏み入れる。

 ここも鋼人形ばかりであったが、天井の警報人形が呼び出す数がさらに増えるようになっていた。

 それといきなり床の一部が抜けたり、壁から尖った骨が飛び出る罠もチラホラと出始める。

 その辺りはトールが<遡行>して、事なきを得ていたが。

 

 四日目は八階の地図作りを半ばで終えて、そのまま地上に戻って街へと帰還した。

 固定ダンジョンは瘴気が一段と濃いため、そうそうの長居は危険なのだ。

 

 金剛片は討伐証明として提出後、すべて品札に替えて手元に置いていく。

 二日間、風呂にゆっくり入ったり手の込んだ料理に舌鼓を打ったりした後、再びトールたちは沼の奥へと赴いた。


「うーん、むむむー」

「またか」


 五体の番人が守っていた九階への階段を前に、ソラはまたも呻き声を上げていた。

 八階は七階よりも広かったが、それでも六階よりは狭いらしい。

 明らかに変ではあるが、今の段階ではその理由までは分からない。


 新たな階はさらに入り組んだ構造となっていた。

 特に行き止まりが多く、しかもそこへ呼び出された大量の鋼人形が押しかけてくるといった手の込みようである。

 ただそれらは、ムーの解禁された<電滞陣>の餌食となったが。

 探索を散々、妨害されて暇を持て余していた子どもは、ゆっくりとした足並みで近づいてくる鋼人形にクスクスと笑っていた。


 そして四日目にして、トールたちは早くも十階へと続く階段へとたどり着く。

 部屋にはひときわ大きな鋼人形が一体のみ。

 ただその全身には、甲羅状の小さな鋼人形が何体もくっついている。

 ざっと見ただけで頭部と両手首、両肘にも。さらに胸部にも二つなので七体は確実だ。


「うーん、すごくゴテゴテしてるねー」

「面倒そうな相手だな」

「いっぱいくっついてかっちょいいなー、トーちゃん」


 電撃の威力が増すだけなら、そう怖い相手ではない。

 だが可能性として、何本もの電流を飛ばしてくることもありえる。

 そうなると、対象が一つだけしか取れない<反転>では厳しい。

 <固定>や<消去>を併用したとしても、電撃の速さからして三本の対処が限界だ。


「他に道もないし、それにどうみてもあれは――」

「倒すしか他に方法はないようですね」


 番人の肩越しに覗く階段。

 その手前には頑丈な鉄の格子が、がっしりと降ろされてしまっていた。



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