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これは勇者の剣です!(断言)  作者: 相有 枝緖


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37/37

37 エピローグはありません。彼らの旅はまだまだこれからだエンドなので。

よろしくお願いいたします。



 ピヒラは、魔人憧れの真っ黒な髪を持ちながらも魔力容量が極端に少なかった。


 みんなが簡単に発動させる魔法も、何十回と練習しなければ使えなかった。


 きょうだいたちは皆茶色の髪だが、魔力容量が大きくて優等生。

 ピヒラはこっそり落ちこぼれと呼ばれていた。



 それでも、魔法を使える魔王の話を読んでは目を輝かせ、毎日コツコツと訓練を続けた。

 皆に遅れながらも魔法を習得し続け、気づけば魔力容量こそ少ないものの、使える魔法は村でも群を抜いた存在になっていた。


 そうなると陰口を叩いていた人たちも手のひらを返して、「あんなに努力してここまでできるようになるなんて素晴らしい」と誉め言葉を口にした。


 そんな彼らにも笑顔で対応していたピヒラだったが、ずっと見守って信じていてくれた家族以外は本心から信じられなくなっていた。


 成人の年、『魔王の大剣』を引き抜くという村の儀式を行った。

 嘘か本当か知らないが、村民は魔王の子孫で、『魔王の大剣』を使う素質を持つ者が生まれる可能性があるらしい。

 魔人のほとんどは魔法使いなので、そんな彼らの中から大剣使いが出てくるなど眉唾物であった。



 ところがである。



 ピヒラは、それはもう軽くあっさりと大剣を引き抜いてしまった。


 ほかの人が持ってみると重すぎて持ち上げられないのに、ピヒラは片手で持てる。

 なんならジャグリングもできる。


 ふと思いついて魔物を倒しに行けば、一人で三桁いけた。

 それは、まさに魔王の所業だった。



 ある日、大剣の使い方がなっていない、と『魔王の大剣』に宿る何かに話しかけられたときにはものすごく驚いた。

 そして、魔力を放出せずに大剣を使う方がいいと助言をもらったものの、正直なところ魔力の濃い魔界ではすぐに補充できることもあり、ピヒラは無意識にずっと身体強化魔法を自分にかけ続けていた。


 逆に大剣の訓練を阻害していると言われ、一念発起して人界へ修業しに行った。



 人界は魔力の薄いところで、大剣の修行にはちょうど良かった。

 冒険者ギルドにも登録し、移動しながら魔物を討伐して回った。


 たまに絡まれることもあったが、大剣だけでなくちょっと魔法も使って見せれば、すごい実力だと認められることが多かった。

 気づけば上位といえるA級になっており、旅を続けていると王都の近くの町へやってきた。


 何となく気づいていたが、王都に近づくにつれて魔物が減っていった。

 大きさも小さいものが増えたので、これはよくないと引き返す計画を立てていた。


 そんなときに、トールヴァルドに出会ったのだ。


 彼は初めからピヒラにフラットな態度だった。

 女だからと軽視せず、女なのにと僻むこともなく、ただその実力を認めて褒めてくれた。


 それなのに絡まれたピヒラを庇ったり、細かいところに気づいてくれたりと、何かと女の子扱いしてくる。


 何なら、手合わせして負けたにもかかわらず、対等にかつ女の子として接してくるのだ。



 落ちないはずがなかった。



 距離を詰めても普通に対応するし、パーティを組んでも仲間として扱う。

 多分、トールヴァルドにとってピヒラは特別ではない。


 ただ、実力や相性のいいバディというだけだ。

 しかも、ピヒラは人界では敵と認定されている魔王。


 それでも止められなかった。



 なんなら抱きしめられたし、大事なパートナーだとも言ってくれた。



 きっともう結婚しているも同然だ、とピヒラの思考は飛躍した。


 あとは告白して関係に名前をつけるだけである。


 もし、万が一にも、ピヒラに振り向いてくれないなんてことは起こらないと思ってはいたが、しかし絶対は存在しない。

 だからそのときは、昔読んだ禁術を使おうと決めていた。


 それはお互いの魂を縛り合うもので、魂を縛ってから死ねば、来世もう一度会えるという。


 もしも。

 もしも受け入れられないと言われたときには、禁術を使ったうえで心中しよう。


 きっと、魔王なら勇者をなんとかできる。

 少なくとも、剣術であればピヒラが勝つ。



 ピヒラは、完全に拗らせていた。




 ◇◆◇◆◇◆( )




 魔界での旅は、なかなか終わりそうになかった。


 魔力溜まりは割と常時あるものらしく、ただそれがやたらと大きかったり数が多かったりして魔物の数が異様に増えるのだ。


 いくら魔物に慣れている魔人とはいえ、数の暴力には勝てない。

 破棄された村もあれば、ほぼ籠城になっている町もあった。


 そんな魔界で魔物を倒して魔力溜まりを蒸発させて、ズーパーが魔力溜まりの気配を感じ取れるようになってきたころ。



 トールヴァルドは、滞在している村の宿のベッドでピヒラに乗っかられていた。


 彼女は軽いので、腹の上からどかせようと思えば簡単にできる。

 けれど、彼女の必死な表情を見て、トールヴァルドはまずは話を聞こうと思った。


「ヴァルド、お願いなの」

「どうしたんだ」

『んまぁ。ピヒラちゃんったらだいたーん』


「パーティのパートナーとか相棒とか、そういうのだけじゃなくて!あたしを、人生のパートナーにしてほしいの!」

 ピヒラがトールヴァルドの服をぎゅっと掴んだ拍子に、彼女の髪がはらりと落ちてきた。


「うん?」

 人生のパートナーとは。


『質問で返さないでよっ!ここ、大事なとこよ!!』


「だから、その、彼女に、してほしいの!恋人になりたいの!ヴァルドの唯一がいいの!」

 ピヒラは、頬をピンクに染めていた。


 そういうことなら、とトールヴァルドは思考を回転させた。

「そういうパートナーなら、夫婦じゃないのか」

「ぇっ……!」

『えっ?!』


 トールヴァルドの上で、ピヒラは首から上を真っ赤にした。

 可愛いな、と素直に思った。


「じゃあ、一通りデカい魔力溜まりを蒸発させたら、どこかの田舎で畑でもしながら一緒に暮らそうか。俺の村でもいいし、ピヒラの村でもいいし、全然知らないところでもいい」

『ひゅぅーっ。田舎で一緒に暮らそうぜってことね。いいわね、どこに住むか考えるだけでも楽しそう』


「いっ、いいの?」

 ピヒラは、瞳を揺らした。



 多分、ここは間違ってはいけないところだ。



 トールヴァルドは腹筋を使って起き上がり、ピヒラが膝から落ちないように腕の中に閉じ込めた。

 煌めく黒い目が、じっと見つめてくる。


『よぉっし!男らしく決めなさいよ!トールヴァルド!』

「俺は、一緒に生きるならピヒラがいい」

「結婚、する?」

「そうしよう」

『ちょっと!ちゃんと求婚しなさいよっ!』


 トールヴァルドは、腰に挿したままの勇者の魔法剣(ごり押し)をちらりと見て、アイテムボックスを開けた。


『あっ?!ちょっと!なにすんのよ!アタシは魔法の杖なんだから一緒にいたところで――』


 言葉の途中で、アイテムボックスを閉じた。

 煩くて気が散るのだ。


「ピヒラ、俺と結婚してくれるか?」

「っ!もちろん!嬉しい……子どもも、つくる?」

「いいな。家族が増えれば賑やかだし、楽しいだろう」

「浮気は、だめ。あたし多分暴走しちゃう」


 ピヒラがぎゅっと抱き着いてきた。

 これも可愛い。


「常識だろう。何か嫌なことがあったら、すぐ言ってくれ。我慢して爆発するのは不健康だ」

「わかった。あと、多分ヴァルドがそういうつもりじゃなくても嫉妬すると思う」

「そういうときは教えてくれ。なるべく改善するし、ピヒラを不安にしたくない」


「ありがと。それと、それと、あたし、ずっと一緒にいたい。生きてる間も、死んでも、その先も。だから、魂を縛ってもいい?また来世も会えるように」

「面白い魔法を使えるんだな。まだまだ先のことだろうけど、いいぞ」


 ヤンデレ発言を面白いで片付けたトールヴァルドに喜んだピヒラは、そのまま禁術を使った。

 何も変わったとは感じなかったが、多分実行されたんだろう。







 二年後、魔王と勇者が大きな魔力溜まりをすべて消滅させ、魔物の発生率が大幅に減った。

 黒い馬に乗った二人は魔界のピヒラの村に寄り、人界の王城にも立ち寄った。


 ひとまずの役目を終えたと報告したのである。


 そして、二人は姿を消した。








 メンシュ王国の南の辺境の村に、魔物を蹂躙する夫婦がいると噂になった。

 しかし、そもそもその村はドンヘル伯爵曰く「領地随一の修羅の村で、当たり前のように全村民が魔物を倒せる」というので、ただ夫婦が元冒険者とかで連携を取っているだけだろうとすぐに注目されなくなった。


 とうとう、『勇者の魔法剣(ごり押し)』は、剣であると断言されたまま訂正されることはなかったのである。


だって勇者の剣だもの。


これにて完結です。

読了ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
最後ならピヒラの故郷で結婚式を挙げるシーンまでは読みたかったなぁ。
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