34 第五回ハーレムキャンセル(ピヒラ的には自爆)
よろしくお願いいたします。
ピヒラの村に向かって進む途中に、比較的大きな町があった。
その少し手前には大きめの魔力溜まりが存在していて、トールヴァルドたちが気づいたときにはちょうど大型の魔物がそこから出てくるところだった。
「ピヒラ!」
「ええ!」
二人は走ってそちらに向かった。
ピヒラは大剣を下げ、トールヴァルドは長剣と勇者の魔法剣(ごり押し)を持った。
勇者の魔法剣(ごり押し)は魔法を纏わせて剣にし、いつでも攻撃できる。
『ああぁぁ!何回やってもこの感じなれないわぁ』
ピヒラが大型の魔物に向かい、トールヴァルドはさらに何かが出てこようとしている魔力溜まりを攻撃した。
勇者の魔法剣(ごり押し)で切って細かくし、蒸発するイメージの魔法をぶつけていく。
水たまりというよりは池のような規模の魔力溜まりだったので、すべて消すのに一時間以上かかった。
トールヴァルドが対応している間に、ピヒラは大型の魔物三体と、中型の魔物を四体も倒していた。
何とか蒸発し終わってピヒラを確認すると、彼女はまだ三体の魔物を相手にしていた。
こちらは終わったのだから助太刀しようと思ったら、ピヒラは大剣で素早く自分の周囲を切った。
すると風か何かの魔法だろう、少し離れた魔物が三体、そして岩陰に潜んでいた一体も見事に一刀両断にされ、ざらりと消えていった。
「ピヒラ!すごいな。剣に魔法を纏わせたのか?」
トールヴァルドが駆け寄ると、ピヒラは周りを確認してから大剣を背中にしまった。
「纏わせると魔力が無駄になるから、こう、大剣として使いながら杖の役割もさせた感じね。刀身から魔法を飛ばしたのよ。刀身の延長上に飛ぶから、剣が伸びるイメージでいけたわ」
『やだもぉ。ピヒラちゃんってば天才ねぇ』
その勇者の魔法剣(ごり押し)の言葉に関しては、同意しかない。
「ピヒラの魔法の使い方は本当に精密で無駄がない。俺は有り余る魔力でのごり押しだから、少しは見習わないとな」
ふぅ、とため息をついたトールヴァルドに、ピヒラは首を振った。
「そんなことないわ。あたしだって、大剣はかなり力技だもの。トールヴァルドの無駄のない剣筋を見習いたいの」
お互いに褒め合った二人は、ケガの有無を確認してから町へ向かった。
「魔王様!!」
「あの魔力溜まりをよくぞっ!ありがとうございます、魔王様!」
「魔王様だわっ」
「素敵ぃ!魔王様!こっち向いてぇ」
町に入った途端、トールヴァルドは町の人たちに取り囲まれた。
ピヒラが押しつぶされそうになったので、トールヴァルドが腕に囲い込んでなんとかガードした。
「違うぞ。俺は勇者なんだ」
『そうよ、アタシが目に入らないの?』
「あぁん!魔王様ったらぁ」
「あんなすごい剣、魔王様じゃないと使えないだろう」
「俺、あなたが魔力溜まりを切っていたのを見たんです、魔王様!」
「魔王様!」
「俺は勇者だ」
「魔王様!!」
『あらら。興奮しちゃって全然聞いてくれないわねぇ』
否定しても否定しても、町の人たちは聞いてくれなかった。
トールヴァルドが抱え込んだピヒラは、人々の騒ぎに驚いたのか固まっている。
そして、あれよあれよという間に町一番の宿屋に案内され、部屋を無償提供されたと思ったらそのまま町の中央広場のようなところで歓迎パーティが始まった。
隣にピヒラが座ったものの、トールヴァルドが彼女の様子を見ようとするのを町の人たちが邪魔してきた。
主に女性だ。
「魔王様!本当にありがとうございます」
「素敵です魔王様。今夜、良かったらいかがですか?」
「ちょっと!私が誘おうとしてるのに」
「あんな煩いのは放っておいて、私の家に来ませんか?落ち着いて話しましょうよ」
「何言ってんの?お話で済ませるわけないでしょ」
「だめよ、選ぶのは魔王様なんだから、選ばれるだけのスペックを持っていないとねぇ」
「なぁんですってぇ?!」
『まぁまぁ。キャットファイトが始まっちゃったわぁ。さすが勇者ねぇ』
魔力溜まりを消せるのは勇者の魔法ならではなのだから、わかりそうなものなのだが。
それに、トールヴァルドはさっきから元気のないピヒラの様子が見たい。
いくら魔力溜まりの脅威がなくなって喜び興奮しているとはいえ、トールヴァルドやピヒラをぞんざいに扱われるいわれはない。
「すまないが――」
さすがに少しイラっとしたトールヴァルドが文句を言おうとしたとき、ピヒラがガタンと椅子をひっくり返して立ち上がった。
「ちょっと!うるさいわよっ!ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあとっ!ヴァルドは勇者なの!魔王はあたし!この大剣を見てわからないのっ?!」
『あら、言っちゃった』
その声は、広場に響き渡った。
頭上に掲げた大剣は、赤い刀身が輝いている。
「あっ!魔王様の武器って、赤じゃなかった?」
「銀じゃなかったよな」
「それに、魔王様って美しい黒髪って」
「そういえば、あの女の子がものすごい勢いで魔物をばったばったと倒してたよな」
「えっ、じゃあやっぱり……」
じり、と動いた町の人たちは、今度はピヒラに群がった。
「魔王様!!」
「こんな可憐な女の子が魔王様なの?カッコいい!」
「待て、あのツインテールに赤と黒の大剣って言ったら、『暴剣のピヒラ』だろ?」
「『暴剣』って、魔力容量は少ないけど魔法もめっちゃ使えるんじゃなかったか」
「それよ!魔法も使える魔王様なのよ!」
「魔王様っ!」
「ちっちゃくて可愛い!」
「こっち向いてぇっ!魔王様ぁ」
『今度はピヒラちゃんがもみくちゃじゃない』
トールヴァルドにしなだれかかろうとしていた女性も、その後ろから話を聞こうと目をギラギラさせていた男性も、一斉にピヒラに向かったのである。
さすが魔界の英雄だ。
勇者のトールヴァルドと扱いが違う。
「ちょっ!邪魔っ?!もぉっ!触んないで!」
その声が耳に入ったトールヴァルドは、素早く群衆をかき分けてピヒラを抱き上げた。
周りから聞き取れないほどに文句が出たが、トールヴァルドは声に魔力を乗せて威圧した。
「歓迎は嬉しいが、ピヒラが困っている。まだ旅は続くから、俺たちはこの辺で失礼する。少なくともこの近くの魔物はしばらく減ったままになるだろうから、このまま宴会を続けてぜひ息抜きをしてくれ。では」
もみくちゃにされたのが怖かったのか、ピヒラはトールヴァルドにしがみつくようにして抱き着いてきた。
抱き上げるトールヴァルドとしてはその方が楽だ。
「あの、ヴァルド。ありがとう」
「ああ。こういうときは気にせず頼ってくれ。ピヒラは俺の大事なパートナーだからな」
トールヴァルドは、安心させるようにぎゅっと腕に力を込めた。
「きゅう」
「ん?あっ!ピヒラ、大丈夫か?!」
『ピヒラちゃんってばいい顔してるじゃなぁい』
怒涛の展開に疲れたのか、ピヒラは気を失って眠っていた。
きゅう。
読了ありがとうございました。
続きます。




