19 第二回ハーレムキャンセルされた人のその後
よろしくお願いいたします。
そのとき、ローレは別の町で勇者がこの村にやってくるという噂をたまたま聞いた。
噂によれば、勇者は結構な美丈夫で、実力も確かな男性らしい。
とはいえ、噂は噂だ。
もしもこの村に来たら、そのときに実力を確かめてから考えてあげてもいいだろう。
前のパーティはだめだった。
ほんの少しローレが色目を使っただけで目当ての男を恋人から奪えたのは良かったのだが、元恋人と友人だというメンバーの女はローレを拒絶した。
しかし、それなら目当ての男と二人でパーティを、とはならなかった。
ローレは斥候で、その男は支援系の魔法使いだった。
たまには線の細い優男もいいじゃない、と思ってのアプローチだったが、やはり近接で戦える男でないとだめだ。
だからその男とはさっさと別れ、冒険者の多いこの村に一人でやって来たのだ。
ローレの斥候の能力はかなり高いので、魔物がいても避けながら進むことができる。
おかげで、一体も魔物に遭遇することなくたどり着けた。
そして出会ったのは、美丈夫とまではいかないが合格点には達していると言っていいであろう勇者だった。
こういう脳みそまで筋肉でできているタイプには、直接的な誘惑が効く。
豊富な経験から導き出した方法で身体も見せながら勇者に声をかけたものの、ざっくり断られた。
一緒にいる女だって、勇者が侍らせているのだからきっとぶら下がり要員のはずだ。
そう言ったら、その女はまさかのA級だという。
ローレはやっとB級に手が届きそうなところだというのに、とんでもないレベルの冒険者だった。
勇者よりも剣がうまいというのはさすがに誇張だろうが、少なくとも共闘できるレベルなのだろう。
じゃあ斥候として連れて行ってほしいと訴えても、その程度ならできるからいらないそうだ。
女に睨まれるのはともかく、勇者は取り付く島もなかった。
あげく、ついて行けばローレは無駄死にするとまで言われた。
確かに、戦力差は大きい。
だがそれよりも、髪の毛の先ほども勇者に女として見られなかったことがショックで、ローレはしょげた。
少し肌を見せる防具は男の目を集めるためだし、斥候という役に立つものの決定的な戦力にはならない立ち位置も男の庇護欲を誘うためだし、しゃべり方が荒っぽいのも甘えるときのギャップのためだ。
これまでにも、落とせなかった男はいた。
けれども、彼らはローレにぐらついていた。
それによって男の周りがごたつくのを見るだけでも楽しかったので、それはそれでよしとしていたのだ。
なのに、勇者はわざと胸の谷間を見せても無反応。
腰の括れを強調してみせても欲は一切感じられない視線。
それならまずはお気に入りの女を下げて揺さぶろうと思ったらやり返され、もうローレは食い下がれなかった。
もしかしたら、勇者は女じゃなく男がいいのかもしれない。
それくらい、相手にされなかった。
たくさんの人に見られていたため、その村にはいられず、ローレは別の町に移動して魔物を倒しながらぼんやりとすごしていた。
王都にも近いこの町には孤児院があって、たまたま通りかかった孤児に冒険者の仕事はどうかと聞かれ、簡単に説明してやったついでに勇者と行き会ったことも話した。
大興奮した孤児は、次の日にローレを孤児院に引っ張っていき、孤児たちの前でまた勇者の話をとねだった。
そうやって求められるのも悪い気はしない、とローレは自分の仕事の話や勇者を見たときの彼の様子、彼と一緒にいた大剣の乙女の様子などを面白おかしく話してやった。
大人気になってしまった。
しかしそうやって子どもにちやほやされたり自分が子どもたちをかまったりするのも悪くない、と柄にもなく思った。
ついでに短剣の使い方や斥候の方法を教えてやったりしているうちに、誠実そうなパン屋の男に告白された。
朴訥な彼は、子どもたちに対する愛情深い様子に心を打たれたなどと、たどたどしく思いを伝えてきた。
ローレはこれまでのことをすべてぶちまけ、ただの気まぐれだから忘れろと言った。
しかし、彼は諦めずに孤児院にパンを届けるついでにローレにも会いに来た。
すらっとしているわけでもないし、顔だってぼやっとしている。
パン屋だから腕っぷしはそれなりだが、冒険者ほど全身洗練されてはいない。
不器用な言葉選びの彼は、誠実さと嘘のないまっすぐさ、簡単には諦めない熱量、それから美味しいパンを作る腕くらいしかいいところがなかった。
二カ月で絆されて落ちた。
孤児たちに祝われながら、ローレはパン屋のおかみになった。
夫から大事に愛されたローレは、その後誰かを誘惑するようなことは一切しなかった。
そしてパン屋は数年後、元冒険者のおかみが直接会ったという勇者とその連れの大剣の乙女の話を聞けると有名になった。
パン屋の粘り勝ち。
読了ありがとうございました。
続きます。




