解毒薬と衝撃の事実 1
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結局、襲撃を受けたのはメディナ伯爵領の宿の一回だけのことで、その後の旅は、クリストバルと同じ部屋を使うと言うわたしの心臓に優しくない問題以外は平和そのものだった。
オルティス公爵領に入って一日ほどで、公爵家のタウンハウスに到着する。
大きな門をくぐると、青々とした芝生が敷かれた広大な庭の奥に、ほんのりオレンジ色が入ったような白い壁の大きな建物がある。
前庭に向かって、緩くアーチを描くように作られた邸は、正面に大きな玄関扉、そして、右と左側には、二階部分に通じるように作られたアーチ状の外階段があった。
左右のそれぞれの階段を上った先は、オープンテラスになっている。
……ひ、広っ! さすが公爵家……。
馬車が、門から玄関までまっすぐ伸びる石畳の道を進んでいくと、玄関前に数十人の使用人がずらりと並んで勢ぞろいしていた。
その中央に、オルティス公爵と、綺麗な女の人が立っている。彼女が公爵夫人だろう。
馬車が停まると、使用人の中から燕尾服を着た男性が歩み寄って来て、扉をあけてくれた。彼がタウンハウスの執事なのだろう。四十歳前後くらいの優しそうな男性だった。
まずクリストバルが下りて、すっと手を差し出してくれる。
旅の途中いつも馬車から降りるときに手を貸してくれていたから、すっかり慣れていたわたしは、自然と彼の手を取って馬車を降りた。
すると、オルティス公爵がにこやかに歩いてくる。
「お待ちしていました、アサレア王女殿下」
公爵が言うと、背後の使用人さんたちがいっせいに「いらっしゃいませ」と頭を下げて、わたしは内心で「おぉぅ」と驚いてしまった。すごい。一分の乱れもないよ。
「お、おじゃまします……」
人のお家におよばれなんてはじめてだから、こういう時なんて言っていいのかわかんないよ。
ぺこっと頭を下げると、オルティス公爵が苦笑して、クリストバルが「王女が頭を下げるな」とあきれ顔をした。
……え? そういうものなの?
マナーなんて誰かに教わったことはないし、そもそも王女らしい扱いを受けていなかったから、知らないよそんなの。
だけど、もしかしてここでは王女としてのふるまいを求められるのだろうか。困るんだけど。
弱り顔でクリストバルと公爵を交互に見ていると、すすすっと公爵夫人が滑るように歩み出てきた。
公爵夫人とは初対面なので思わず身構えちゃうよ。
彼女はにっこりとわたしに微笑みかけて、言う。
「どこかの無礼者が、王女殿下の学ぶ機会を奪ったと聞きます。せっかくですので、ここにいる間はわたくしが責任をもって、王女殿下を素敵なレディにして差し上げますわ」
え。
そんな気遣い、い、いらない……。
だけど、拒否できそうな雰囲気ではもちろんなく。
きらきらと、エメラルド色の瞳を少女のように輝かせている公爵夫人は、ひるむわたしに、とっても楽しそうにころころと笑ったのだった。
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