吊り橋効果はやっかいな病気 2
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「ねえ、本当に同じ部屋なの?」
「そうだ」
「だってベッドがくっついているわよ」
「くっついていようとどうしようと、ちゃんと二つあるだろうが」
「ねえ」
「くどい!」
ふんっ、「くどい!」って怒っているみたいに言っても無駄なんだからね。
そんなに真っ赤な顔をして言われても、怖くなんてないのよ!
クリストバルだってわたしと同じ部屋は嫌なはずだから、彼がわたしの身の安全のために我慢してくれてるのはわかるわよ?
でも、やっぱり乙女として素直に引き下がるのは癪というかなんというか!
……べ、別に意識しているわけじゃないんだけどねっ!
二度目の人生で結婚までしておいて乙女とか言うなって感じだけど、それはそれ、これはこれなのよ!
とにかく、恥ずかしいの!
部屋の中央でそわそわしながら立ち尽くすわたしの横では、モニカさんが運ばれて来た夕食を並べていた。
色つき眼鏡を着用しているけど、わたしはできるだけ人の目に触れない方がいいだろうからと、食事は全部部屋の中で取っている。
宿の従業員が準備を手伝ってくれると言っても、モニカさんが断って全部一人でやってくれるから、それはそれで申し訳ないんだけど……、わたしも手伝おうかと訊いたら、笑顔で大丈夫ですと言われれば引き下がるしかない。
……たぶん、わたしが手を出したほうが邪魔になるでしょうし。
クリストバルと同じ部屋でも、寝るまではモニカさんがそばにいてくれるからいいんだけど、問題は寝るときよね。
さすがにモニカさんに同じ部屋で休んでほしいとは言えないし、そんなことを言えばモニカさんが困るだろう。
……うぅ、ベッドが隣り合わせ。
これ、ころころと転がったらクリストバルのベッドにたどり着くわ。
さすがに、寝ているときに転がったりはしないでしょうけど。
クリストバルは立ち尽くすわたしに背を向けて、ソファに座って本を開いていた。
……ふん、まだ耳が赤いわよ!
冷静ですってふりしてるけど、内心はわたしと同じ部屋で動揺してるんでしょ?
でも、本を読むのはいいことかもしれないわ。気持ちが落ち着いてくるかもしれないし。
確か、道中の暇つぶしにってモニカさんが貸してくれた本があったはず。
わたしは荷物の中からあまり分厚くない一冊の本を取り出すと、ベッドの縁に腰かけた。
モニカさんおすすめの恋愛小説である。
文字の読み書きはラロが教えてくれて知っている。難しい本は無理だけど、この本はそれほど難しい単語もないし大丈夫そうね。
本を読んでいると、モニカさんが夕食の準備を終えてわたしたちを呼んだ。
四人は座れそうな丸いテーブルには、美味しそうな料理が並んでいる。
「毒見はすませましたので、安心してお召し上がりください」
何度聞いても、このセリフはパワーワードよね。
モニカさんはメイドなのに、毒見までするのよ。
わたし、これまで一度も毒見なんてしてもらったことないから、最初はとってもびっくりしたわ。
もしも食事に毒物が混入していたら、下手をしたら毒見をしたモニカさんが死んじゃうかもしれない。
だからそんなことはしないでほしいのに、モニカさんはこれが自分の仕事だって言うのよね。
メイドさんにもいろいろ役割分担があって、モニカさんは主人の身の回りの世話が任されている、メイドの中では上の方の人なんだって。その分、求められる役割も多いんだそう。
身分の高い女性には、他にも侍女がつくこともあるけど、オルティス公爵家で侍女がついているのは公爵夫人だけで、そして侍女は毒見なんてしないんだそう。
だから、毒見役のメイドはモニカさん以外にも数名いるって言っていたわ。
……貴族、怖い。
毒殺なんてものが日常に潜んでいるなんて、ぞっとするわね。
モニカさんに万が一なんてあったらいやだから、ラロがいたら解毒薬の作り方を教えてもらおうと思ったんだけど、わたしのついうっかりを警戒してか、ラロは旅の間一度も姿を現さない。
領地についたら、さすがにわたしが一人のときは姿を見せると思うから、その時にでも作り方を聞いて、頑張ってとってもよく効く解毒薬を作るわ!
「ありがとう。アサレア、食事だ」
「うん。……モニカさん、ありがとう」
毒見はしてほしくないけど、だからと言ってお礼を言わないのは違う。
命を張って毒が入っているかどうかを確かめてくれたモニカさんにお礼を言って、わたしはクリストバルと席に着いた。
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