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やり直し魔女は、三度目の人生を大嫌いだった男と生きる  作者: 狭山ひびき
第一部 三回目の人生

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嫌いだった男とすごす夏 2

お気に入り登録、評価などありがとうございます!


第一部完了まではノンストップで毎日更新行けそうです(*^^*)

 二週間が経って、ついにオルティス公爵領に向けて旅立つ日がやって来た。

 離宮までクリストバルが迎えに来てくれて、わたしの少ない荷物を持ってくれる。


「なんで鍋と木べらが?」

「薬を作るかもしれないからよ」


 というか、薬草さえ見つかれば確実に作るわね。お金儲けのために、ラロが作ってほしいみたいだから。


「こんなものうちの領地に行けばいくらでもあるんだが」

「道中で使うかもしれないじゃない」

「なんで道中で薬を……ああもういい。持って行きたいなら持っていけ。だが、鍋と木べらと空き瓶以外のお前の荷物が少なすぎやしないか? こんな小さなトランク一つとは……」

「持って行けそうな着替えがそんなにないのよ」


 だって、わたしの服のほとんどは、ラロが中古屋で買ってくるものばかりだもの。

 クリストバルがくれた服が数着あるにはあったから、それを詰めてきたのよ。

 でも、洗って着れば大丈夫じゃないかしら? オルティス公爵領まで、馬車で何日かかるか知らないけど。


「領地の屋敷までここから十日かかる。足りないが、道中で買えるものと言えば安物の既製品くらいだぞ」


 それでも、わたしの普段着である中古服よりは高級なんだけど。


「洗いながら行けばいいんじゃない?」

「まあ、この季節は夜も気温が高いからな。洗って寝ている間干しておけば何とかなるかもしれんが……状況を見て考えるか。こんなことなら事前に着替えを用意しておくんだったな。気が利かなくてすまない」

「クリストバルが謝ることじゃないでしょ」


 わたしの予算が正常に出ていれば、その予算内でわたしの服が購入されて届けられているはずなのだ。謝るべきはわたしの予算を横領したやつである。


「領地についたら服を作ろう。今まできちんとサイズを測って作れなかったからな。父上と母上は一足先に領地に帰ったんだが、君が来るまでに仕立て屋にデザインを用意しておくように伝えておくと言っていた」

「着られればサイズなんてどうだっていいんだけどね」


 クリストバルがくれた服は、彼がだいたいこのくらいだろうと目安で頼んで作らせたもので、サイズは少し大きいくらいだった。小さいよりは大きい方がましだろうと大きめに作らせていたからだろう。

だが、本来王女や貴族令嬢は、自分のサイズぴったりな服を作らせる。

 わたしはまったく気にしないけど、クリストバルは気にしていたのかしらね。


 わたしの荷物を持って、クリストバルが歩き出す。

 ラロはどこにいるのかわからないけど、隠れてついてくるそうよ。馬車の屋根にでも乗るのかしら?

 オルティス公爵家の馬車は、山のふもとに停めてあるらしい。


 ……一度目と二度目の人生でも、ここから出る時にこうやって山を下りたけど、クリストバルと一緒に山に下りるのは新鮮ね。


 荷物も全部持ってくれたし。

 エミディオは複数の使用人を連れてやって来て、使用人たちが荷物を持ってくれたけど、自分では一つも持たなかった。

 どっちが貴族らしいのかと言えばエミディオなんだろうけど、クリストバルのように、自分で荷物を持ってもらえるってちょっと嬉しいものね。


 十五分ほどかけて山のふもとまで降りると、艶々の黒い馬車が三台並んでいた。

 そのうちの一つにクリストバルがわたしの荷物を入れて、わたしを別の馬車に案内する。

 馬車の前にはオルティス公爵家の執事さんが立っていて、扉をあけてくれた。


「貴族の移動って、馬車がたくさん必要なのね」

「これでも少ない方だ。父上たちが先に領地に帰ったからな、その時に必要なものは一緒に運んでもらった。……それから、本当なら王女の移動には騎士団が動くし、荷物も非常に多いから、こんなものじゃないんだ。お前の姉たちは、他国に嫁ぐ際に馬車が二十台必要だったらしいぞ」


 うげっ!

 二十台の馬車がぞろぞろと一列で移動したの? めっちゃ迷惑!


「さすがにそこまでの数の馬車が動くのはあまり見ないが、六、七台くらいは普通だ。今回、お前は俺と同乗してもらうことにしたから一台減らして三台に収まったんだが、ギリギリまで四台にするか悩んだ」

「なんで?」

「……俺と同じ馬車は嫌かと思って」


 あら、そんな気を回してくれたの?

 別に、嫌じゃないわよ。

 最近、嫌味もちょっと減ってる気がするし、こうして会話が成り立つようになったし……クリストバルが、本当は嫌なやつじゃないって、もうわかっているわ。


 一度目と二度目、二回も殺されたのはすっごく不幸だと思うけど、そのおかげでクリストバルが嫌なやつじゃないってわかったのは、よかったのかしら。

 まあ、クリストバルは、わたしが彼のことをどう思おうと気にしないでしょうけど。わたし、嫌われてるんだろうし。


「一緒でいいわよ。そんなこと気にしないわ」


 別にあんたのことは嫌いじゃないわよって言えれば可愛げがあったんでしょうけど、残念ながらわたしには無理だった。

 クリストバル相手だと、ついついツンケンした言い方になっちゃうのよね。

 自分でも、言い方ってものがあるでしょうよと思うくらい素っ気ない口調になっちゃったんだけど、クリストバルは気にしていないどころか、安心したように笑った。


「それならよかった。あ、道中の宿の部屋は分けるから安心してくれ」


 それは当たり前だと思うけど。さすがに、未婚の男女が同じ部屋で寝泊まりするのはまずいわよ。


「じゃあ、何も問題ないわね」

「そうだな。あ、そうだった。これを」


 馬車に乗って、クリストバルが思い出したように小さな箱を取り出した。

 中には色ガラスのはまった眼鏡が入っている。


「途中の宿で嫌な思いをするかもしれないからな。これをかけておけば、多少は目の色が誤魔化せると思う」

「何なら何まで悪いわね」

「綺麗な色だから、隠すのはもったいない気がするがな」


 試しに眼鏡をかけてみると、クリストバルが残念そうに言った。

 わたしは、つい息を呑んじゃったわよ。

 だって、そうでしょ? 目の色が綺麗なんて言われたら、不覚にもドキリとしちゃうじゃない。

 わたしは言葉に詰まったまま何も言えなくなっちゃったんだけど、クリストバルはわたしの異変に気付いていないみたいで、馬車の窓の外を見た。


「ほら、そろそろ動くぞ。それから、眼鏡は車内ではかけなくてもいい」


 そう言われたんだけど、眼鏡をはずしたらわたしが動揺しているのがばれそうな気がするから、落ち着くまでかけておくことにするわ。





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