兄からのちょっぴりお節介なお礼 3
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えーっと、要約するとこういうことかしら?
ファウストお兄様は、わたしの栄養薬のおかげで以前よりも体調がちょっとよくなって、とっても感謝している。
だからわたしに何かお礼がしたいけれど、直接ここに来れるだけの体力はまだない。
で、クリストバルに相談し、彼がファウストお兄様の代わりにわたしにお礼をすることになった。
話し合った結果、わたしを離宮から連れ出し、シーズンオフの間オルティス公爵領で自由を満喫してもらってはどうかという結論に至った。
オルティス公爵領は王都からだいぶ離れた西の方にあるし、西の隣国であるエチェリア公国に近いため、王都周辺に住む人たちよりも魔女に対する忌避感情が少ない。
オルティス公爵家の人たちもわたしに悪感情を抱いていないため、わたしも気が楽だろう。
……って、簡単に言うわね~。
「あのさ、お兄様はそれでいいかもしれないけど、わたしをここから一時的とはいえ出すことに、お父様……国王陛下たちは納得しているわけ?」
「そこはファウスト殿下が説得したよ」
「よく説得できたわね」
「この離宮は古いから、一部が老朽化してるだろう? そろそろ修繕が必要だから、修繕している間うちの領地に避難させればいいっていう言い方をしたそうだよ」
それ、もしかしなくてもクリストバルの入れ知恵じゃないかしら。
だってお兄様は一度もここに来たことがないのよ? 老朽化しているなんて知らないと思うもの。
「期間は二、三か月くらいになるだろうが、その間うちの領地でのんびりとすごせばいい」
「そうねえ……」
わたしはまあ、いいのよ?
ここにいても変わり映えのしない毎日だし、二、三か月とはいえ、普段目にしないものが見られるのならそれはそれで楽しそうだし。
だけど、ラロはどうすればいいのかしら。
空飛ぶ犬なんて人が見れば卒倒するでしょうし、ましてや本人が言うにはフェンリルだそうだもの。そんなことが知られれば、阿鼻叫喚の騒ぎになるんじゃないかしら?
「ねえ、それ、もう決定なの?」
「ああ」
お兄様、決定事項として落とし込む前に相談してほしかったわね。
まあ、あっちはよかれと思ってやってることなんでしょうけど、いきなり言われても困るもの。
「急な提案ですまないとは思っている。……だが、これにも一応、理由があるんだ」
「理由って?」
「詳しいことは領地で話すが、お前の予算を横領している犯人がだいたい把握できた。だが、証拠がたりなくてな。だから強引な手段で捜査を行うことにした」
「というと?」
「お前が数か月とはいえうちの領に来させることで、お前の予算が届いていないと報告できる。本来毎月届けられるものだ。場所が移れば、当然そちらに届けられる。だが届いていない。これはどういうことかと、うちから陛下に奏上する」
あー、そういうことね。
これまでも予算なんて全然もらってなかったけど、わたしがいくら主張したところで誰もわたしの話を真に受けてはくれない。
むしろ、もっとお金が欲しいから嘘をついているんだって思われるのがおちよ。
だからクリストバルも証拠集めをしていたの。声を上げただけでは無駄だってわかっていたから。
で、わたしのお金を横領している人間はどうやらそれなりの人間みたいで、証拠を集めが難航していた。
多少は集まってるみたいだけど、たぶんまだ出しても握りつぶされる程度のものしか集まってないんでしょう。
そこでクリストバルは、わたし以外の人間がわたしの予算を把握できる状況を作り出したかったってわけよ。
公爵家に行けば、公爵家の人間が予算が届いているかどうか把握できる。
わたし一人しかそれが確認できない状況なら難癖をつけて無視されても、公爵家が口を出せば無視できない。
お父様も、わたしがどうなろうとどうでもいいと思っていたとしても、公爵家から横領という言葉を出されれば調査させないわけにはいかないってことよね。
たとえその背後に大物が潜んでいたとしても、一度調査がはじまれば完全には逃げられない。
相手が罪に問われるのを回避したとしても、疑いの目を向けられれば、今後同じようなことはできなくなる。要するに、わたしに予算が回ってくるようになるってことね。
……ラロが薬を売って稼いでくれるから、まあ、なくてもいい予算なんだけども。
だけど、逃亡資金を貯めているラロからすれば、入って来るお金が増えるのは万々歳なんだと思うから、もらえるものはもらっておくのもいいわよね。
「ということは、お兄様も知っているのね」
「ああ。俺が話したからな。殿下も……というよりは殿下の側近だが、証拠集めを手伝ってくれているんだぞ。その上で、これ以上は無駄に時間がかかるだけだろうから、強引に叩くという方法に変更したほうがいいと言ったのは殿下だ」
ふーん。ちょっとびっくりだわ。
会ったこともないお兄様が、わたしのために動いてくれていたなんてね。
でも納得。
だからお礼という名目で、何としてもわたしをオルティス公爵家へ向かわせたかったのね。
まあ、お礼っていうのは本心からかもしれないけど、そのついでに片を付けたいんだわ。
「わかったわ。まあ、わたしにはありがたい話だし、いいわよそれで」
むしろわたしのために動いてくれているんだから、ここでごねるのもおかしいわよ。
ラロにはあとで説明しておきましょう。
それにしてもお兄様って、結構お節介なのね。
わたしにお節介を焼く人なんて、今までラロとクリストバルしかいなかったから……その、ちょっと変な感じよ。






