出た! 諸悪の根源! 2
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サロンという名の、古ぼけた椅子とテーブルしかない部屋に向かうと、エミディオが席について、テーブルの上で持参したお菓子の箱を開けていた。
「アサレア、お菓子を買って来たよ。お茶を頼めるかい?」
こいつ、わたしが大きな花束を抱えているのが見えないのかしら。
わたしは引きつりそうになりながらも必死に笑顔をキープして「ええ」と頷く。
キッチンに向かったわたしは、適当な鍋に水を入れて花束をぶち込んだ後、別の鍋で湯を沸かした。
……ムカつくから、特別まずーいお茶を入れてやろうじゃないの!
茶葉を多めにして、蒸らし時間を長くして、とっても渋い紅茶にしてやるわ!
ふふふ、見てなさいエミディオ。
わたしはエミディオへの小さな報復をする瞬間を思い描いてにまにました。
渋いお茶を出したとき、あいつがどんな顔をするか見ものだわ!
お湯が湧いたら、わたしはティーポットにどばどばと茶葉を入れて、その中のお湯を注いだ。
そのままじーっと待つ。
しっかり渋みが抽出された頃になって、わたしは用意したティーカップにお茶を注いだ。
……って、待って。これだとわたしもこの渋いお茶を飲む羽目になるんじゃ……。
小さな復讐のためとはいえ、それはちょっと嫌だ。
わたしはもう一度鍋を火にかけると、自分の分だけ新しく入れ直すことにした。エミディオの紅茶は冷めるけど、わたしは別に構わない。
自分の紅茶を入れ直したわたしは、エミディオと自分の分を間違えないようにティースプーンの種類を変えて、トレイに乗せてサロンへ戻る。
さっとエミディオの前に彼の紅茶を置いて、わたしは平然とした顔を作りながら席に着いた。
「お待たせ、エミディオ」
「気にしてないよ」
そこは「待ってないよ」って言うところじゃないかしら?
……まあいいわ。さあ、飲みなさい。そのしぶーいお茶を飲むのよ!
わくわくしながらエミディオの手元を見つめていると、彼の手がティーカップに伸びた!
優雅な仕草で口元にティーカップを持って行ったエミディオは、紅茶を口に含んだ瞬間にぐっと眉間に皺をよせ、取り繕った笑みを浮かべてティーカップを置く。
「あら、飲まないの?」
「そんなに喉が渇いてないんだ」
それでも、出されたお茶は飲むのが礼儀じゃないかしら?
わたしの小さな復讐、成功ならず!
思わず舌打ちしたくなったけど我慢して、わたしはエミディオが持って来たクッキーに手を伸ばす。
「クッキー、美味しいわ」
「それはよかった、料理人に伝えておくよ」
エミディオはにこにこと笑っているけれど、よく観察すると、作り笑い臭がぷんぷんするわね。
一度目と二度目の人生のとき、わたしがもっと冷静だったら、エミディオがわたしを愛していないことにはすぐに気づけたかもしれない。
うわべだけの言葉と笑顔に騙されたわたしも大概だわ。
エミディオが本当にわたしのことを思ってくれていたのなら、気まぐれに花束持参でやって来て、ただおしゃべりして帰るだけで終わるはずがなかったのよ。
少なくとも、クリストバルみたいにわたしの生活をサポートしようとしてくれたはずだわ。
エミディオにとってわたしは、玉座を得るための道具で、機嫌を損ないたくないから適当にご機嫌伺いに来ているってところなんでしょうね。
そうとも知らず、わたしはコロッとこいつに恋しちゃって……エミディオからすれば、何てちょろい女なんだって思ったでしょうよ。
「アサレア、今日は元気がないね」
おっと、頑張ってはみたけれど、いつもみたいに「エミディオ好きー」オーラは出せなかったみたいね。
しょうがない。誤魔化そう。
「数日前からちょっと風邪っぽいの、だからかしら?」
すると、エミディオは笑顔のまま立ち上がった。
「それはいけない。長居をするとアサレアの体調に触るから、僕はお暇しよう」
つまりは移されたくないからとっとと帰るってことね。
わたしを気遣うようなことを言っているけど、全然気遣っていないのが丸わかりだわ。
「エミディオ、玄関まで見送るわ」
「いや、大丈夫だよ。じゃあアサレア、またね」
エミディオは笑顔で手を振ると、早足でサロンから出て行く。
わたしが紅茶を入れている時間を引き算すれば、滞在時間は十分そこらってところかしら。
……あーあ。これまでのわたし、これでよくエミディオに大切にされてるって勘違いできたものね。
百年の恋も冷める、というか、そもそもその恋自体、幻想だったのかもしれないわ。
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