病弱王太子の現状 3
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ラロに教えてもらいながら栄養薬を作ったわたしは、それを詰めた瓶を見つめながら、クリストバルがやって来るのを指折り数えて待っていた。
……べ、別に、あいつに会いたいわけじゃないのよ!
せっかく薬を作ったから、まあ、あれよ。早く渡したくなっただけよ。
ダイニングチェアに座って、瓶の蓋を指先ではじきながらぼーっとしていると、玄関がガチャリと開く音が聞こえてハッとする。
エミディオは扉をノックするんだけど、クリストバルは勝手に入って来るのよね。昔、わたしが一度あいつを閉め出したことがあって、それ以来それを警戒してノックなんてしなくなったの。
乙女の暮らす家に勝手に入って来るのもどうかと思うけど、わたしももう慣れたものよ。
玄関に走って行こうとしたわたしは、なんかそれって待っていたみたいじゃない? と思いなおして、ダイニングの扉をそーっと開けて玄関を伺うだけにとどめて置いた。
……やっぱり、クリストバルだわ。
今まで一週間に一度来るか来ないかの頻度だったのに、ここのところ、数日に一度来てるわね。
お菓子の包みっぽいものを持ってるから、あれはたぶん差し入れだろう。ケーキだろうか。ケーキだといいな。
あそこに美味しいケーキがあるかもしれないと思うと、ちょっとそわそわしちゃうわね。
「アサレア、そこにいたのか」
ダイニングの扉から頭だけ出していたわたしを見つけて、クリストバルが「何してるんだ?」と怪訝そうである。
「べ、別に、たまたまダイニングにいたのよ!」
「そうか。だが、出てくればいいのに」
そう言いながら、クリストバルがまっすぐにこちらへ歩いてくる。
「ほら、この前のケーキを買って来た。気に入ったみたいだからな。それから、パンや燻製肉、野菜も持って来たが、それはキッチンにでも運ばせておく」
「……ありがとう」
ケーキも嬉しいけど、食材も嬉しいのよね。
ラロも買ってきてくれるから、なくても困らないんだけど、まあ、その気持ちが嬉しいって言うか。
誰も気にかけないわたしの生活を、こいつだけは気にかけているんだなと思うと、悪い気はしない。というかちょっとくすぐったい。
……これでこいつが厭味ったらしくなかったら仲良くなれた気がするのに。
でも、それはお互い様かもしれない。わたしもクリストバル相手だと、ついツンケンしちゃうからね。
「茶でも入れようか」
「うん」
クリストバルの入れた紅茶は美味しかったから、ここは素直に頷いておくわ。
「ダイニングで待ってろ。すぐに戻る。……またキッチンを散らかしてないだろうな」
「ちゃんと洗ってるってば」
「洗うだけではなく棚に片付けるまでがワンセットなんだが……まあいい。散らかっていたら直しておく」
棚に納めなくたって、また使うんだからいいと思うんだけどな。
待ってろって言われたから、わたしはダイニングの椅子に座り直した。
薬の入った瓶を指先でとんとんと叩きつつ、まだかな、まだかなとちらちらと扉を確認する。
少しして、ワゴンを押しながらクリストバルが戻って来た。
「また皿と鍋が洗い終わったまま積み上げられていたぞ。なんでお前は積み上げるんだ? あれだと取るときに面倒くさいだろうに」
悪かったわね!
だけど、文句はぐっと我慢よ。だってそこに美味しい紅茶とケーキがあるもの。クリストバルと喧嘩してケーキがお預けされたらいやだわ。
わたしの前にティーカップとケーキを乗せたお皿が置かれる。
真っ赤なイチゴのショートケーキだ。この前のやつ。とっても美味しかったやつ!
フォークを握り締めたわたしは、忘れないうちにと、薬の瓶をクリストバルの方に押しやった。
「あげる」
「また花粉症の薬か? まだまだ残っているぞ」
「違うわよ。それはね、栄養薬よ」
「栄養薬?」
「そう。……虚弱体質とか言うのは原因がわかんないから治せないけど、あんまり食べられないなら、それでも飲んで栄養を補った方がいいわ。そうすれば多少体力も戻ると思うし」
ちょっと気恥ずかしかったので視線を少し逸らしてケーキを食べつつ答えれば、クリストバルが目を見張った。
「殿下のか?」
「まあ、そうとも言うし? クリストバルがほかの誰かに上げたいならそれでもいいって言うか、それをクリストバルがどうしようとわたしには関係ないって言うか……だからその……好きに使いなさいよ!」
もう、恥ずかしいんだから皆まで言わせないでよね!
たぶん、わたしの顔、今真っ赤だわ。だってとっても頬が火照ってるもの!
「いいのか?」
「だから、わたしはあんたに上げただけよ! それを、わたしが作ったものだって人にバラさないなら、好きにすれば?」
すると、クリストバルは綺麗な顔でふんわりと笑った。
……なによ、そんな風に笑えるんじゃないの。
眉間に皺を寄せて機嫌が悪そうな顔ばっかりしてないで、たまにはそうやって笑えばいいのに。
「助かる」
「内緒だからね」
「ああ。お前が困るようなことは、絶対にしない」
クリストバルは大切そうに薬の入った瓶をポケットに入れた。
そして、自分の手元にあるケーキを、わたしの方に押しやって来る。
「今はこれしかないが、礼だ」
このケーキは美味しいから、素直に受け取っておくわ。
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