これは薬草採取でデートではない! 3
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「では、今から薬を作ります」
「ああ」
わたしはクリストバルが綺麗にしてくれた部屋の真ん中に鍋と木べらに水差し、そして採って来たばかりの薬草の入った籠を置いた。
クリストバルは鍋を見て怪訝そうな顔をしている。
「キッチンに行かなくていいのか?」
「火はいらないの」
「鍋だろう?」
「別に鍋じゃなくてもいいけど」
クリストバルはますます怪訝そうな顔になった。
だけど、口で説明するのは難しいのよ。というか面倒くさい。
「とにかく見てたらわかるわ」
わたしは鍋の中に薬草と水を入れる。
そして、木べらでぐるぐるとかき混ぜていくと、中の水と薬草が少しずつ混ざり合って、だんだんと粘度のある液体に変わって来た。
「その鍋は特別製なのか?」
「違うわよ。こうやって混ぜる時に魔力……ええっと、魔法の力を込めるの。そうしたらこうなるの」
わたしだって原理なんてわかんないもの、これ以上の説明はできないわ。
ラロが教えてくれて、実際に試したらできただけだもの。
クリストバルが目をぱちくりしながら鍋の中身を見つめていく。
「どんどん体積が減っていくな」
「そうね。あと三分の一くらいの量になるかしら」
「そんなに減るのか? だが……その、ずいぶんと粘っこいと言うか……」
「まあ見てなさいって」
ねちょっとした薬を想像したのか、クリストバルがものすごく嫌そうな顔をした。
わたしだって深緑色をしたねっとりしたこの液体を飲めと言われると嫌だから、気持ちはわかる。
ぐるぐるとかき混ぜ続けると、やがて、カランコロンと鍋の中にたくさんの丸薬が転がった。
「……固まって丸くなった」
「完成よ。これが花粉症の薬。一日一粒飲めばいいわ」
「安全な薬なのか?」
クリストバルが鍋の中から薬を一粒摘み上げる。
「気になるなら飲んでみたらどうかしら? あんたは花粉症じゃないみたいだから、飲んだところで何の変化もないでしょうけど」
水差しからコップに水を入れて、クリストバルに渡してやる。
クリストバルは深緑色の丸薬をしげしげと見つめたのち、ぽんと口の中に入れた。そのまま水で飲んで、胃のあたりをさする。
「口に入れた時に少しだけ苦みを感じたが、気になるほどじゃないな。その、花粉症とやらの症状がある人間は、飲んだ後でどのくらいで効果が出るんだ?」
「わたしも詳しくはないけど、十五分もすれば効果が表れるんじゃないかしら? この薬、この時期にとってもいいお値段で売れるのよ」
「その割に俺は知らなかったが」
「顧客が誰かは知らないもの。たぶん貴族とかには売ってないんじゃない?」
万が一魔女の薬だって気づかれたら、わたしにたどり着くかもしれないし。
ラロのことだからそのくらい考えて、売りさばく相手は選んでいるはずよ。
「わたしが作っているって知られたらどんないちゃもんをつけられるかわかんないから、この薬のことは内緒にしておいてよね」
「あ、ああ。それはもちろんだが……そんな高価な薬を、もらっていいのか?」
「効果も何も、その辺に生えてる薬草と水だけで作れるのよ? 元出は何もかかってないわ」
ラロが売りさばくときに持って行く用の空き瓶にできた薬を詰めてやる。
「これだけあったら今期は充分でしょ」
「ありがとう。父上に渡しておこう。……最近、目が充血していて痛々しかったし、喜ぶだろう」
「あら、結構重症なのね」
オルティス公爵には何度か会ったことがあるけど、あの綺麗な顔の紳士が目を真っ赤にして鼻水を垂らしているところなんて想像したくないわね。
「今度何かお礼を持ってくる」
「そう? じゃあ、美味しいお菓子がいいわね」
「ドレスや宝石じゃなくていいのか?」
「そんなものをもらって着飾って、誰に見せるの?」
「それは、お……いや、何でもない」
何かを言いかけたクリストバルは、耳を赤くしてぷいっとそっぽを向く。
「次に来た時に、王都の有名店のケーキでも買って来る」
それは楽しみね!
クリストバルは丸薬の入った瓶を抱えて、再三「狼には気をつけろ」と言い残して、執事さんと一緒に帰って行った。
ふぅ~。
二度目の人生で死んだばかりだって言うのに、今日は濃い一日だったわ~。
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