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双極世界の黒い瞳の魔王様  作者: 井平カイ
第五章【黒い瞳の魔王】
38/40

開かれる扉

 中央議事塔……ここは、天界の中心地。軍事、行政等の方針が決められる場所。

 街の中で一際大きく聳え立つ白い塔は、まるで天界全てを見渡すかのようだった。中は一面白を基調とした造りになっていた。純白の通路は日射しを乱反射させ、まるで光の城であるかのように思わせる。

 その中を歩く三人。コツコツ……コツコツ……と、足音が後を追う。

 大志は周囲をキョロキョロと見回していた。兵士の数は多い。至る所の扉の前には、槍を持った兵が警戒をしていた。


「あの扉の部屋に、色んな重鎮がいるんだ。政治家、大臣……襲おうと思っても、かなり厳しいと思うぞ」


 扉を見つめる大志に、クロエが歩きながら声をかける。


「襲うつもりはないけど……ここって、やっぱ天界の中心なんだな。改めて実感したよ」


 その言葉に、クロエは声を出して笑う。


「当たり前じゃないか。“天界の脅威”は、相当な世間知らずのようだな」


「天界の脅威?」


「お前のことだよ、雷帝。天界に仇なす強者。数々のシュバリエを撃破し、天界を目指す者――本国では、そう呼ぶ者もいる」


「そんなことを言われてたなんてな……」


「お前が相当な腕であることは分かる。さっきから隙が無いからな。……しかし、天界の脅威ってのは大袈裟のような気もするな」


「ハハハ……」


 大志は苦笑いをする。何だか凄く失礼なことを言われた気がしていた。


 一方ステラは、どこか落ち着かない様子だった。

 彼女にとって、ここは自分を敵視する人々の中心地。気が気ではない心境であった。


「……魔界人、安心しろ。お前に危害を加える連中は、ここにはいないさ」


「……え?」


「ここの兵達には、それぞれの任がある。敵を討つ者、警護をする者、サポートをする者……広く兵とはいえ、それぞれにそれぞれの責務があるんだ。それを放棄してまでお前を捕える輩は、ここにはいない。一人の勝手な行動は、隊全体を危険に晒すことになる。それを、皆重々分かってるんだよ」


「……」


「なるほどな……統率ってやつか……」


「そうだ。だからこそ、我らは強い。――だから、妙な動きはしないでくれよ雷帝。お前とて、無事では済まないはずだ」


「……念押しかよ。そんなに心配しなくても、何もするつもりはないさ」


(今のところは、な……)


 ここは天界の本拠地。何があるか分からない。それに、勇者が自分達をここへ呼んだ理由も分からない以上、これから先の展開も読めない。

 大志は、人知れず握る拳に力を入れていた。そして周囲への警戒も、更に強いものにしていた。




 ◆  ◆  ◆




「……ここが……」


「ああ。勇者様達がいる部屋だ」


 施設の中をしばらく歩いた大志達は、とある扉の前にいた。周囲の白色とは違い、年期のある木の大扉であった。扉からは、重々しい雰囲気が漂う。心なしか、空気も鋭い。

 緊張漂う中、クロエは静かにドアをノックする。


「……勇者様、クロエです。(くだん)の者達をお連れいたしました」


 彼女の言葉に、扉の内側から声が響く。


「――ああ、ありがとう。通してくれ」


 その声に、クロエは一度扉に頭を下げる。


「失礼します……」


 そして扉は開かれる。

 大志の喉からは、ごくりと唾を嚥下する音が鳴る。そこにいるのは、これまでの旅の目的。会いたかった人物。ゲームや小説でしか見たことがない、本物の勇者と呼ばれる者達……彼の緊張は、自然と向上していた。

 一方、彼以上に四肢に力が入る者がいた。ステラだ。

 握る手には汗が帯びる。口の中はカラカラだった。それとは正反対に、フードの中の顔にはツーっと一筋の汗が流れる。


 様々な想いが入り混じる中、扉は重い音を響かせていった。そして開かれた扉の中から、眩い光が放たれる。部屋の窓の正面には、まるで待ち構えているかのように太陽が座していた。その光は、中の様子を眩ませる。

 大志は思わず、手を目の前にかざし光が視界を阻害するのを防いだ。部屋の中央には大き目の机、それと椅子が数脚。部屋の隅には本棚もある。そして中には、三つの人影があった。その中心に立つ人物から、声がかかる。


「――クロエ、ご苦労だったね」


 透き通るような、男性の声だった。とても優しく、耳に触れるように響く。

 その言葉に、クロエは頭を下げる。

 

「いえ。命令に従ったまでです」


「命令じゃなくて、お願いだったんだけどね。……まあいいや。後はこっちで適当に話すから、もう下がっていいよ」


「はい……」


 クロエは深く一礼した後、踵を返し外へと向かう。

 その途中、大志とすれ違う最中、彼女は大志に視線を向けた。そして彼と目が合ったのを確認した後、口を動かし声なき声を届ける。

 ――妙なことはするなよ――

 彼女の口は、そう動いていた。


(……本当信用ねえな、俺……)

 

 大志が軽く手を振り合図をすると、クロエはクスリと笑みを浮かべ部屋を後にした。

 扉が閉まる音が響いた後、部屋には五人だけとなる。大志とステラ、三人の勇者……ここに来て、大志の目はようやく三人の姿をはっきりと捉えた。

 窓際に立つ者が一人、壁にうっかかり立つ者が一人、そして中央の椅子に座る一人……クロエと会話をしていたのは中央の人物。その者は、再び口を開く。


「……よく来てくれたね。黒瞳の雷帝、天界の脅威……キミには色んな呼び名があるけど、ここは敢えて、名前で呼ばせてもらうね。――須藤、大志……」


 彼の言葉に、大志は驚愕する。そしてやや身構えながら、静かに声を出す。


「……どうして、俺の名前を?」


「キミは有名人だからね。名前くらい、嫌でも耳に入るよ。……さて大志、まずはお茶でも飲みながら自己紹介をしようか。

 ――僕達が、勇者だ」

 

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