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双極世界の黒い瞳の魔王様  作者: 井平カイ
第五章【黒い瞳の魔王】
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ソルスレイティア

 森の中にある街道を歩く大志とステラ。これまで、一緒に旅をしてきた二人。自然と、歩幅までも合うようになってきていた。

 ……だが、今の彼らは、少しだけいつもと違っていた。


「……」


「……」


 お互いに何も言葉を発することなく、黙々と歩く。

 緊張もあるだろう。しかし二人は、それぞれ別のことを考えていた。

 ステラは、これから向かう本国のこと……。そこは天界の中心であり、そこには、魔界に侵攻した勇者達がいる。彼女の脳裏に浮かぶのは、あの日の記憶……焼ける森と、傷付く人々。思わず目をしかめてしまうような光景。

 それでも彼女は歩みを止めない。彼女自身が知りたいのだろう。全てを―――。

 一方の大志は、本国のこともそうだが、ステラのことも気になっていた。

 彼女は、いったい何を背負ってるのだろうか……。それは今の彼には分かりようもないことだ。それでも、時折見せる、彼女の何かに耐えるかのような表情は、彼の気持ちの糸を引いていた。


 それぞれがそれぞれの思考に耽る中、ついに“その地”は、彼らの眼前に広がった。

 森の小道を抜けた先は、高い丘の上となっていた。そしてその袂には巨大な街がある。それこそ……


「……ここが……」


 大志の呟きに、ステラは答える。


「……ええ。ここが、天界の本国……全ての中心――“ソルスレイティア”です」


「ソルスレイティア……」


 ステラの言葉を繰り返した大志は、再び本国に目をやる。

 丘の袂から果ての海まで広がる街並み。周囲には、まるで外部の者を拒絶するかのように、巨大な壁が聳え立っていた。壁の手前から中心部にかけて、並び立つ建物は徐々に大きくなる。そして中心地には、摩天楼が存在を示すように密集していた。

 その中心にあるものは、王宮のように見える。白い外壁は陽の光を反射し、どこまでも眩く光を放っていた。


「ここに……勇者が……」


「はい。彼らは、ここにいます」


「……」


 彼女の言葉に、大志はもう一度本国を見渡す。そして一度大きく息を吸い込んだ。


「――行こう、ステラ」


「はい……」


 そして二人は、丘を下り始める。心なしか、それまでよりも早足になっていた。




 ◆  ◆  ◆




 街の入り口は巨大な門だった。

 外から街の中を見渡せば、行き交う人々の群れは相当なものだった。人の波は目眩がするほどうねりをあげる。まるで祭りのようだが、天界の本国ともなれば、これも日常的な光景なのかもしれない。

 大志達は人の中に埋もれるように歩く。ステラは、普段よりも深くフードを被る。常に下を向き、視線が人と合わないようにする。これだけの天界人の中、彼女が魔界人だと知られれば、当然かなりの騒ぎになるはず。そうなれば、本国にいる兵士や、挙句勇者までが駆けつけて来るだろう。


「……あれは……」


 街の壁の境界に差し掛かった大志は、声を漏らす。

 彼の見つめる先では、入国者の検査が行われていた。兵士が門に立ち、潜ろうとする者の顔、荷物を入念に確認する。ここは天界の本国、やはり警備も相当なものだ。


「マズいな……あれじゃ、フード被ってても無駄だろうな……」


「大志さん、どうしますか?」


「……そうだな……」


 ふと、入り口の奥に目をやる。街を覆う高い壁……その周囲には、人の姿はなかった。


(あそこなら……)


「――ステラ、こっちだ」


「え? あ、大志さん!」


 人目を避けながら、大志は壁際に向かって行く。ステラは、それに続いて行った。


 壁の袂には、人はいなかった。入念に周囲を見渡した大志は、上を見上げる。


「少し高いな……」


「外敵を防ぐ壁ですからね。壁の上には、きっと兵士もいますよ」


「だろうな……でも、逆にまさかここから人が入るとは思わないだろ」


 そして大志は、ステラの体を抱きかかえた。


「え? ちょ、ちょっと大志さん?」


「ちょっと我慢しろよ」


 笑みを浮かべる大志。彼の顔を見たステラは、何かを察する。


「……大志さん、もしかして……」


「ああ。――“跳び越える”」


 そして大志は、足元に雷を宿らせる。雷が迸った刹那、大志とステラの体は一瞬で遥か上空へと舞い上がる。高く高く、そして迅く。高い壁の上へと到達した大志は、下に視線を送る。壁の上部では、やはり兵士が並び目を光らせていた。彼らはまだ、大志達には気付いていないようだ。


「……降りるぞ、ステラ」


「は、はい!」


 再び雷を走らせた大志は、大地に向け滑空する。一迅の風になった大志は、瞬く間に兵士の横を通り抜けた。


「……ん?」


 壁の上を巡回していた兵士は、ふと空を見上げる。


「……こんなに晴れているのに雷か……不吉だな……」


 そして彼は、そのまま巡回を再開する。大志達に気付くこともなく……。


 一方、町中へ降り立った大志はステラを降ろし、目の前に立つ巨大な壁を見上げる。


「……ふぅ。なんとか気付かれずに入れたな……」


 見上げる彼を見たステラも、同じく上を見る。太陽の光を隠した壁を、揺れる紅い瞳で見つめた彼女は、視線を大志に戻す。


「……まず、どうしますか?」


「そうだな……」


 腕を組み、思案に耽る大志。


「いきなり勇者に会いに行っても、門前払いされるのがオチだろうし……。何か、きっかけが欲しいな。勇者に“お目通り”出来るようなきっかけが……」


 二人は頭を捻る。しかし、簡単に方法が見つかるはずもなく……


「……とにかく、街に行ってみようか」


「……そうですね」


 とりあえず、二人は街に向かって行った。

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