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双極世界の黒い瞳の魔王様  作者: 井平カイ
第四章【無限の魔力】
35/40

無限

 ――瞼の隙間から射し込まれた、優しい太陽の光で大志は目を覚ます。


「―――」


 目を開けると、そこは森の中だった。大志は上体を起こし、周囲を見渡す。


「……ここは……」


 立ち上がろうとしたが、体中が痛い。骨は軋み、筋肉には痛みが走る。


(ちょっと、無理し過ぎたかな……)


 思わず、苦笑いが浮かんでいた。最後には何とかなったが、危ないところだった。


 大志は、ぼんやりと考えていた。

 あのアデルという男は、相当の実力者だった。それは、実際に対峙した大志が一番よく分かること。正直、シュバリエと聞いても、甘く見ていた面があった。それほどまでに、大志は自分の力に信頼を置いていた。

 だが、それは過信だったようだ。事実、こうして体はボロボロになっている。これが、もし勇者であれば……


「――あ、大志さん、気が付いたんですね」


 ふと、少し離れたところからステラの声が響いた。大志が彼女に視線を送ると、ステラは優しく微笑み、小走りで駆け寄る。


「……はい。水をついできました」


 ステラは水が入った袋を差し出した。


「……ありがとう」


 大志は彼女に微笑みを返し、水を飲む。そして大志は、もう一度周囲を見渡した。


「……ステラ、俺、どうしたんだっけ……」


「……あの後、意識を失ったんですよ。あそこにいるのは危険だったので、ここまで移動したんです」


「移動って……もしかして、ステラが?」


 すると彼女は、苦笑いを浮かべた。


「……重かったんですよ? 山道は急だし……」


「……それは、悪かった。ありがとう、ステラ」


「いいえ。それより……」


 そしてステラは、表情を引き締める。


「……大志さん、あなたの体のことなんですが……」


「………」


 大志はステラの眼を見る。何かを訴えるように、紅い瞳はただ彼を見つめていた。その色は、大志の中に響く。ドアをノックするように、不思議と、何かを開いていく。

 これは、観念するしかないかな―――

 大志は、ゆっくりと口を開いた。


「……俺の魔法はな、ちょっとばっかりじゃじゃ馬なんだよ」


「じゃじゃ馬……ですか?」


「ああ。魔法を使えば使う程、徐々に威力が上がってくんだ。どこまで上がるかは分からない。……ただ、上がれば上がるほど、制御が難しくなる。たぶん最後には、暴走するだろうな」


「………」


「それに、威力が上がるということは、それだけ集束するマナも多くなるってことだ。マナは、エネルギーの粒みたいなもんだ。大量のマナが体を包み込めば、当然、体にかかる負担はかなりのものになる。

 ――下手すれば、マナの過剰集束で、肉体が崩壊する」


「……じゃあ、意識を失ってたのは……」


「集まるマナの量に、体が限界を迎えてたんだよ。時間が経つほど、俺の魔法は無限に威力が上がるが、その分負担も大きい。長期戦向きじゃないんだよ、俺の魔法は」


「……そうだったんですか……」


「ただ、強化魔法くらいなら、そこまで負担も大きくないんだ。……問題は、放出魔法の方だ。あれは、かなりマナを使うからな。一気に負担が大きくなる。だから、放出魔法を最大に使い続けたうえで互角の奴が現れたら……かなり、分が悪い」


「………」


 ステラは悩んでいた。

 ハルムフェルトから託された言葉……それを、大志に告げるかどうか……。だが彼の言葉には、ステラ自身も同意する面もあった。それほどまでに、勇者の力とは強大であることを、彼女は知っていた。

 一度心の整理を付けた彼女は、意を決して大志を見た。


「……大志さん、冥王――ハルムフェルトから、大志さんへの伝言があります。」


「ハルムフェルトから?」


「はい。――もっと、強くなれ……彼は、そう言っていました」


「……奴は、何者なんだ?」


 大志は、彼のことが気になっていた。常に笑みを浮かべているが、まるで彼の底が見えない。そして、今ステラが口にした“冥王”という二つ名……その名があるということは、魔界でも広く認知された人物だろう。

 大志の問いに、ステラは真剣な表情のまま続ける。


「……彼は、魔界で五本の指に入るほどの実力者です。彼が台頭したのは、ここ数年の間なんです。それまで陰に潜んでいた彼は、瞬く間に実力者として名を上げました。

 その力は、全ての者に死を迎えさせると言われるほどのもの……死を司る王、“冥王”と呼ばれるようになりました」


「……ステラは、知り合いなのか?」


「え?」


「いや、ハルムフェルトのこと、詳しいからな」


「……魔界では、有名人ですから。当然、私も知っていました」


「……そう、か……」


 煮え切れない返事をする大志。彼は気になっていた。

 ステラは、ハルムフェルトを知っていると言った。魔界では有名人のようだから、それも当然だろう。

 だが、彼女と彼の関係は、それ以上のもののように思えた。口調、表情を見る限り、友好的とは言えないだろう。だがそれでも、彼女は彼のことを熟知しているようだ。

 ……もっとも、今の彼女には、それについて話すつもりはないようだ。

 何か理由があるのかもしれない。だとするなら、今は無理に聞き出す必要もないだろう。時期を見て、きっと彼女から話してくれるはず……大志は、頭の中の疑問を思考の奥に押し込めた。


「……大志さん、これからどうしますか?」


「……とにかく、今は進もう。まだ色々分からないことは多いけど、まずは当初の目的を果たしたい」


「それじゃ……」


「ああ。――会いに行こう。勇者に……」


 そして大志は立ち上がり、歩き始めた。


「……」


 彼の背中を少しの間見つめたステラは、一度視線を落とし、彼に続く。


 ――天界の本国まで、もう間もなくだ……

第四章 完

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