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双極世界の黒い瞳の魔王様  作者: 井平カイ
第四章【無限の魔力】
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集束する光

 雷となった大志は、そのままアベル達に向け滑空する。その速度はまさに雷そのものであり、音すらも追いつけない。


(迅い――!!)


 あまりの速度に、アベルも同様の色を見せた。剣を振り上げ迎撃しようとするが、振り降ろすよりも早く大志はアベルの懐に入り込む。そしてすれ違い様に雷を放射し、瞬く間に通過する。まるで光の粒子を撒き散らすかのように、大志が空を駆けた後に残るのは、チカチカとした雷光だけだった。

 やがて大志は大地に着地する。だが息つく間もなく、すぐに上空を見上げる。彼の両手の雷は唸るように光り輝き、天へかざすと共に一気に解き放たれた。空へと昇る雷は光の柱を形成する。その光に巻き込まれたアベル達は、次々と消滅していった。


「チッ――!!」


 消えていく自らの現身達を目の当たりにしたアベルは小さく舌打ちをする。だが次の瞬間、彼の眼前に大志が現れた。


「―――ッ!?」


「気ぃ抜いてんじゃねえよ!!」


 そう叫んだ大志は掌をアベルの眼前にかざし光を放つ。光に飲み込まれたアベルは、絶叫を上げることなく消え去って行った。だがアベルはまだ尽きたわけではない。いつしか大志の周囲には大量のアベル達が出現し、皆一様に銀色に光る剣を構えていた。その光景を見た大志は、一度大きく息を吸う。そして息を止め丹田に力を入れた後、アベル達に向け大きく跳躍した。

 アベルの斬撃を屈んで躱した大志は腹部に膝を蹴り込む。体勢が崩れたアベルの体を掴み体を反転させるや、ボーリングのように他のアベル達にぶつけた。だが左右からは別のアベル達が迫る。剣の突きを跳んで躱せば、目標を失った剣は対面のアベルに突き刺さった。


「自滅してんなよ!!」


 大志は大地に向け雷を放出する。ごった返していたアベル達が吹き飛ばされると再び地に戻り、両手を左右にかざす。


「ああああああああああああああああ!!!」


 そのまま体を回転させ、両手から雷を放出した。光は大志を中心に渦を巻く。渦に呑まれたアベル達は次々と消滅していく。大志がようやく光を止めれば、周囲にいたアベルの軍勢の姿は極僅かとなっていた。

 だが大志の疲労も相当なものとなっていた。片膝を付き、荒々しい息が漏れる。


「はあ……はあ……」


 大志の額には大量の汗が滲む。これほどまで力を酷使したことはこれまでなかった。目眩がする。景色が歪む。首を振って閉じそうになる瞼を必死に開いた。

 その最中、大志はふと気が付いた。見ればそれまで無限とも言えるほど増殖を繰り返していたアベルの数が極端に減少していたのだ。さらに言うなら、大地に立つ残ったアベル達もまた、大志と同様に肩で息をしていた。その光景に、大志はニヤリと笑みをこぼす。


「……なんだよ……ちゃんと疲れているじゃねえか……」


「……チッ……」


 アベルは反論すらしない。いや、出来ない。息の乱れた今の自分を見れば、誰の目にも疲労の色が見えるだろう。アベルもまた、これほどまで追い込まれたことなどなかった。ここに来て、アベルは大志の力を過小評価しないことを決める。腹を括った彼は、静かに構えを解いた。


「……ムカつく話だが、貴様、確かに強いな」


「今更かよ」


「認めてやる。貴様が、シュバリエに匹敵する程の力を持っていることをな」


「……違うだろ。匹敵じゃなくて、超えるって言って欲しいな」


「減らず口を……まあいい。――だが、それでも最後に勝つのは、この俺だ」


 そう話した直後、アベル達の体が光に包まれ始めた。それまでとは違う、違和感のある光だった。朧気で、儚く、だが、光は強い。


(なんだ?)


「……この姿を見せるのは、貴様で二人目だ」


「その一人目ってのが気になるな……」


「そんなもの、決まっている。――“勇者”だよ」


「……勇者とやりあったのか?」


 大志の問いに、アベルは苦笑いを浮かべた。


「まさか……俺はな、無謀なことはしない質なんだよ。勇者の力は、俺とは比べ物にならん。……それも、ムカつく話ではあるがな」


「………」


「貴様は確かに強い。だが、勇者には及ばんな。お前が化物なら、奴らは神だな。全てを蹂躙し掌握する、雲の上の存在だ」


「……それは言いすぎなんじゃないのか?」


「だが事実だ。それは、その目で見ればすぐに分かること。……もっとも、そんな機会などないがな。永久に、だ」


 話を終えた直後、アベルの体は更なる光に包まれる。そして、分裂していたアベル達は、一つとなり始めた。広がっていたアベルの軍勢はたちまち一同に集まる。いくつもの光が集い、やがて一つの形を形成した。


「……ただ一人に戻った……ってわけじゃないだろうな……」


「当たり前だ。これは、俺の奥の手だ。幾重にも増殖させた俺を一つにし、一時的に全ての能力を向上させる」


「……奥の手ってことは、かなりきついんだろ?」


「まあな。本来出せることのない力を出す技……体にかかる負担は、かなりのものになる。――だが、貴様程じゃない」


「………」


「悟られないとでも思ったか? 貴様、先ほどから、勝負を急いでいるからな……」


「……それは、お前も同じじゃないのか? 増殖も、相当体力使うんだろ? 奥の手を出したんじゃなくて、“出さざるを得なかった”……それが、本音じゃないのか?」


 大志の言葉に、アベルはニヤリと笑う。


「――相変わらず、ムカつく奴だ……!!」


 一人のアベルとなった彼の体は、光り輝く。そして、剣を構えた。


「……黒瞳の雷帝……俺の名に懸けて、貴様をここで潰す……!!」


 アベルの体は発行する。まるで命の灯火を、直接放つかのようだった。彼の姿を見た大志は、彼と同様に笑みを浮かべた。そして、四肢の雷を強くし構えを取る。


「悪いが、俺はこんなとこで止まるつもりはないんだよ。――力尽くでも、進ませてもらう……!!」


「………」


「………」


 二人は、睨み合う。攻撃のタイミングを計り、ただ目の前の敵に全てをぶつけるため、体中に力を入れる。


「――ッ」


「―――」


 そして、同時に駆け出した。二人の光は槍のように相手に伸びる。瞬く間に距離を詰めた両者は、激しい光を衝突させた。


「おおおおおお!!!」


「ああああああ!!!」


 二人の絶叫は空へと消える。そして途轍もない衝突音を最後に、光はそれまでとは打って変わり、静かに集束していった。



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