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双極世界の黒い瞳の魔王様  作者: 井平カイ
第四章【無限の魔力】
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修羅の瞳

「―――どけどけどけえええ!!」


 施設の中では、雷が眩く光る。一瞬の輝きの後に続くのは、気絶し倒れ込む兵士達。その中を高速で駆けていく二つの影―――大志とハルムフェルトである。


「ずいぶん派手に動いてるね……兵士が全部来ちゃうよ?」


「あんだけ派手に壁壊しといて、そんなこと気にしてられるかよ!!」


「壁を壊したのはキミじゃないか……」


 ハルムフェルトは呆れるように呟く。それが聞こえていたかどうかは定かではないが、大志は走る速度を更に上げた。


「……このまま一気に最上階まで行くぞ!!」


 大志はまるで風のように施設を駆けあがる。各階にいる兵士は、壁が壊された時の破壊音に動揺したこともあり、まるで統率がとれていなかった。


「き、来たぞ―――!!」


 大志の姿を視認した一人の兵士が声を上げ剣を構える。しかしその声に迫力などは皆無であり、手に持つ刃も震えていた。


「やる気ない奴は下がれ!! ケガするぞ!!」


 大志の一喝に兵達はたじろぐ。そんな彼らを、大志は最小限の動きで仕留めていく。ある者は顔面を殴打され、ある者は腹部を蹴られ、またある者は雷の光に沈む。そうして、大志の過ぎ去った後には呻きながら地に伏せる兵士で溢れていた。


(さすがに数が多いな!! ――持つか!?)


 彼の雷は更に激しく輝く。しかし大志は、いつかのように焦りを募らせていた。それまで数多くの兵を沈めてきたが、おそらくはまだ兵力は残っているだろう。おまけにシュバリエであるアベルも控えている。だが、加減をしながら進んでいては、時間もかかり過ぎる。彼はまるで嵐のように兵士達を吹き飛ばしながら、最上階を目指していた。

 そして何度目かも分からない階段に辿り着く。大志は迷うことなく上を目指し駆け出す―――


「―――おっと、こっちか……」


 その時、突然ハルムフェルトが進路を変え階段を下り始めた。大志は一度足を止め、声をかける。


「ハルムフェルト! そっちは下だろ!?」


 やはり大志の口調には焦りが見える。しかしハルムフェルトは、ひょうひょうと答える。


「ああ、僕はこっちに用があるんだよ。アベルの部屋はこの先だから、キミは気にせず行きなよ」


「はあ!? 用ってなんだよ! だいたい一人だと――!」


「忘れたの? 僕も、キミと同じ“あの牢屋”に入れられてたんだよ?」


「―――」


 つまりは、心配する必要はないということ―――あの牢屋に入れられていたということは、それだけ危険な存在であるということ。彼の力がどれほどのものかは知らないが、そこまで彼の身に気を配る必要もないのかもしれない。それに、今は一刻も早くステラのところへ向かいたいところ。そう考えた大志は、それ以上彼を引き留めることをしなかった。


「……あんまし無茶すんなよ!!」


 最後に声をかけた大志は、そのままハルムフェルトと別れ上へと駆け上がって行った。ハルムフェルトは、微笑みながら去っていく彼の後姿を見守る。


「さっさと道を開けやがれ!!」


「ひぃいいいい……!!」


 大志が駆け上がった先では、彼の怒鳴り声と兵士の悲鳴、雷のスパーク音が響き渡る。そしてそれは、徐々に小さくなっていった。


「……まったく、無茶してるのはどっちだよ……」


 一度苦笑いを浮かべたハルムフェルトは、大志とは対照的にゆっくりと階段を下っていく。兵士達の喧噪が遠くから聞こえる中、彼の足音がやけに大きく響き渡る。


「……ま、あれだけ派手に暴れてくれるなら、僕の用事も簡単に済ませられそうだ……」


 そう呟いたハルムフェルトは、笑みを浮かべたまま階段を下っていく。下る階段はどこまでも下に続いていた。松明が灯されてはいたが、その道は仄暗く、まるで地獄に向かう道のように続いている。足を前に踏み出すごとに、彼の表情からは少しずつ笑みが消えていっていた。

 ふと、下から誰かが駆け上がって来る音が聞こえて来た。徐々に近づいて来る鎧が軋む音。それが兵士であることは、容易に想像できる。しかしハルムフェルトは、歩みを止めることはなかった。身構えることもなかった。ただ黙々と、下を目指していた。やがて彼の眼前に、兵の一団が現れた。


「――ッ! お前は――!!」


 兵は彼の姿を見るなり、剣を向ける。ハルムフェルトは臆することはない。蒼い目を彼らに向け、言い捨てる。


「……悪いけど、僕は彼みたいに甘くはないから……自分の不運を呪うんだね……」


 彼の蒼眼は、見下すように兵に向けられる。その目を見た兵士達は、一瞬で鳥肌が立った。彼の蒼い眼は、途轍もなく冷徹だった。下卑たものを見るかのように、冷たく、深い視線だった。

 その目を見た兵士は、恐怖のあまり動けなくなっていた。声を出すことも出来なくなっていた。全身を包む絶望。一目見ただけで、逃げたしたくなる衝動に駆られてしまう。それほどまでに、彼からは凄まじい殺気が放たれていた。

 そんな兵士達に、ハルムフェルトは静かに右の掌をかざした―――




 ◆  ◆  ◆



「―――ステラ!! 無事か!?」


 アベルの部屋に辿り着いた大志は、ドアを蹴破るように荒々しく開け、中の様子を確認する前に叫ぶ。そして室内をくまなく見渡すが、そこには誰もいない。


「……遅かったのか!? クソッ――!!」


 大志は舌打ちをしながら、誰もいない室内を見渡す。


(落ち着け……!! まだ遠くには行ってないはずだ!!)


 焦る気持ちを抑え込み、一度大志は大きく深呼吸をした。静かに目を閉じ、全身に雷を纏わせる。


(集中しろ……体中の神経を集中して、ステラの居場所を……!!)


 周辺に電磁波を撒き散らし、ステラの居場所を詮索する。周辺一帯は仄かな光に包まれる。光はやがて建物全体を優しく包み込むように広がり、弾けた。


(…………いた!!)


 部屋の更に上方から、ステラの気配を捉えた。場所はやや斜め上。大志はすぐに両手を天井にかざし、雷を帯電させた。周囲の空気が震える。大志は天井を睨み付けながら、束ねた雷を上空へ解き放った。雷は天井を突き破り、天へと昇る。雲は裂け、闇に染まる空に隙間が生まれた。雷が消えると同時に上へと跳び出した大志は、雲の空洞から射し込む光をスポットライトのように浴びながら地に降り立つ。施設の屋上は、ところどころ岩石が生え出る荒れた大地だった。空は雷鳴轟き、黒雲が風に流れ大志が開けた風穴はたちまち塞がっていた。

 地上に降りた大志は、前方に見える人影を睨み付ける。そして、その者の名を口にする。


「―――アベル……!!」


 アベルはまるで大志を待ち構えていたかのように、ただ見下すように立っていた。そして彼の隣には、ステラの姿も……。ステラは大志の姿を見るや、声を上げる。


「大志さん!!」


「ステラ!! 無事か!?」


「は、はい!! 私は大丈夫です!!」


「そうか……」


 ステラの姿を見た大志は、人知れず安堵の息を漏らす。様子を見る限り、特に異常はないようだ。二人の会話を聞いていたアベルは、ニヤリと笑いながら大志に向かい声を出す。


「――感動の再会……と、いったところか……」


 アベルの言葉に、再び大志は視線を強くしアベルにぶつける。


「……よう、わざわざ待っててくれたんだな……律儀じゃねえか……」


「まあな。建物の中でも良かったんだが、あそこは少々狭すぎるものでな……」


「それについては同感だな。……で? どういうつもりだ?」


「いやな……俺としてはお前程度などどうでもよかったんだが……この女、どうもお前をずいぶんと買っているようなんでな。お前がいる限り、絶望の色を見せてはくれないんだよ」


「………」


 アベルは一歩前に出る。そして、腰に携えた銀色に光る刃を抜き出した。


「お前は本国で処刑するつもりだったが……気が変わった……。俺が、この場で斬り捨てる」


「――気が合うな……」

 

 大志もまた足をやや広く構え、拳を握り締める。


「俺も、お前程度なんて眼中にないんでな。さっさと終わらせて、旅を続けさせてもらう……」


「……言ってくれる……!!」


 アベルは光の輪を出現させる。そして、一直線に大志に向け飛び迫った―――




 ◆  ◆  ◆




「――ここか……」


 その頃、施設内の地下では、ハルムフェルトがとある巨大な扉の前に立っていた。ゆっくりと手を伸ばし、重い鉄の扉を開く。鈍い金属が擦れる音が響き渡り、“そこ”は開かれた。

 “そこ”は、混沌の底とも思える場所。中の様子を見たハルムフェルトは、すぐに目を顰める。想像以上だった。想像以上の、悪夢。壁や床に沁みついた赤色、生臭い匂い、床に転がる痛々しい器具、阿鼻叫喚……ハルムフェルトは、自然と目を逸らしていた。


「――なんだ貴様は? 誰の許可を貰ってここへ来た?」


 室内にいた研究服のようなものを来た人物が、入り口に立つハルムフェルトに気付き声を出す。その声を皮切りに、中にいた研究員らしき人々が一斉に入り口の方に顔を向けた。兵士はいないようだ。誰もが、とても兵とは思えない程貧相な身体つきをしていた。


「答えないか! 誰の許可を貰ってここに来たのかと聞いている!!」


 返事をしないハルムフェルトに、研究員の一人が舌打ちをしながら近づいて行く。ハルムフェルトは、未だ視線を逸らしたままで動かない。


「おい! 聞こえて―――!!」


 研究員がハルムフェルトの体に右手を伸ばした瞬間、時は動き出した。


「――ぐぎゃああああああああ……!!!」


「―――ッ!?」


 突如として、研究員の悲鳴がこだまする。声は室内で反響し、耳を刺すように絶叫が響いた。ハルムフェルトの近くに立つ研究員は鮮血が噴き出る手を天井に掲げ、激痛に床を這いつくばる。――彼の右手は、肘から先が欠損していた。その声と光景に、他の研究員は凍り付いた。

 悲鳴だけが響く室内で、ハルムフェルトは視線を前に戻した。その紅い瞳には、修羅が宿る。


「……情報は、本当だったようだね……もういいよ。全員、ただ無残に消えろ……」


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