【その60:ぬこ様と魔王様と(11)】
魔王とぬこさんについて、私が一通り説明し終えると、三人はただただ呆れた顔で沈黙。
「……あのう……やっぱり信じてもらえませんか?」
まあ、普通に考えたら、私だって信じない。
たまたま転移魔法陣の修復を手伝ったら、魔王の私室に繋がっていた。しかも魔王と話してみれば、魔王は人には対して興味がなく、一匹の猫に夢中。
そんな猫のために猫グッズを買い求めて、日々、この王都へやってきては、キャッキャしながら買い物を楽しんでいる。
私は行きがかり上、魔王の監視も兼ねて、猫グッズの購入を手伝ったり、魔王の部屋で猫と戯れたりしている。
うん。何を言っているのだ、私は。
「その……信じない…というわけではないのよ……でもその、ちょっと理解が追いつかなくて……」
オリオネートさんの選びに選んだ言葉の優しさがむしろ胸に突き刺さる。
でも、これ以上の説明しようがないし。全部事実なので困る。
ただ問題は、今こうして困惑している時間にも、人類滅亡のタイムリミットは刻一刻と迫っているのだ。
「もしも何も起きなければ、改めて私を大司教様に突き出してもらっても構いません。とにかく一度、騙されてと思って、信じてはいただけませんか!?」
私の訴えに、ケプラーさんが口を開いた。
「そういえば、あの時のことは聞いていない。あれはお前と、その……魔王だったのか?」
「あの時?」
「教会本部を襲撃した盗賊のことだ」
「あ! はい! 私と魔王です」
忘れてたわけではないけれど、話を急ぎすぎて端折った部分だ。
「……はいって……なぁ……。どうやったんだ、あれ?」
「えーっとですね。魔王が自分に強化魔法をかけて、空中から高速落下しました」
「空中から……高速落下?」
「ええ。で、屋根を突き破って……写真機を盗んで飛んで逃げました」
「無茶苦茶だな」
「ですよね」
「ですよね、じゃねえよ。だが、それなら納得できる部分もある。あんな真似は普通の人間には無理だ。それにオリオネート、お前も言ってただろう? 侵入者が聖女に似ていたって。だから確認に行ったんだろ?」
そういえば、オリオネートさんとケプラーが教会に来て色々聞いてきたんだっけ。
「ええ。あの時のやり取りからしても、私はルラさんが犯人の可能性は高いとは思っていたけれど……共犯者が魔王だったとは……」
指で目元を押さえて軽く首を振ったオリオネートさんに、ケプラーは続ける。
「それと、聖女の教会の件だ。いくらなんでも捕縛の直後に燃やし尽くすのは異常だ。だが、あの場所に魔王の侵入経路があったのならば、分からなくはない。下手に後から侵入されて復旧されたら面倒だからな。燃やすのが一丸手っ取り早い。というわけで、だ」
「というわけで、なんだ?」
エルグレイが反応すると、
「俺は聖女の話に騙されることにする。もし、この聖女さんのいうとおり、時間がないのならなおさらだろう」
私に協力を申し出てくれたケプラーに、私は小さく頭を下げる。そんな様子を見てから、ケプラーは二人に話しかけた。
「で、お前たちはどうする?」
オリオネートさんはもう一度首を振って、
「そうね。ひとまず騙されましょう。先ほどの、教会に忍び込んでいた魔族のこともあるわ。今が緊急事態であるのは間違いないみたいだし」
と言う。そうして最後にエルグレイが深く、深くため息を吐いた。
「仮に、今の話が真実だとしても、転移魔法陣は破壊されて跡形もない。仮に魔王が来るとしても、ルラが言うような差し迫った状況ではないと思うが……」
「いえ。それが……。多分、魔王は結構すぐにやってくると思うんですよ」
私の中ではほぼ、確信に近い。
「なぜだ?」
「確かに私の教会の魔法陣は燃やされたかもしれませんが……」
そう。奇しくも私は、準備をしている最中だったのである。
私も一応これで、うら若き女子である。昼夜問わず私室に魔王が出入りするのは少々考えものだと思うし、今回のように、誰かがあの転移魔法陣に気づいてしまう可能性があったから、“予備”を作っていたのだ。
「街外れの森の中に、まだ未作動の転移魔法陣があります。すでに構築は終わっていて、あとは向こうの魔法陣と繋げるだけのものが」
「……ならば、魔王は」
「魔王は聖魔法の術式でさえ独学で解読して、自らのものにする魔法の天才です。魔王城にある魔法陣を調べれば、新しいゲートの可能性に気づくと思います。そうすれば……」
「最悪だな」
「はい」
「……分かった。とにかく君に協力する。何か、計画はあるのか?」
あるといえば、ある。牢屋の中で考えていたことが。一人では無理だけど、この人たちが協力してくれるならなんとかなるかもしれない。
「あります」
「聞かせろ」
「まず、教会は諦めてください。ここは絶対に跡形も残りません」
私が宣言すると、全員が何ともいえない顔をした。




