【その6:ぬこまみれセイント】
本日も2話更新!
「……あの、私の顔に何か?」
困惑する聖女。
我、びっくりして思わず固まってしまっていたようだ。
そんな我と聖女の間に、神官服の男が滑り込む。
「ルラ様! また見知らぬ者にそのように気安く。御身を大切になさいませ!」
む。こやつは何か我に対して誤解をしているようだ。我は聖女などに興味はない。それよりも……。
「ここはどういう施設であるのか? あー……それは一体?」
我の質問に、ルラと呼ばれた聖女は神官の注意も聞かずに、屈託のない笑顔を見せる。
「猫たちに餌をあげております。教会の奉仕活動の一環なのです」
ねこ。ぬこの種族はねこと言うのか。なるほど、見た目の愛らしさからして、ねこと言う響きも悪くない。
知らずにぬこと名付けた我の名付けセンス、称賛されるべきであろう。
「あの? 奉仕活動にご興味が?」
ルラが首を傾げてくる。
「いや、そうではない。実は我の家にもぬこ……ねこがいるのだが、そやつが病かもしれず、薬を手に入れたいのである」
「まあ、猫ちゃんを飼っておられるのですか! でも、病とは?」
「うむ。立て続けに2度もくしゃみをしたのである」
「くしゃみを……それだけ?」
「そうだ。今までぬこが、2度も続けてくしゃみをしたことはない。これは何かの病に違いなかろう」
「えっと……その、まず、その猫ちゃんのお名前は“ぬこ”さんでいいのですかね?」
「うむ」
「ぬこちゃんは、おいくつくらいなのですか?」
「知らぬ。少し前に我がし……ではなくて家に迷い込んできたのである。……そうだな。そこにいるねこ達と大きさはさほど変わらぬ」
「ああ、保護されたのですね。それで。……でも多分、そんなに心配することははないと思いますよ」
「だが2回も……」
「その後もくしゃみが止まらないのですか?」
「いや」
「でしたら問題ありませんよ。もしもくしゃみが続くようでしたら、ここに連れて来れば私が癒して差し上げます」
「ルラ様!」
また神官が口を挟む、うるさい男だ。紅蓮の炎で焼いてしまおうか。
「ハーロット! すみません。この者は私のお目付役のような者でして……。その、私が聖女などともてはやされているもので……」
「うむ」
知っておる。我、一度殺しかけたので。
「……驚かないのですか?」
「うむ? 驚いた方が良いのか?」
「いえ。そんなことは。新鮮な反応でしたので、つい」
「そうか。や、それよりも、我が家は少々遠くにあるので、気軽にぬこを連れてくるのが難しいのである」
「ああ。この街の方ではなかったのですね。もしかして、大きな街に薬を求めに? わかりました。それでしたら協力いたしましょう」
「ルラ様!」
「ハーロット! 猫好きに悪い人はおりません! 遠路はるばる、ぬこちゃんの薬を買いに来たのですよ! 協力してあげたいとは思わないのですか?」
「しかし……」
「では、私たちだけでまいります。ハーロットはここで、猫達の面倒を見ていなさい!」
「じゃあ行きましょうか。……えっと、お名前は?」
「あー……マオである」
「この辺りではあまり聞かない名前ですね。異国の香りを感じる良きお名前です。ではマオさん、私が案内して差し上げます」
妙なことになったが、ここは聖女の言葉に従おう。ねこ好きに悪い奴はいない。なるほど、良い言葉である。
「待ってください! ルラ様!」
情けない声を上げるハーロットとかいう男を置いて、ルラはスタスタと歩き出した。




