【その57:ぬこ様と魔王様と(8)】
突然声をかけられて、慌てて顔を上げる私。するとそこには、思わぬ人々が立っていた。
「オリオネートさんとエルグレイさん!? それに、えっと……聖騎士団の……」
「ケプラーだ。聖女殿」
「そうでした。でも一体どうしてここに? あ、もしかして貴方達が私の処刑を!?」
早すぎる、まだ私は何の打開策も見出せてはいないというのに!
「お願いします! 私の話を聞いてください! 今、私が死んだら……」
鉄格子を掴んで訴える私の唇に、オリオネートさんが人差し指を当てる。
「落ち着いて。騒いでは誰かが来てしまうわ。私たちは貴方を処刑しにきたのではないのよ」
「……本当に? ハーロットの命令で来たのではないんですか?」
「ええ。むしろ私たちは貴方の味方だと思う」
オリオネートさんの言葉を引き継ぐように、エルグレイが吐き捨てるように言葉をこぼす。
「大司教め……。従わぬとなれば、聖女も処刑するのか……。あの男がそこまで堕落していたとは……」
「大司教様? いえ、危険なのはハーロットの方です」
「ハーロットが危険? 何を言っている? あれは大司教の犬だろう?」
話が噛み合わぬ状況に互いに首を傾げる中で、
「そんな話は後にしろ、まずはここから脱出するのが先決だ」
と呆れた声でケプラーが言い、そのまま剣を抜いてこちらに近づいてきた。
「さすがに鍵までは見つけられなかったからな。扉を破壊する。少し下がっていろ、聖女殿」
「わ、わかりました」
私が少し引きさがろうとした時だ、三人の背後に人影が見えた。
「誰かきます」
私の言葉に息を潜め、入口の方へ振り向いた三人。私はあることに気づき、一番近くにいたオリオネートさんに小さく耳打ちする。
「……それはどういう意味なの?」
「使えますよね?」
「もちろん使えるけれど……」
「詳しくは後で説明します。試してみるだけでも試していただけませんか?」
「……分かった」
そんな会話をしているうちに、影が短くなり姿を現した。教会本部の聖職者の服装で、私がよく知っている相手だ。私とぬこさんを攫った時にいた二人組。
そいつらはこちらを見ながら、薄暗い中でニヤリと笑ったように見える。
「困りますなぁ。ここにはどなたの立入も禁止なのですが?」
一人がそう言いながら、一歩足を踏み出す。
「何、聖女殿が謂れのない罪で投獄されたと聞いたのでな。様子を伺いにきたのだ」
堂々と答えるエルグレイを「はっ」と鼻であしらうと、
「餌に釣られて、裏切り者の仲間が来るかもしれないとは聞いていたが、まあ、ハーロットの予想通りの奴らが来たな。手間が省けた」
そんな不遜な言葉を口にして、もう一歩。
残る一人は私たちを逃さないためにか、入り口を塞ぐようにして立ちはだかっている。
「今の発言は、俺たちに対する敵意とみなす」
ケプラーがそいつに向かって剣を構えなおしたところで、小声で詠唱を続けていたオリオネートさんが動いた。
「今こそ聖なる力を指し示せ。ホーリーエルダード!」
オリオネートさんの魔法で、近づく男を聖なる光が包む。よかった。魔法封じは牢屋の中だけだ。外ならちゃんと発動する。
「う、ぬ、あああああああああああああ!」
光を浴びて急激に苦しみ始めた男は、断末魔の叫びと共にその体を溶かし始める。
徐々に露わになったのは異形の存在。
「魔族だと!?」
驚くエルグレイの横で、ケプラーの動きは早かった。一瞬の躊躇なくその胴を横なぎにしたのだ。
聖魔法で弱っていたのだろうけれど、それでも一撃で真っ二つにする剣さばきはお見事。
一連の流れを見ていたもう一人の敵は、慌てて逃げようとしたけれど、背を向けた相手をケプラーは容赦せず打ち果たす。
「……どうなっている? なぜ、こんな場所に魔族がいる?」
眉を顰め、魔族の骸を眺めるエルグレイ達に私は叫んだ。
「それは後で説明します! とにかく出してください!」
「あ、ああ。そうだった。すまない」
ケプラーが牢の鍵に何度か打撃を与え、無理やり扉を破壊すると、ようやく自由の身に。
「……ありがとうございます。助かりました」
「一体どうなっているのか、説明してもらえるのだろうな?」
眉根を寄せるエルグレイ。
「もちろんです。でも、本当に時間がありません。お願いします! 協力してください!」
「何がどうなっているのだ?」
「一言で言えば、人類は滅亡直前です」
私の簡潔な言葉に、三人は困惑の表情を浮かべるのだった。




