【その46:いいわけせいじょ(下)】
私がホーウィさんの依頼についての説明を終えると、オリオネートさんはため息。ケプラーは鼻白む。
「……結局、教会が色々と強引にことを運ぼうとして、ホーウィを追い込んだということか」
「……」
ケプラーの言葉に、オリオネートさんは手を額に当てて軽く頭を振った。そんな様子を見てから、ケプラーは私へ視線を移す。
「今の話に嘘はないな?」
「ホーウィさんに確認してもらっても構いません。ただし、最初に申し上げたように……」
私の言葉を遮るようにして手を横に振ったケプラーは、
「分かっている。今の話の通りならば、悪事とはいえん。ホーウィを責めたりはせん。だが」
「だが?」
「今回の一件、ホーウィには都合が良すぎるタイミングと思えて仕方がない。もしも、ホーウィが、誰かに依頼した自作自演であった場合は、話は別だ」
「なるほど。それは確かに」
私が同意すると、ケプラーは少しだけ不思議そうな顔をする。
「少々意外な返答だな。ホーウィを庇うかと思ったが?」
今回の件、ホーウィさんは本当に何も知らないので、いくら調べても問題ない。
ここまでの流れからして、確たる証拠もなしに強引な真似はしないはずだから、どうぞいくらでも聞いてくださいという気持ちである。
「まあ、聖騎士団の皆様からすれば当然のことかと思いますので」
「しかし、その場合、結局貴女も容疑対象になるのだぞ」
「なぜ?」
「最初に話した通りだ。結界を貫通するような力を持つものにホーウィが依頼したとなれば、その相手は限られる」
「あのう、その話なのですが、私も一つ質問していいですか?」
「なんだ?」
「私はこうして一日ふせっておりましたから、詳しい状況がわからないのですが、教会を破壊したのは本当に魔法の類なのですか? 結界に破損などは? そもそもどんな魔法なのでしょうか? 確かに私は、人よりやや魔力の量が多いのですが、聖魔法しか使えません。聖魔法と特定できるような痕跡が確認されたのですか?」
魔王の行ったあれは、魔力を伴ったものではあるけれど、どちらかといえば物理攻撃寄りの一撃であったように思う。
私の指摘はケプラーの泣きどころであったようだ。これ以上ないほど渋い顔をして、吐き捨てるように、
「その辺りはまだ、これから調査する」
と言った。
「……でしたら申し訳ありませんが、まずは聖魔法かだけでも確認してから疑っていただいた方が、お互いに面倒な思いをしないで済むかと……」
私の言葉にまだ何か言いたげだったケプラー。それでも、一拍の後、軽く頭を振って諦める。
「確かに貴女の指摘の通りだな。体調が悪いというのに無理に時間を取らせて悪かった。こちらも任務であったのだ。ご理解いただきたい」
「いえ。構いません。教会本部が破壊されたとなれば、それは流石に一大事ですから。むしろ、あまりお役に立てずすみません」
このやりとりが話の切り上げどきと見たのだろう。ケプラーが立ち上がってオリオネートさんを見た。
「そろそろお暇しよう。おい、オリオネート?」
「ええ。ケプラーは先に出ていてください。私はルラさんの体調を伺ってから行きます。必要とあれば回復魔法も必要でしょう。……あまり殿方には話せない症状かもしれませんし」
「……分かった。では外で待っている」
ケプラーが扉を閉めるのを確認したオリオネートさん。
「さて、どこか悪いのですか? 回復魔法師を連れてきましょうか?」
「ああ、いえ。大丈夫です! じっくり寝たのでかなり回復しました! 多分、明日くらいまでには復調するかと」
「……そうですか。では、念の為、明日もう一度様子を見にきます」
「……すみません。気を使わせてしまって」
「いえ。では、私も参りますね。ケプラーも待っていますし」
「あ、はい。えっと、それじゃあ、また」
「はい。また明日」
立ち上がったオリオネートさんは、そこでふと動きを止める。
「……ところで、その頭についている木屑、どうされたのですか?」
「え? え!?」
私が慌てて頭を振り払えば、
「ああ、見間違いだったのかもしれません」
とだけ言い残して、帰って行った。
◇◇◇
「で、どうだったんだ?」
エルグレイの言葉に、オリオネートは「そうね」と呟く。
「話している内容に大きな矛盾はなかったけれど、多分、昨日の襲撃犯の一人はルラさんで間違いないと思うわ」
「そうか。で、目的については?」
「話を聞いた後に、ケプラーとホーウィのところに行った。ルラさんに相談していたのは事実みたい」
「なら、本当に写真機を教会にやらないために、か?」
「……どうかしら? それにしてはいくら何でも大袈裟すぎる気がするし……。そもそも、潜入方法がわからない」
「ああ。あれは聖女の力ではない。もう一人、実力者が絡んでいる」
「……勇者関係かしら? 教会を快く思っていない」
「可能性は高いな」
「……じゃあどうするの?」
「聖女の方はもう少し様子をみよう。少なくとも今のところ、我々にとっては利用価値がありそうだ」
エルグレイの決断に、オリオネートは黙って頷くのであった。




