【その45:いいわけせいじょ(上)】
それからの私は大慌てだ。
「す! 少しだけ待ってください!!」
と声をかけると、慌てて最低限の身支度を整える。
それにしても、オリオネートさんはともかく、聖騎士団の人がどうして一緒に?
心当たりは一つしかない。しかも特大のやつが。
まさか、という気持ちが何度も胸をよぎる。昨日のあれを、私だと認識できた人はいなかったはずだ。
もしかしたら全くの別件かもしれないし、ともかく落ち着いて対処しないと。
寝起きかつ寝不足で、ひどい見た目だ。時間的にこれ以上繕うのは諦めて、修道着の袖に腕を通すと、「お待たせしました」と、ゆっくりと扉を開けた。
「……実は昼前にも一度来訪したのだけど、もしかして、寝ていらっしゃったのかしら?」
「あー……。すみません。少し体調が悪くて」
「そうだったの。ごめんなさいね、そんな時に。いくつか聞きたいことがあって、それだけ聞いたらすぐ帰るわ。……入っても良いかしら?」
「えっと、部屋は今片付いてなくて……」
「礼拝堂で構わないわ」
「じゃ、じゃあすぐにお茶を……」
「いや、結構。本当にちょっとした確認だけだ」
騎士団の人が初めて口を開いた。
「えっと、初めまして、ですか?」
「ああ。いや、私は一方的に貴女を存じ上げてはいる。勇者として、王都を出立する時にな。ケプラーという。聖騎士団第二隊の責任者をしている。よろしく」
「……よろしくお願いします。それで、本日は一体?」
「単刀直入に伺おう。昨晩貴女はどこにいた?」
本当に直接的な質問だ。やっぱり昨日の一件か。
「先ほどお話しした通り、少し体調を崩していますので、部屋で大人しく」
「そうですか。ちなみに、昨日の騒ぎのことは?」
「例の、写真機の件ですよね。教会で聖騎士団の皆様がお護りになられると伺っていましたが。……あの、何かあったのですか?」
我ながら上手く対応できていると思う。このまま何とか凌ぎたい。
「貴女も教会の要人だ。話しても問題はなかろう。端的に申し上げれば、謎の人物に写真機を奪われた。しかも、結界を張るあの場所で、大胆にも強力な魔法と思われる攻撃を行い、建物を破壊するという凶行の上だ」
「それは災難でしたね……」
「ああ。そこで再度貴女に問う。昨晩は本当にお休みになられていたのか? 目元にクマのようなもの見えるが?」
「正確に言えば、体調が悪くて満足に寝付けず、明け方ようやく休めたところです。もしかして、私を疑っておいでなのですか?」
「貴女も知っての通り、結界を破壊するほどの魔法など、並の人間には成し得ぬことだ。膨大な力を持っている人物でなければ。聖女と呼ばれるほどの貴女なら、それに十分該当する」
ああ、それは疑われても仕方がないか。でも裏を返せば、何か決定的な証拠があってやってきたわけではないのかもしれない。
「それともう一つ」
わずかにホッとした私に、ケプラーは再び静かに口をひらく。
「数日前、写真機の持ち主であったホーウィが貴女を訪ねてきたな? 何を話したのか伺いたい」
私の背中に冷たいものが伝った。もう、そんなところも調べたのか。
どうしよう。一瞬の迷い。でも、ここで嘘をついて、もしもホーウィさんと証言に食い違いが出たらまずい。私は覚悟を決める。
「ホーウィさんを責めない、とお約束されるなら話します」
「それは約束できない。内容次第だ」
「ではお話しできません」
しばし睨み合う私とケプラー。そこにオリオネートさんが割って入る。
「ルラさん。一つだけよろしいですか? ホーウィさんの相談は犯罪に関わるようなことでしょうか?」
「違います」
「そうですか。ならば、私が約束しましょう。責任を持って、ホーウィさんを守ります」
「オリオネート!」
ケプラーが不満の声を嗅げるも、オリオネートさんがそれを制する。
……今、ケプラーはオリオネートさんを呼び捨てにした。この二人、どういう関係なのだろう? 親しげにも見えなくはない。
ともかくオリオネートさんの主張にケプラーが折れた。渋々ながらだけど。
「……仕方がない。私も約束しよう。だが、犯罪や悪事に関わることであった場合は例外だ」
「先ほどもお伝えしたとおり、悪事とかじゃないですよ……」
こうして私は、少しため息を吐いてから、ホーウィさんの依頼について説明を始めるのであった。




