【その43:キャッツな、かいとう(2)】
聖騎士団で一番最初に気づいたのは、屋外を哨戒中の兵士の一人。
彼は「ふわあ」とあくびをしかけ、上官に気付かれそうになり、誤魔化すために上空を仰いだのだ。
そして見た。
何かがものすごい勢いで落下してくるのを。
「なんだ、あれ?」
近くにいた同胞に声をかけるよりも早く、周囲に凄まじい轟音が鳴り響く!
「何が起きた!」
ケプラーの怒声に皆、反応ができない。誰もが何が起きたのか理解できなかったのだ。
「魔法で攻撃されたのか!?」
「あり得ん! 結界内部だぞ!」
そんな言葉が飛び交う。教会本部と城には強力な防御結界が構築されている。如何なる魔法であろうと、貫通するような真似は不可能なはずだ。
ただ一人、落下のシーンを見た兵士は、信じがたい光景に、ただただ自分の目を擦る。
天から人が落ちてきた。
などと安易に口にすれば、正気を疑われかねない。
兵士が事実を述べるか迷っているうちに、ケプラーの鋭い命令が周囲に響き渡る。
「ともかく、すぐに大聖堂へ向かうのだ! それから、教会から出ようとする者が現れぬように、厳重に包囲せよ! 如何なる貴人であっても、状況がわかるまで外に出すな!」
一斉に動き出す仲間達に流されて、結局その兵士は事実を口にする前に、聖堂へと走り出したのだった。
◇◇◇
突然の轟音、その直後の衝撃によってエルグレイとオリオネートは壁まで吹き飛ばされる。
オリオネートは背中を強かに打ち、一瞬強い痛みを覚える。それでも慎重に身を起こしてみれば、大きな怪我はしていないようだ。
「一体、何が……」
パラパラと木片が床を叩く音と、もうもうと立ち上る埃で、視界は非常に悪い。
「エルグレイ! 無事!?」
状況がわからぬ中、エルグレイの名を呼べば、「うう」とエルグレイの呻き声が聞こえた。意識はあるようだけど、声に力がない。
とにかく何か危険なことが起きている。オリオネートはどうにか立ち上がると、エルグレイの姿を探す。まずは、彼を連れてここから逃げなければ。
部屋の外には聖騎士団がいる。これだけの異変が起きれば、すぐにでも部屋の様子を見にくるはずだ。
オリオネートは混乱する頭を振り、とにかく落ち着くように自分に言い聞かせ、震える手をぎゅっと握りしめる。
そこでようやく気づいた。いつの間にか、部屋に何者かがおり、言葉を交わしていることに。
「……でしょう!」
「む…………か? のんびり……が?」
「ああ、もう!」
何物がいるのかと目を凝らしていると、信じられぬ事が起きる。侵入者の一人が唐突に相手に抱きつくと、そのまま浮かび上がったのだ。
そしてあっという間に姿が消えた。
そんなわけはない。恐る恐る、天井を見上げてみれば、これもまた信じ難いことに、部屋に月光が降り注いでいる。
「幻覚? ではないわね……。それに、今の声……」
どこかで聞いた頃のある声に、オリオネートは呆然としたまま天井を見上げるのだった。
◇◇◇
「ちょ! ちょっと!」
ルラを背負ったまま、我はやや強めの防御魔法を張る。
あとは簡単。足から建物に突っ込むだけである。
バキバキと小君良い音を立てながら、建物の屋根を突き破って着地。うむ。我ながら完璧である。
降り立った場所を見渡してみれば、随分と凝った調度品の並ぶ小部屋だ。少々埃っぽいが。
「この場所であっておるか?」
ルラに聞けば、
「めちゃくちゃですよ! 落下場所に人がいたらどうするつもりだったんですか!」
と、抗議の声。
「一人くらいは誤差の範囲であろうが」
「誤差なわけないでしょう!」
「む? 細かいことを。それよりも良いのか? のんびり話している暇はないが?」
ルラは口をパクパクさせて、まだ何か言いたげであったが、部屋に何者ががいる事に気づくと、諦めて周囲をキョロキョロと見渡し、我に指で合図をする。
その指先の先には、無数の鎖に繋がれた箱。
なるほど、これであるな。我は鎖を引きちぎり箱を抱えると、目でルラに乗れと指示。
別に口で伝えても良いのだが、なんとなく無言の方がそれっぽいのでそうした。
そうしてルラが諦めたように我の背中に抱きついたのを確認すると、我は再び空高く飛び上がったのである。




