【その41:たいぼうガジェット(下)】
「なにか方策を考えねばならぬ」
確かに写真機とふぃるむは欲しいが、店に気軽にいけなくなるのは困る。
「私も色々考えてはみたのですが……」
ルラは小さくため息を吐くと、軽く首を振る。
「自分でもめちゃくちゃだなとは思っているのです。が、ホーウィさんの思い詰めた顔を思い出すと、とても教会に差し出す気にはなれないんですよね。なので堂々巡りです」
「いっそ我が魔王として王都に襲来して、その写真機を奪い去っていけば……」
「絶対やめてくださいね? こんな話で王都をパニックに陥れないでください」
「しかし、このままでは我が困る」
「買い物のことなら、なんとか考えてみますから」
「確かに買い物が最重要ではあるが、まあ、多少はお主の身を案じておる部分もなくはないぞ」
「それはどうも」
ルラがもう一度ため息を吐くと、ぬこが「なー」と鳴きながらテーブルに飛び乗ってきた。何か思うところがあったのか、そのままルラの前まで行って寝転がる。
「ぬこさん、気を遣ってくれるのですか? ありがとうございます」
言いながらルラがぬこを撫でれば、ぬこは、
「なっ」
と応えるように短く鳴いてから、その場でしなやかな身体を伸ばして、手をわきわきさせる。
うむ。可愛い。
しばらくルラになでられるままにされていたぬこ。満足したのか、テーブルに置いてあったぬこ用の玩具の山に手を伸ばす。
テーブルに置いてあるのは、ぬこが過去に興味を示さなかった玩具の数々だ。
雑多な山に手が届くと、その中のひとつに爪をひっかけて己の方へと引き寄せる。それはぬこに被ってもらいたかった、ふわふわした帽子。
ぬこは帽子を手にすると、肌触りを気に入ったのか、頬ずりするように身体にまとわりつけた。
その姿を見て、我は素晴らしいアイディアを思いつく。
「ルラよ、全てを丸く納める方法を思いついたのだが」
「何ですか?」
「お主も協力することになるが、良いか?」
「……話を持ち込んだのは私なので、できる限りは協力するつもりですが……。待ってください、やっぱり聞いてから考えます」
警戒心を露わにしたルラに、我は今思いついた計画を話し始めたのである。
◇◇◇
数日後の深夜、我はルラの教会にやってきていた。人々は寝静まっているのか、静寂があたりを包んでいる。
「本当にやるのですか?」
ルラが念を押してきたが、愚問である。
「無論だ。今日、我がホーウィの写真機を盗んでやろう。謎の怪盗としてな。予定通り、ちゃんと教会に預けたのであろう?」
我の考えた作戦とは、ルラのアイデアの発展形である。ルラが管理して盗まれるのが問題ならば、文句の出ない場所から盗んでやれば良いだけのことだ。
すなわち教会の望み通り、写真機を渡し、それを我が奪い去ればすべて解決である。
「言われたとおりにしましたけど……でも、わざわざ盗む事を予告しなくてもいいじゃないですか。教会の指示で、聖騎士団も動いてますよ?」
「阿呆め。明確に盗まれたと分からねば、ホーウィの虚偽と疑われるであろうが」
「ぐ、確かに正論ではあるんですが……。それにどうして私まで変装して……」
文句の多いやつだ。我がぬこから思いついたのは、この変装であった。認識阻害よりも、目に付く格好で派手に盗み出したほうが、より印象に残る。
おそらくぬこは、我がそれに気づくのを見越して、あのような行動をとったのであろう。やはりぬこは天才である。
「手伝うと決めてから文句を言うな。我にはこの街の土地勘がない。お主が案内するのは当然であろう。安心せよ。飛んで行くゆえ、先日のように我の背中にしがみついておれば良い。それよりも、ほれ、早く着替えぬか」
我がわざわざ用意してやった服を指さすと、ルラは軽く我を睨んだ。
「……まさかとは思いますが、楽しんでないですよね?」
「む? 全然?」
まあ正直、少し楽しい。
「本当ですか?」
疑うルラに、
「それよりも早くせよ。のんびりしていては夜が明けるぞ」
と、半ば強引に話を進めるのであった。
◇◇◇
「ケプラー様」
教会本部の庭の闇の中。警護の部隊を指揮するケプラーは、声の方に振り向いた。
「どうした、異変があったか?」
「いえ。そうではないのですが……」
「ならば持ち場を離れるな。今は厳重警戒中だぞ」
「申し訳ありません。しかし、兵たちが『本当に来るのか』と」
―――神聖物候補の写真機を頂戴する―――
というふざけた予告状が教会に届いたのは3日前のことだ。直ちに聖騎士団にも報告が入り、対策を迫られた。
これは重大な挑発である。教会は重く受け止め、問題の写真機を厳重に保管。指定された日の警備を聖騎士団に依頼してきたのである。
こうして予告当日は、朝から教会本部には聖騎士団がひしめき合っており、大変物々しい。
ひとまず、今のところ大きな異変はなかった。
そもそも本当に盗みが目的ならば、こんな派手な真似をする必要はないのだ。
悪戯目的の愉快犯ではないかという意見は聖騎士団の中でも根強い。兵士から多少の不満が出るのは仕方がないこと。
「悪戯かどうかは後だ。今日が終わればはっきりする。それよりも誇り高き騎士団員が、この程度で気を緩めるなど、そちらの方が問題だ。配下どもを引き締めよ」
「はっ!」
部下が立ち去っていった直後、空を覆っていた雲が流れ、月明かりが教会を照らし始めていた。




