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ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


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【その38:チェイスザせいじょ】


「あ、ルラ様。おはようございます。はい、はい。この書類ですね。確認致しますのでしばらくお待ちください」


 私が今日も教会本部にやってきたのは、先日出した経費の申請書類に間違いがあったためである。何度やっても、この手の書類記入は苦手だ。


「すみません。毎回……」


「いえ。やはりこういったものは得手不得手がございますから……」


 経理窓口の人になぐさめてもらいながら提出し直して、内容確認を待つ間、私はとぼとぼと廊下の角にあったベンチに座った。


 こういう時、自分の教会に神官が一人しかないのは不便だ。


 たまにハーロットなどの本部の人たちが手伝いに来てくれるけれど、彼らはあくまで本部の聖職者で、申請書類などは管轄外。


 ちゃんと覚えないとなぁと、心の中で反省していると、背後からボソボソとした声が聞こえた。廊下を曲がった先で、誰かが会話している。


「……では、オレックは……」


 聞き耳を立てていたわけではないけれど、なんとなく耳に入ってきた言葉。


 今、オレックって言わなかった?


 聞き間違いかもしれない。でも、もしも本当にオレックの名前を出したなら、一体誰が、なんのために?


 王都の教会には、現在オレックという名前の聖職者はいない。それは私がオレックを調べた際に判明している。


 もちろん市政に目を向ければ、そこまて珍しい名前ではない。けれど、ここは教会の総本部だ。自ずと、魔族領へと逃げたオレックが思い浮かぶ。


 会話が途切れ、気配が薄くなったところで、慎重に角から顔を覗かせると、そこには地区教長のオリオネートさんの後ろ姿。


 私は一瞬だけ悩んで、急いで経理窓口さんに声をかける。


「あの、急用を思い出したので、また後できます!」


「あ、ちょっと、ルラ様!? ここの空欄を……!」


 引き止めようとする声を振り払うと、私は密かにオリオネートさんを尾行し始めたのである。


◇◇◇ 


 オリオネートの隣には、もうひとり神官が並んで歩いている。服の色が違うので、多分、王都の教会の人間ではない。


 どこの教会の所属なのだろうか。胸の刺繍が確認できれば、ある程度特定ができるだろうけれど、背を向けている今は無理だ。


 二人は親しげに会話するでもなく、むしろ若干の距離をとって歩いてゆき、突き当たりまでゆくとそのまま別れた。


 私は少し迷って、見慣れぬ神官の背中を見送ると、オリオネートさんを追うことにする。彼女はそのまま教会の本部を出て、まっすぐに街の北へと足を向けた。


 オリオネートさんの教会は南のエリア。真逆の方向だ。少なくとも、自分の教会に戻るつもりではない。


 彼女は私の尾行には気づかず、ごく自然に大通りを歩く。私は物陰に隠れながら、見失わないように後を追った。


 そうして進むことしばし。


「あれ? もしかして……」


 私が薄々目的地に予測がつき始めた頃、オリオネートさんは、とある場所で足を止めた。そこにあったのはエルグレイ地区教長の教会だ。


 ここで初めて、周囲を警戒するように見渡してから、教会の中へと消えてゆく。しばらく様子を見ていたけれど、そのまま出てくる様子はない。


 オレックの名前が出た直後の、この行動。何かしらの関係があるのだろうか。


 このあとどうしようかと、私は迷う。


 さも偶然のふりして教会に入る? 私も教会関係者である以上、行動としてそこまでおかしくはない。「たまたまオリオネートさんが入ってゆくのを見かけて……」などと言えば。


 でもそれだけだ。内密の話ならば警戒されて終わり。今変に警戒されるくらいなら、別の機会を探ったほうがいい気もする。


 もしも、オリオネートさんとエルグレイが“悪意なき悪意”の存在を知っているなら、慎重に行動しなければ。


 ……悪意なき悪意の正体が、あの二人のどちらかという可能性も否定できないし。


「こんなところでどうされたのです?」


「うわあ! びっくりした!」


 いきなり背後から声をかけられて、私は飛び上がる。振り返ればそこにはハーロットの姿。


「びっくりしたのは私の方ですよ。なんなんですか、いきなり大きな声を出して」


「ハーロットが突然声をかけるからです。不躾ではありませんか。なんの用なのですか?」


 口を尖らせた私に、ため息で応酬するハーロット。


 それからゆっくりと一枚の紙を私の眼前に突きつける。


「教会の経理から頼まれたのですよ。こちらの書類の記入漏れを、書いてもらってきて欲しいと。これ、提出期限が過ぎておられるではないですか?」


「ならば私の教会に届けてくれればいいのに」


「そのつもりで教会を出たのです。が、知り合いから聖女様が北に行くのを見かけたと。聖女様の教会で待つよりは、直接手渡したほうが早いかと歩いてきてみれば、こんなところで何やらコソコソと……。何をしておいでですか?」


「あー、えーっとですね……」


 私がモゴモゴしていると、ハーロットの視線はエルグレイの教会へ。


「あ、もしかして」


「誤解ですよ!?」


「……まだ何も申しておりません。そりゃあ、エルグレイ様は世のご婦人方の人気を集めるお方ですから。聖女様も憧れるお気持ちは理解できなくはありませんが……付き纏いは感心しませんよ?」


「それも誤解です!」


 結局その日はハーロットへの言い訳を重ねがら、その場から撤退することになったのである。




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