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ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


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【その31:はぐれぷりーすと(2)】


 ぬこをひと撫でして立ち上がった魔王は、ゆっくりと私を見た。


「なんだ? 行かぬのか?」


「い、行きます。ちょっと待ってください」


 私は膝の上のぬこさんをそっと抱き上げて、キャットタワーに乗せる。


 若干抗議の声を上げたぬこさんであったけれど、先ほどつけたばかりの首輪がチリリと鳴り、そちらに興味が移ったようだ。


「よし、では我の背に乗れ」


「は? なんでそんなことを……」


「それはもちろん飛んでゆくためである。そこそこ距離があるのでな。む、もしかしてルラも飛べるのであるか?」


「人は飛べませんけど?」


「ならば早くせよ。さっさと行って戻ってくるぞ」


 一瞬迷ったけれど、本当にオレックが魔族領にいるのなら、この機を逃せば会えないかもしれない。私は意を決して魔王のマントに手を伸ばす。


 とはいえやはり抵抗はある。相手は魔王だ。私は一体何をしているのだろう。


 躊躇しつつマントを軽くつかんだ私に、魔王はこちらを振り向いて言う。


「伝え忘れていたが、我は基本的に速度重視で飛ぶ。落としても多分、すぐには気づかぬのでそのつもりでおるが良い。では行くぞ」


 とんでもない言葉を残して窓に足をかけた魔王。


「ちょ! 待ってください!」


 私はなりふり構わず、魔王の首に腕を巻きつけたのである。


◇◇◇ 


 びゅおびゅおと風を切り裂く音がする。顔に当たる空気の圧が、己がとんでもない速度で進んでいることを実感させた。


「どうであるか? なかなか良い景色であろう?」


 風の合間からそんな言葉が聞こえてくる。が、こちらはそれどころではない。そもそも満足に目を開けられないのだ。景色を楽しむなど不可能に近かった。


「もう少し、速度、何とか、ならないん、ですか!」


「ぬ? 何か言ったか? 風音でよく聞き取れぬな。よし、もう少し速度を上げる。しっかり捕まっておるがよい」


 そんな嫌がらせのような一言に、私が絶望を感じる中、魔王は本当に速度を上げた。


◇◇◇ 



「し、死ぬかと思った……」


 大地に降り立った瞬間に、四つん這いになる私。地面があるという安心感がこれほどありがたいとは思ってもみなかった。


 このまま大地を抱きしめたい心持ちだ。ちょっと湿っているからやらないけれど。


「何だ? 早すぎたか? 脆弱であるな。それなら速度を緩めるよういえば良いではないか」


 呆れる魔王にふつふつと怒りが湧いてくる。


「言いましたよ! 3回! 3回も!」


「そうであるか。聞こえなかったのでな。帰りはもう少し大きな声で伝えると良い」


 そうだ。これをもう一回やらなければ帰れないのか。とても気が重い。私が絶望的な気分を味わっていると、誰が近づいてきた。


「魔王様!? 急にどうされたのですか!?」


 駆け寄ってくる姿は間違いなく人間。


 まさか本当に、魔族領に暮らす人間がいるなんて。いや、一人だけではない、周囲を見渡す余裕ができてみれば、私たちを遠巻きに見ている人たちがたくさんいる。


 驚くべきことに小さな子供もいた。私は咳払いをして立ち上がると、膝下の埃を払う。


 こちらに近づいてきた人物は、そんな私を見て、少し額に皺を寄せた。


「……その服装は、神官か? なぜ魔王様と?」


 その反応でピンとくる。


「もしかしてあなたが……」


 私の言葉は無視して、その人は魔王に一礼。


「オレックよ。こやつは聖女のルラという。お主に会いたいと言うのでな、連れてきた」


「聖女? 聖女が私などになぜ?」


「その……」


 慌ただしい展開すぎて、どんなふうに問いただすか全然考えていなかった。言い淀む私に魔王が大きく頷く。


「我に任せよ。お主が何を話したいかは、分かっておる」


 自信満々の魔王に困惑しつつも、居住まいを正したオレック。まさか、私が何をしていたのか魔王は知っているのだろうか?


「うむ。心して聞くが良い」


 オレックの喉がごくりと鳴る。


「お主は猫グッズを作る知識を持っている、そうであるな?」


「は?」


「隠さずとも良い。ルラが言いたいのは、お主の知識があれば、ぬこのための新しい玩具が……」


「全然違うんで、ちょっとあっちに行っててもらっていいですか?」


 魔王に対して、素でそんな言葉が出た。





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