表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぬこ様と魔王様と 〜もしも魔王が、猫を飼ったら〜  作者: ひろしたよだか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/67

【その25:せいじょリサーチ(上)】


 大司教ギュンターは、報告を聞き終えると静かに顔を伏せた。蝋燭に照らされたその表情には、皆から慕われるいつもの柔和さはない。


「そうですか。コサード地区教長は失敗したのですか……」


「はい」


 困ったものだ。あの計画は極秘に進めよとあれほど伝えたというのに、安易に地区教長の名前を出すような者を使い、あまつさえ失敗するとは。


「どういたしますか?」


 司祭ハーロットの問いは、計画のことを指しているのだろう。あのあたり一帯を買い占めて賭博場(カジノ)を作る。もちろん教会が直営するわけではない。間に偽の運営局を噛ませて、そこから収益を得るのだ。


「……場所の再考は必要でしょうが、計画自体はこのまま進めましょう。それに、思わぬ収入もありました」


 あの娘、ルラが突然大量の聖灰を持ち込んだと聞いた時は驚いたが、聖灰を教会に買い取らせた金で知人の店の債権を買い取るとは。


 しかし、これは決して悪い話ばかりではない。聖灰は国内でも高く捌けるし、他国に流すこともできる。それに支払った金は……。


「……コサード地区教長には、今回聖女が支払ったお金をきちんと回収するように、と」


「畏まりました」


「……敬虔なコサードのことです。まさか断りはしないと思いますが、何かあれば知らせてください」


「はっ。ところで大司教様、騒動の渦中にいた、妙な男のことはどうされますか?」


 自分からは手出しせず、うっすらと白い光に包まれた人物、か。目撃証言通りならばかなりの聖魔法の使い手だが、そのような人物、教会に該当者はいない。


 ならば。


「おそらく、その男ではく、聖女の御業でしょう。あの娘、才能だけなら歴代の聖女の中でも指折りですから。その人物に密かに白装をかけたのでは?」


「そう、でしょうか……」


 やや納得いっていないハーロットではあるが、それ以上は何も言わない。


「全く、今代の聖女はいささか手綱を取るのが難しい」


 本当に困った娘だ。力は随一だが、金や権力には興味を示さない。ギュンターにとって扱い難い存在だ。かといって無碍にはできず、持て余していた。


 本来であれば魔王城で潰えるはずであった命はしかし、運の良いことに、魔王と対面して生きて帰ってきている。結果的に聖女はますます神格化し、余計に手が出し難い。


 かといって教会本部で要職を与えて監視したくとも、コントロールの利かぬ人物に、中枢で好き勝手動かれては妙な派閥を生みかねない。


 そのために、どこにも所属していない教会を与えて、好きにさせる代わりに隔離したというのに。


 先日は妙な質問を投げかけてきた。魔族との戦いに疑問を持つような発言だ。教会にとって非常に危うい問いであり、これもまた、煩わしい。


 他国はどうか知らないが、我が国は、いや我が教会において、魔族との戦いは“商売”である。適度に盛り上げ、教会の権威と集金をし易くするための舞台装置。


 理由は単純。魔王(アレ)は本物の化け物だからだ。いかなる勇者パーティーも叶わず、どころか傷一つつけることすら困難な存在。長く様々な情報を集めてきた結論が「人類には勝てない」である。


 だが、教会は魔族との戦いを推進している筆頭なのだ。今までの犠牲や費用を考えれば、絶対に認められぬ事実。


 唯一の救いは、魔王がその腰を上げて、人の領地に踏み入れてこないこと。だがそれとていつ気が変わるかわかったものではない。


 ならば、すべての人類にとって今は余生のようなもの。聖職者であろうと何であろうと、束の間の余生に享楽や権力を求めて何が悪いというのか。


 そうでもしないと絶望の明日を迎えることなど、到底できぬ。


 来るべき終末まで、魔王という禁忌に触れず、現状維持。これがこの国の教会のあるべき姿。


 故にこそ、あまり嗅ぎ回られては困るのだ。オレックのように。


「……とはいえ、無駄な騒ぎは好ましくありません。その、正体不明の男とやらも含め、聖女の周辺の警戒は怠らぬようにお願いします」


「はい。もちろんにございます」


「では今日はここまで。私は休みます」


 ハーロットがうやうやしく一礼して部屋を出て行くのを見届け、ギュンターはやれやれとため息を吐くのであった。



◇◇◇ 



 魔王がキャットタワーを買って帰った数日後、空き時間を作った私は、教会本部内の記録室に向かった。


 ここには教会に関する様々な記録や書物が集約されている。


「こんにちは」


 司書の同胞に声を掛けると、書物に落としていた視線をこちらへ向ける。


「おや、聖女様。ごきげんよう。本日は何かお探しですか? お手伝いいたしましょうか?」


「いえ。私一人だけで大丈夫です。あの、魔族との戦いに関する記録や、勇者一行の記録はどのあたりですか?」


「……まさか、再び魔王の元へ?」


「あー……えっと、いえ。ちょっと調べたいことがあるだけです」


「そうですか。再び魔王と相まみえる旅に出向くのかと、少々どきどきしていましました」


 そんな言葉に、私は曖昧に微笑む。まあ、魔王本人とは数日前に会っている。言っても信じてもらえるとは思わないけれど。


「……それで、どのあたりですか?」


「勤勉でございますね。該当の記録は右手奥の方に分類されております。何かあれば、お声がけください」


「ありがとうございます」


 目的は行方しれずの司祭、オレックの記録。


 かつて勇者パーティーに参加していたというから、何らかの足取りが残されているはず。


 私はひとり「よし」と気合を入れると、無数の書物に挑み始めるのであった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ