【その24:まおうさまはふきげん(下)】
急募。ぬこがキャットタワーを使ってくれる方法。
今日も我は考える。が、よき案は思いつかない。いっそ、あのキャットタワーは諦めて、別のものを買い求めようか? その方が話が早い気がしてきた。
2日後は我の定めた休息日であるので、早速エリナの店に行ってみよう。
「……様? 魔王様?」
「む? なんだ?」
いかんいかん。今は軍議の最中であったわ。
ついついキャットタワーのことばかり考えてしまう。まあ、軍議と言ってもいつも大した話はしていない。ちょっとした報告会など、我が聞いていなくともさして影響はない。
しかしこの日はベリアルが随分と深刻そうな顔をして、玉座の前に跪いた。ラステリアスも一緒である。
「どうした?」
我が問えば、ベリアルは悲壮さすら漂わせながら、顔を上げる。
「魔王様がここのところ、我ら配下に対して深くお怒りになられておられること、我ら一同、心の底より不甲斐なく感じている次第にございます!」
「ん?」
急になんだ? 突然配下が反省を始めたのだが?
「突然なんの……」
「みなまで仰らずとも! よくよく分かっておりますとも! そこで本日我らは、魔王様にご満足いただけるような策を献上させて頂く次第にございます!」
「む?」
全く話が読めぬのだが? 我が眉を顰めると、ベリアルはますます早口で捲し立てる。
「このベリアルとラステリアスの献策、ご一考賜れれば幸甚にて!」
なんだかわからぬが、とにかく献策したいらしい。ならば聞くか。このままでは埒が開かぬからの。
「……話してみよ」
「はっ! それでは。確かに我らは人間どもに良いようにやられておりました! このままでは魔王様もご不快にございましょう! しかしそれもここまで! 人間どもの姑息な手段をつまびらかに致します!」
「ふん、なるほど」
つまりあれか。勇者がちょくちょくやってきた事に対して、我が立腹していると思っておるのか? やや煩わしくはあったが、別に腹を立てるほどの話でもないのだが。
「勇者が簡単にこの城までやってきたのには、人間どものなんらかの小賢しい知恵が原因と愚行いたします。まずはそれを解明したいと」
うむ。すでに転移魔法は我が解析済みなので、特に必要はない。
しかしそれを説明すると、転移魔法を教えて欲しいとか言い出しかねぬな。それはそれで面倒である。
我が黙っていると、ラステリアスが一歩前に出る。
「そこで私の軍団を使い、人間どもを拐かし、真相を吐かせようと考えた次第にございます」
確かにラステリアスの率いる妖艶軍団は、人を惑わすにはちょうど良い人材である。そのために時折人間界へ混ざり、人を騙して情報を得るのだ。
ただ今回の場合はすでに前提が違うので、出番はない。
「うーむ」
なんと伝えるべきか。中途半端に許可を出して転移魔法を使い始めた場合、交戦的な者どもがルラ達のいる王都へ雪崩れ込む心配もあるな。そうなるとエリナの店が心配である。
それに、あの街が戦火に晒されれば、ルラが面倒を見ていたぬこの同胞が巻き込まれる恐れもある。
ぬこほどではないが、あれらもなかなかに可愛いので、それは好ましくない。
しかし部下がやる気になっているのに、一方的に否定もするべきではなかろうな。さて、どうするべきか。
と、ふと我は気づく。
「攫ってきた者どもは、その後どうするのだ?」
我の質問にベリアルは、そんな質問をされると思っていなかったという顔をする。まあ、必要な情報を得たら、処分すれば済む話ではあるのだが。
「……折角捕らえるのだ、他にも得られる情報があるかも知れぬからの」
「なるほど、そのようなお考えでございましたか。流石は魔王様にございます。ああ、では、例の場所に放り込んでおいてはいかがですかな?」
「例の……ああ、あそこか。いや、それはやめておけ」
「何故にございますか?」
「あそこにいるのは人の世を捨てたもの達であろう? 要らぬ揉め事を増やしても煩わしいだけぞ。うむ。やはり拐かしてくるよりも、現地で情報を集めた方が良い。だが、集めるべきは勇者がここにやってくるための方法ではない」
「もしや、魔王様はその原因に見当を……?」
「ベリアルよ。我を詮索するは魔王軍の禁忌ぞ?」
「はあっ! 申し訳ございませぬ!」
「……良い。それよりも、写真機について情報を集めるのだ」
「写真機? ……例の魔王様のお姿を記録した魔道具ですな」
「そうだ。我にとってはその方が問題である」
「確かに、魔王様のお姿を晒すのは好ましい話ではございませぬ。直ちにその絵を撮ったものを特定し、街ごと焼き払……」
「そうではない。未だ手に入らぬ、写真機のふぃるむとやらを入手せよ。あー……それがあれば、勇者の情報を皆に共有できるであろう? そうすれば、勇者の発見もよりたやすくなるのではないか?」
「おお! なるほど! では早速そのように」
こうして話は終わり。軍議もここまでとなる。
部屋に戻った我が、やれやれと息を吐いてなんの気なしにキャットタワーを見やれば、そこには奇跡の光景が!
「ぬこが! ぬこがキャットタワーの袋で寝ておる!?」
ぬこが起きてしまわぬように極めて慎重に近づきながら、我は密かに歯噛みをする。
今こそ写真を撮ることができればっ! できればっ!
そんな我の気配が伝わってしまったのか、ぬこが耳をぴょこ、と動かすとキャットタワーから飛び降り、さっさと立ち去ってしまった。
「ぐ! ぐぬう! せめて近くで見たかった!」
我は儘ならぬ想いに潰され、その場に崩れ落ちるのであった。




