27.ご立腹の理由
放課後。
俺は白石さんとの約束通り、指導室に向かうことにした。
廊下を歩いていると、朝と同じように女子達からの好奇の視線を度々感じることになった。
いやはや、一体どうしたというのだろう?
よくわからないが、今は白石さんのことを考えておくべきだろう。
そう。今は白石さんがどうして怒っているかを考えるべきだろう。
「いや本当、どうして白石さんあんな怒ってたの?」
まったくもって意味がわからん。
指導室に向かう足取りも、どんどん遅くなっていくのがわかる。
「……はぁ、どうして俺がこんな目に遭わないといかんのだ」
そもそも俺、球技大会で活躍するって約束を守ったんだぞ?
そんな俺がどうして怒られないといかんのだ。
……とりあえず指導室に到着した俺は、扉をノックして部屋に入った。
白石さんは、いつも通り俺の胸にダイブ……してこなかった。
椅子に座って、静かに勉強をしていた。
珍しい。
実に珍しい姿だ。
こうして勉強している白石さんを見ていると、彼女はまるで清楚な美少女に見えて仕方がない。
「……槇原君」
「はい」
「あたしが怒っていることわかりますか?」
「わかる」
「どうして?」
「声が怒ってるから」
「さすがです。よく気付きましたね」
……だろ?
「ちっがーう!」
びくっ。
「そうじゃないです! そうじゃないですよ槇原君!」
……なんてノリツッコミ。
意外とこの辺、ノリがいいんだよなぁ、白石さん。怒っていてもやってくれるんだもの。
「で、なんで怒ってるの?」
「……とりあえず抱きついていいですか?」
「え、何故?」
答えを聞くより早く、白石さんは俺の胸に飛び込んできた。
スー、ハー、と大きく息を吸って吐いた白石さんは、しばらく自らの顔を俺の胸に擦りつけてきた。
「生き返ります」
というか、こうして俺の胸に顔を埋めてくるあたり、さっきの怒った姿はポーズだったのだろうか?
怒っているのか怒ってないのか、よくわからない。
「で、なんで怒ってたの?」
「槇原君、自分で気付いてないんですか?」
「……え、何を?」
「槇原君、昨日の球技大会で大活躍したせいで、女子から今注目されているんですよ?」
……。
えぇ?
いやいや、えぇ……?
「ないないない」
俺は顔の前で手を横に振った。
「だって俺、中学時代いじめっ子だよ? 問題児だよ? 違反切符常習犯だよ? そんなやべー奴、誰が好きになるってんだ」
「……自分のことを過小評価しすぎですよ、槇原君」
……え?
いやいや……まあ確かに、今日一日、学校の女子が俺を見る目が、昨日までとは随分と違うと思いましたけども。
「えー、そうなの? なんでまた……俺?」
「……わかりませんか」
「わかりません」
「皆が槇原君の魅力に気付いちゃったんですよ!」
「……はへあ?」
「どうして球技大会で活躍しちゃったんですか!」
「君が活躍しろって背中押したからだよ?」
「もーっ! もーっ!」
白石さんは俺の胸をポカポカと叩いた。




