22.球技大会
変な夢を見たせいか、白石さんのモーニングコールよりも前に目を覚ました。
窓から外を見ると、今日は生憎の空模様。
「傘、持っていかないとな」
俺はベッドから体を起こして、朝の準備を始めた。
「おはよう。今日は早いね」
「うん。おはよう」
「朝ごはんはトーストと目玉焼きでいい?」
「うん。ありがとう」
テレビを見ながら朝ごはんを食べていると、白石さんからモーニングコールが来た。
しばらく電話をした後、彼女が家を出たので、俺も準備を済ませて家を出た。
正門前、いつも通り白石さんは、風紀委員の身だしなみチェックを行っていた。
……そして、ついに俺は、白石さんや峰岸さんに絡まれることなく、正門を潜り抜けることが出来た。
中々に感無量だった。
……何より、自分的には一切、身だしなみで問題がある部分がないと思っていたから、余計に嬉しかった。
まあ、俺に違反切符を切りまくった白石さんは、イチャイチャするために違反切符を切っていたんだし、実際問題なんてなかったんだけどねっ!
教室に到着すると、教室は既にワイワイガヤガヤと騒がしい。
俺は自席について、授業は始まるのをぼんやりと待つことにした。
「皆さん、おはようございます」
そして、朝のSHRが始まった。
「それで、来週の水曜日は球技大会となります。皆さん、体育着は忘れないようにしてください」
そうか。もうそんな時期か。
ウチの高校の球技大会は、六月と二月の計二回行われる。
男女別、そして月別で競技は代わることになっており、六月の競技は、男子がサッカー。女子がバスケということになっていた。
「よっしゃー! 球技大会の日は授業潰れるぜ!」
「うおおおっ! 勝って女子にいいとこ見せるぞ!」
ウチのクラスの男子は、非常にわかりやすい性格をしている。
スポーツ万能=女子にモテるとでも思っているのだろうか?
……まあ、運動出来る人はカッコいいよな。うん。
「男子、またギャーギャー騒いでるよ」
「ねー。ガキっぽくて全然恋愛対象に見れないってのに」
……えっ、そうなの?
ウチのクラスの女子陣、ちょっと達観しすぎじゃない?
……まあいいか。
どっちにせよ、俺が球技大会で活躍出来る日はやってこない。
一応、弁明しておくと……俺は別に運動が出来ないわけではない。
ただ、俺はなるべく目立たない方がいいだろう。また何か言われて、昔の事件を掘り返されるかもしれないし。
「じゃあ、男女ともに二チームに別れてね」
二チームに分かれるのは、なるべくクラスメイト全員が試合に出れるようの配慮とのことだ。
……嫌な流れだな。
「……で、あいつどうするよ」
何が嫌って、俺をどっちのチームに入れるかもめ事になることだ。
去年の球技大会の時もそうだったが、こういうチーム分けのタイミングになると、皆が皆、問題児である俺の扱いに困るのだ。
……ま、勝手にしてくれ。
どっちのチームに入ろうが、俺は別に困らないし。
「何、槇原、まだどっちのチームか決まっとらんの」
達観しながら、事の成り行きを見守っていた俺の耳に、大きな声が聞こえてきた。
振り返ってみると、俺の処遇をクラスメイトに尋ねているのは、クラスでもトップカーストにあたる飯沼君だった。
面倒臭いことになったな。
トップカーストに目を付けられ、変に遺恨を生むと、後々面倒臭そうだ。
それならばいっそ……槇原なんて俺と別のチームに入れろ、と我儘勝手な発言を飛ばしてほしいくらいだ。
「じゃあ、ウチのチームに入れようぜっ」
「えぇっ!?」
飯沼君の発言に、彼のチームメイトが露骨な反応を見せた。
「ぬまっち。でも……マジ?」
「マジマジ。あいつガタイいいし、絶対運動神経もいいべ」
「悪いよ」
とりあえず告げ口しておいた。彼らのチームに入って、戦犯になることを想定した。リスクは犯したくない。
……なんだか飯沼君達の視線を感じる。
「……おい、槇原」
いや、視線だけではなかった。
飯沼君は俺を睨みながら、歩み寄ってきていた。
「……何?」
とりあえず反抗的な態度を示しておいた。
「じゃあ、一緒に練習するべ」
飯沼君はグッドサインを見せてきた。
「は?」
「いやいや、は? じゃねえよ。高校生にもなって運動出来ないなんて勿体ないだろ。だから、練習しようぜ」
「……いいよ」
「……おい、槇原」
飯沼君は俺の肩をガシッと掴んだ。
「球技大会で活躍したら白石に惚れられるかもしれないぞ!」
「はあっ!?」
思わず、変な声が漏れた。
どうしてここで白石さんの名前が出る?
しかも……惚れられるってなんだ。
俺はもう白石さんの恋人だぞ!?
「皆で噂してたんだ。お前が風紀違反切符切られてるの、白石さんと話すためなんじゃないかって」
「ち、違うわっ!」
どちらかというと、向こうが俺と話すため……。あぶね。口から漏れるところだった。
「えー、そうなの? ……お似合いだと思うんだけどなぁ」
「……あっそ」
……くそ。恋人なのに恋人アピール出来ないの、すごいモヤモヤするな。
「まあ、とりあえず一緒のチームでやろうぜ。運動音痴なんて嘘だろ。そんなにガタイいいのに」
飯沼君は俺の背中をバンバンと叩いた。
「よし。決まりな! じゃあ、頑張ろうぜ」
そして……チーム分けに関する拒否権は俺にはないようだった。




