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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第2章 女子爵の息子

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2-8.生魚

「さあ、ヨナ様。食事にしましょう。新鮮な魚は食べたことがないでしょう?」

「はい。師匠、ありがとうございます。話の輪から助けてくれて」

「いえいえ。皆、ヨナ様のことが好きなのでしょう」

「まさか」


 当主である公爵の意向というのは大きいだろうが、純粋な厚意でこんなことをしているわけではあるまい。

 裏があるに決まっている。


 それを公爵もよくわかっているのか、笑みを見せる。


「そうですな。ヨナ様は王都や王家の最新の情報を握っている。王家が、外には出せないような醜聞も知っている。もてなすには、それで十分でしょう」

「はい」

「そんな中で、ヨナ様の存在は王に対する切り札になりえます。彼らが流した嘘を暴くための」


 公爵は王に仕える立場だけど、絶対服従の家来ではない。しかも彼に仕える家臣たちは王の家臣ではなく、公爵の家臣だ。民も同じ


 第一に自分の領地と、そこに生きる民を守らなければならない。

 王を含めて王家が信頼できる存在ではないと発覚した今、警戒するのは当然だ。耳に痛い忠言を厭って、忠臣を追放したり領地に攻め込んで滅ぼすような暗君は、歴史を見ても数多く存在する。


「情勢は今、不安定です。魔物は隙あらば人の領地を侵そうとするし、西方にある帝国の動きもきな臭い。そこへ畳み掛けるように、王家が揺れている。世間的には、王子が立て続けにふたり死ぬ一大事です。次に王家が何をやらかすか、わかったものではない」


 そんな情勢で領地や領民、あるいは国を守るためには、僕の存在が重要になる。


 場合によっては、国を守るために愚かな王を打倒して政治体制を一新する必要も出てくるかも。それは最悪の事態だとしても、公爵はあらゆる事態に備えていて、多くの手札を持とうとしている。

 故に僕を手元に置いている。


「そうでなくても、邪悪なる竜の発生に対して、人々を率いてこれを倒して被害を最小限に食い止めた。しかも聖剣に絡んだ異能持ち。手元に置いておかない選択肢はありませんぞ。私の子たちも、それをよくわかっている」


 だから歓待するし、優しくしてくれる。そもそも公爵が僕を王都から救い出してくれたのも、そういうこと。


 完全な善意からじゃない。そう簡単に、ただのヨナになれるわけじゃない。


「その方が気楽です。正体のわからない善意より、理由があって協力してくれた方がいい」

「さ、肩苦しい話はここまでとしましょう。ほら、イカの刺身を食べてください。そのままだと生臭いので、酢か塩水をつけて」

「はい。……刺身?」

「魚を生で捌いたものです。イカは時間が経つと白く濁っていくので、透き通っているこれは新鮮な証拠ですよ」

「なるほど。……おいしい」


 干したイカは、王都で何度か食べたことがある。しかし生は初めてだ。


 コリコリとした食感が独特で美味しい。


「他にもエビや貝類、魚の刺身がありますよ」

「いただきます。けど師匠、魚って腐りやすいのでは? ここは一応、内陸部ですよね?」


 領地自体は海に面しているとはいえ、このナーズルは海と接していない。漁業をやっている地域までは、馬車で一日はかかる距離にある。


「生け簀と言って、取れた魚を海水で満たした箱に入れて、生きたまま運ぶのですよ」

「なるほど」


 輸送に手間がかかるし、大皿いっぱいに盛り付けられた刺身を見るに、相当数の容器を運んだことが伺える。

 夕食にも、用意をした公爵の力を見せつける意味があるわけだ。


「さすが師匠。面白いことをしますね」

「ヨナ様の歓待のためですよ」


 善意として受け取っておこう。


 マグロという赤い魚を食べる。美味しい。


 さて、歓待されついでに、気になってたことを尋ねよう。


「嬉しい限りです。公爵家が僕のことを高く買ってくれているのはわかります。……もしかして、シャルロット嬢が結婚を申し入れたのも、その一環ですか? 婿入りすれば僕は逃げられません」


 世間話の延長で尋ねてみると、公爵はピクリと眉を動かした。

 それ以外に表情の変化はない。怒りも困惑もしていない。この話題が来ることは予想していたが、そんなに話したい内容ではないって感じだ。


 別に、愛する孫娘を嫁にやるのに抵抗があるとか、そういう話ではない。


「もし公爵家から、王子に嫁入りする娘が出たとするならば、それは大変な名誉です。国内での公爵家の立場を盤石にするという意味でも。しかし……ただのヨナへ嫁にやる娘はいません」

「それもそうですね」


 シャルロットは公爵家の令嬢。結婚相手を選ぶのは、もっと高貴な相手でなきゃいけない。


「ま、個人としては嫌ではないのですけれど。シャルロットも、好きな男と結婚したいと思っているのなら、それはそれでありです」

「ええっと……」

「シャルロットは前々から、ヨナウス殿下のことを大層気に入っておられましたよ。今は殿下はこの世にいませんが、それでもただのヨナ様を好いている様子」


 そっかー。シャルロットは僕のことを本気で。それは参ったな。


 好意に答えてあげたい気持ちはあるけど、今の僕の立場を考えると難しい。それに、公爵家でも問題は抱えているらしくて。


「シャルロットはまだ小さい。だから結婚は今すぐというわけではないのですが、婚約を結ぼうという動きはあります」

「婚約?」


 こういう世界だ。幼い頃から当人の意志とは関係なしに、家同士で婚約者が決まることはよくある。シャルロットにも、そういう男が決められそうになっているのだろう。

 公爵の口ぶりから、最近そうなったという感じだ。で、シャルロットはそれを受け入れたくなかった。そこに僕の訃報と復活が重なった。


 衝動的に婚約を申し出たとかだろうな。


「ヨナ様。シャルロットに関しては、公爵家の問題です」

「わかりました。ですが師匠。シャルロットは僕にとって大切な友人です。彼女を不幸にさせることだけはしないでください」

「ええ。わかっていますとも。しかしヨナ様。自分で嫁に取れるわけでもないのに、そう願うのは身勝手と思われかねませんよ?」

「そういうものですか。ただのヨナなので、貴族の力関係については詳しくなくて」


 本当に、一筋縄じゃいかないな。

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