1-49.最初の復讐
「よ、よな、ヨナウス! お前、な、なにを」
「そこの死体たちに襲われた時、異能に目覚めたんだ。これで家族に復讐することにした。父も兄もみんな許せない。ぶっ殺してやる。最初はお前だ」
「やめっ! やめろ! おい! 冗談だよな!?」
「冗談で手を切り落とすと思う?」
剣を握ったままの、切断されたグラドウスの手を踏みつける。血が押し出され、肉が潰れる音がした。
「家族の中で邪魔者だった僕を追い出したい気持ちはわかる。殺した方が面倒がないのも理解できる。正しい判断だろうさ。グラドウス、あなたは正しい。だからこの結果も正しいんだよ」
「やめ! やめろ! やめてくれ! 頼むから! たのっおごっ!?」
ゆっくりと近づく僕に、グラドウスは涙を流しながら逃げようとしたけれど、腰を抜かしてできなかった。だから、真正面から僕に顎を蹴り上げられることになった。
「あああっ! あー! あー!!」
痛みに悶える彼は僕を恐怖の眼差しで見上げ、接近を阻止するべく両手をむちゃくちゃに振り回す。手首の断面から血があちこちに飛び散った。うざったいから、その腕を掴んで断面に親指を押し込む。
「ぎゃあああああっ!」
「痛いか。痛いか!?」
「やめてくれ! 頼むから! ヨナウス! 俺は兄だぞ! お、王子だぞ! 王になる男だ!」
「知るか。兄でも王でも関係ない。敵は殺すだけだ」
「誰か! 助けてくれ! 父上! 母上! 嫌だ! 嫌だぁっ!」
枝が振られて、グラドウスの首が落ちた。
最後までやかましい男だったグラドウスの声を聞いたのか、誰かがこちらに近づく足音が聞こえた。
彼らに姿を見られる前に、急いでその場から離れた。
――――
突如としてドラゴンが王都の中に出現。原因は不明で被害も出ている。
その報告を受けた国王カードウスは、軍に対処を任せて自らは守りを厚くした城に引きこもることにした。
城内の王子や姫たちにも、城から出るなと命じた。グラドウスの姿がなぜかずっと見えないのが不可解だったが。
ややあって、ドラゴンが退治されたという知らせが入り、カードウスは安堵した。しかし奇妙な報告も来た。
ドラゴン討伐の指揮をしたのは、間違いなくヨナウスだったと。死んだはずの彼が、王都の危機を救うために蘇った。民衆の中でそんな噂が飛び交っているらしい。
カードウスや王妃だけはその意味を知っている。ヨナウスがなぜ戻ってきたのか、まさか復讐のためかと肝を冷やしたタイミングで、さらに恐ろしい知らせが舞い込んだ。
第一王子グラドウスが惨殺されたと。
カードウスの妻であり王妃であるオリーゼ・ライディオンは知らせを受けた途端に半狂乱になり、遺体が安置されている場所へと駆け出し、そして泣き叫んだ。
そこにあったのは、まさしく首を切断されたグラドウスの遺体。なぜか右手首も切られていた。
息子であり、次代の王であることが確定していたグラドウスの死に、カードウスは強い喪失感を覚えた。そして確信を得た。
「ヨナウスだ……」
床に崩れ落ち、大泣きする妻の声を聞きながら、カードウスは震える声で呟く。
「あいつが、儂の息子を。次の王を殺した。これで終わるか!? いいや、そんなはずはない! あいつは全て奪うつもりだ! 儂の家族を!」
ヨナウスも息子ではあるが、カードウスはそれを意識することはなかった。
「許さん! 絶対に許さん! おい! ヨナウスだ! 街に潜んでいるヨナウスを捕らえて殺せ! 今すぐに!」
兵士たちは戸惑い顔を見合わせた。ヨナウスは死んだと、カードウス自身が公表したのだ。それを探して殺すとはどういうことか。
「早くしろ! 王の命令が聞けんのか!? 早く探しに行け!」
王たる威厳もなく、ただ感情のままに喚き散らす王を見ながら、兵士たちは足取りも重く動き始めた。
――――
夜の王都をあてもなく歩く。これからどうするか、考えてなかった。
城を見る。グラドウスの死を、父上が知った頃合いだろうか。
今からひとりで城に攻め込み、父上と王妃とその他のきょうだいを皆殺しにする。そんな考えが思い浮かんだ。やれるかもしれない。王都の真ん中で魔物が暴れてるのに、城に引きこもってる連中だ。殺すのは簡単すぎる。
けど、やめた。
警備が厳重すぎる。城に王族全員がいるわけじゃない。それに……。
「ヨナ様!」
ひとりで城を見つめていると、ティナが駆け寄ってきた。
後ろにキアもゾーラも、もふもふを連れたアンリもいる。
ティナはひどく慌てた様子で、僕に抱きついた。
「よかっ! 良かった! ヨナ様、思いつめた様子でいなくなったから! もう二度と会えないかと! それに、血まみれで……お怪我はありませんか!? 無いって! 無いって言ってください!」
叫ぶように口にして、それからわんわん泣き出すティナ。その頭を撫でてあげる。
「無い。大丈夫。ごめんね。心配かけた。……本当はね、僕を捨てた家族にひとりで復讐をしようと思って。それで、みんなとはもう会えなくなるかもって、思った。だからできなかった。みんなとお別れしたくないから」
キアもゾーラもアンリも、僕を見つめている。僕の言葉を待っている。
「さっき、城の外に出ていた兄を殺した。父は僕の仕業とわかっているだろう。だから国を挙げて僕を探して殺しにかかる。みんな、今なら僕とは無関係を装って逃げられる。けど、改めてお願いする。僕と一緒に復讐をしてほしい。……それが、僕の望みだ」
みんな、返事に迷いはなかった。
「殺すってのは、やり過ぎだと思うけどさ……ヨナと出会ったおかげで、父さんの仇を取れた。今度はお前の復讐に付き合ってやるよ」
「今更ね。ヨナくん、あなた個人に付き合うと決めたのよ」
「わたしはアンリーシャみたいになりたいから! ヨナと一緒に戦ってあげるわ!」
そしてティナも、僕をぎゅっと抱きし直した。
「どこまでも! どこまでもついて行きます! ヨナ様!」
決まりだな。
「みんな。ありがとう。行こう」
方針は決まった。
あとはやり方を考えるだけ。まずは、僕を探すだろう兵士から身を隠そう。
僕たちは揃って、闇の中に姿を消した。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。これで、第1章は完結です。
次回以降も、ヨナは冒険をして騒動に巻き込まれつつ、家族への復讐を狙い続けます。ぜひ、続きも読んでいただければ嬉しいです。
皆さんからの反応、とても頼りになります。ブクマとか評価とか、いつもありがとうございます。まだの人は、面白いと感じたなら是非やってください。感想やレビューも、投稿していただけると助かります。よろしくお願いします。




