1-44.屋根の上
いかにドラゴンが巨大でも、足の太さは馬車ほどではない。しかも、もふもふは全速力を出していた。
それがぶつかる衝撃と、ちょうどドラゴンが片足を上げていた状態だったため、ドラゴンは大きくバランスを崩して、横の建物に倒れ込んだ。
ついでに馬車も大破した。借り物なんだけどな。お詫びの手紙を書かなきゃいけないな。
とりあえずヨナは助かった、建物の中にも人はいなそうだったし。
ところが、いきなり現れて転ばしてきた馬を、ドラゴンは睨みつけて。
「あ。やべぇ。こっちを狙ってくる。ガラス玉のせいだな、こりゃ」
「どうするの!?」
「もふもふが逃げ回るしかない!」
「わかった! もふもふもう少し頑張って!」
「二手に別れるか? アタシが降りた方がもふもふも軽くなって走りやすいだろうし」
「でもいいの!? キアが狙われたら」
「心配すんな。あいつはガラス玉を追いかけるんだろ!? それにアタシは森の中で生き抜いてきた女だ」
「わかった! けどここ街!」
「大丈夫だ! よっと!」
アンリにガラス玉を渡してから、もふもふの背中から飛び降りる。近くの建物の窓枠の出っ張りに指をかけ、壁をするすると登る。木よりは登りにくいけど、なんとかなる。
屋根の上に乗ったキアは走り去るアンリに呼びかけた。
「アタシも注意を引き付ける! ふたりでドラゴンを誘導しよう! ヨナは街の広場に行かせたがってたよな!」
「ええ! でもわたし、街の広場がどこかわかんない!」
「アタシもだ! 待ってろ探すから! それまでこの辺りをぐるぐる回ってろ! おっと!?」
ドラゴンはアンリともふもふではなく、こっちへ向かって飛んだ。足が遅くて襲いやすい方から片付けたいとかだろう。ガラス玉を追わなかったのは、その誘惑に耐えているからか。やっぱりデカいドラゴンは魔道具も効きにくいのかな。
しかも奴はブレスを吐こうとしている。すぐに息を止めて屋根の上を走る。
屋根から屋根へと飛び映れば、図体の大きなドラゴンは建物が邪魔でこっちに来れない。忌々しげにブレスを吐き出したが、キアまでは届かなかった。
「ははっ! ざまあみろ!」
「グルアァアァァァァ!」
「やべっ。怒らせた?」
ドラゴンは再度天を向いたと思うと、翼を大きく広げて羽ばたかせた。
とんでもない風圧に、キアの体がふわりと浮きかけた。
浮いたのはドラゴンも同じ。そのために羽ばたいた。
ドラゴンが飛び上がった。
「なんだあいつ!?」
「この! 狙うならわたしたちにしなさい!」
「アンリ!?」
予想外が次々に起こる。屋根の上にいるキアにとって、至近距離から聞こえるはずのない声が聞こえた。
実際に、屋根の上をもふもふが走ってキアの前を通り過ぎた。
「なんでここに!?」
「家の隣に木箱が置いてあったから! 踏み台にして登ったの! ドラゴンめ! アンリーシャの一撃をくらえー!」
馬上のアンリが矢を放った。
技量不足で狙いも定まっていない矢は、的だけは大きいから当たりはした。ドラゴンに傷をつけることはできなくても、怒らせることはできた。ガラス玉の効果もあって、ドラゴンの狙いはアンリともふもふに変わる。
キアから離れていくアンリたちを飛んで追いかける。もふもふは屋根から屋根へと飛び移り、時には地面に降りて細い路地を通ったりしてドラゴンを撹乱している。
そんなアンリたちをなんとか援護できないかと周りを見回して、そして見つけた。
建物がどこまでも続く中に、ぽっかりと開けた空間があった。あのドラゴンが余裕で収まりそうな円形のそこは、周りを木が囲んでいた。
そういえばヨナが、街の広場には木がたくさんあるって言ってたな。あれか。
「おいアンリ! 広場を見つけたぞ!」
声をかけたけど、聞こえてないようだった。
それどころか、広場からどんどん離れる方向に走っている。
あの方向って確か、ティナのパン屋さんがあったんじゃないかな。あいつ、ちゃんと家族を連れて逃げられたかな。
――――
キアたちのおかげで、僕はなんとか命拾いした。気絶した兵士はどうやら、グラドウスの近衛兵らしい。城で顔を見たことがある。
駆け寄った兵士に彼の身柄を預けて、肝心のグラドウスが近くにいないか見回す。姿は見えない。
「ヨナくん!」
代わりにゾーラが駆け寄ってきた。
「怪我はない!?」
「ない。ドラゴンを追いかけよう。馬はあるかな?」
「誰かから借りましょう。乗馬はできるの?」
「王族だからね。一通りの武術は学んでる。馬に乗るのもね」
周りには騎兵の姿もあった。よし、借りよう。
「ヨナウス殿下! 周囲を探して闇に当てられた者を確保いたしました!」
「あー。うん!」
早くドラゴンを助けたいのだけど、体が真っ黒になった人影を元に戻せるのは僕だけ。彼らは兵士に捕縛されたものの、がむしゃらに暴れている。放っておくと双方が危険だ。
「口を開けさせて」
兵士が真っ黒な顔の中から口のへこみを見つけてこじ開ける。僕はそこに木の枝をかざした。
すぐに、元の人間に戻る。
「おお」
「奇跡だ」
「これが王家の力なのか」
周囲の称賛の声を浴びながら、淡々と仕事をする。全員を元に戻すのに、そう時間はかからなかった。
「みんな。僕がドラゴンを広場までおびき寄せる。そうしたら全方位から一斉に攻撃してくれ」
「はっ!」
周囲の兵士が敬礼をする。
父たち本物の王族から逃げてる最中だから、あんまり目立ちたくないのだけど。仕方ないな。
「ヨナくん。馬を借りれたわ」
「ありがとう。行こう!」
ゾーラが先んじて動いてくれていた。しかも、僕の体に合わせて小さめのサイズの馬を選んでいた。
心遣いに感謝しながら、ゾーラとふたりで乗って手綱を握り馬を走らせる。




