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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第1章 長男

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1-42.竜の王

 "それ"は、長い間眠りについていた。

 どれほどの間かは知らない。知る術もない。とにかく、ずっと前なんだろう。目覚めた時、眼の前に広がる光景の差から判断できた。


 竜の王とまで言われて恐れられていた頃が懐かしい。だが、栄華は続かなかった。

 小癪な人間にやられたからだ。英雄と呼ばれていた奴は、"それ"が放つ闇を無力化する得体のしれない剣を持って、"それ"を倒した。殺すまではいかず、仲間の魔法使いに封印させるだけに留まったらしいが、それでも屈辱だった。


 だが"それ"は復活した。理由は知らない。知りたいとも思わない。



 周囲から悲鳴が聞こえる。皆、"それ"の姿を見て恐れ慄いた。この恐怖こそが力の源。なんと心地よいのだろう。


 悲鳴を上げる人々の中に、忌々しいものを見つけた。足元で腰を抜かしているそいつは、表面上は周りの人間と何も変わらない。脆弱な生き物だ。しかし"それ"にはわかった。

 忌々しい英雄の血を引いている。


 許すまじ許すまじ許すまじ。


 一歩踏み出して、その男を踏み潰そうとした。しかし奴は一瞬早く立ち上がり、なんとかこれを避けた。


「おい! お前ら! 俺を守れ! 俺は王子だぞ! うわああぁぁぁぁ!」


 情けない悲鳴を上げながら逃げるそれに、王子たる威厳などなかったが。

 奴の周りにも、馬を動かしている人間と、護衛らしき武装した兵士がふたりほどいた。


 彼らは王子を守ろうとはしなかった。我が身可愛さに一目散に逃げようとした。

 情けない。これが、あの男の末裔か。


「グルアァアァアアァァァァァ!」


 "それ"は空を見上げて咆哮を上げ、体の中の空気を一旦抜く。それから鼻から新しい空気を吸い込みながら、体内にある闇と混ぜ合わせた。

 正面を向き、英雄の末裔に狙いを定めて息を吹きかける。ただの吐息ではなく、闇の混ざった黒い息だ。


 末裔は同じ方向に逃げていた仲間を突き飛ばして、先にいってしまう。だから息がかからなかった。しかし突き飛ばされた兵士は、息を大きく吸い込んでしまう。


「あっ。あがっ。あ……」


 どれだけ吸い込むとこうなるのだったか。覚えてない。しかし十分な量だったらしい。

 兵士は倒れ、そして体を大きく痙攣させた。その肌は闇で覆われ、黒く染まっていく。


 人の形をした真っ黒なそれは、やがて立ち上がり、近くの民家に目を向けた。窓から様子を不安げに見つめていた住民たちが悲鳴をあげる。


 闇に染まった兵士は剣を抜き、本能のままに家に押し入り振るう。悲鳴が大きくなった。いくつもの断末魔が耳に入る。


 これこそが"それ"の力。人間を闇に染めて暴れさせる。

 制御ができないのが難点だ。民家ではなく、末裔を襲ってほしかったのだが。


 まあいい。奴が逃げていった方向は、あの城だ。あそこに攻め込めばいいだけだ。闇に支配された人間で街を埋め尽くせば、城に攻め込む者も出てこよう。

 人間ならあちこちにいる。片っ端から闇に染めてしまえ。


 再度、大きく息を吸い込む。空気を闇と混ぜ合わせて、吐き出す先を探す。


 逃げ出そうとする人間の集団がいた。そちらに吹きかけて、数人まとめて闇に染める。やはり彼らは好き勝手に暴れ始める。回りの人間に襲いかかり、殴り、地面に押し倒して首を締める。

 襲われているのはどうやら、闇に染まった人間の顔見知りらしい。変わり果てた姿になった友に絶望しながら、悲鳴を上げた。それがあちこちから聞こえた。


 人間の悲鳴は、いつ聞いても心地よい。素晴らしい。この大きな街を悲鳴で覆い尽くそう。


 "それ"は次を用意しながら、のっそりと歩いて人の姿を探す。

 家族だろうか。家から逃げ出そうとする集団がいた。小さな子供もいた。


 こちらに気づかれたことを悟って絶望の悲鳴を上げた。


 "それ"はその集団に向けて息を吹きかける。


 しかし黒い息は彼らに届かなかった。


 子供がひとり、急に現れて彼らの前に立ち、息を受け止めたから。しかも一本の棒切れで。

 しかし"それ"にはわかった。奴もまた英雄の末裔だと。そして、奴の持っていた棒が、かつて"それ"を倒した剣に見えた。




――――



「もふもふ急いで! なにか様子がおかしい!」


 馬車が全速力で走る。黒い竜の姿が近づいてくる。奴は建物を破壊しながら、地面に向けて何かを吐き出していた。


「あいつが吐いているのは何かしら。ドラゴンだからブレスだと思うけど、様子が変。闇を纏った息?」

「なんか聞いたことあるかも! ジェイザックが倒した黒い竜は、人を狂わせる息を吐くって」

「それ初耳なんだけど!? 誰から聞いたの!?」

「孤児院の近所に住んでいたお婆ちゃん! そのお婆ちゃんは、さらにお婆ちゃんから伝え聞いたって言ってた!」

「伝説に残ってない話がなんでそんな所にあるのよ!? てかそのお婆ちゃん何者なの!?」

「知らない! 先祖は昔、ジルベール地方に住んでたって!」

「確かにジェイザックが活躍した場所! え、なに。じゃあ、歴史を見ていた人が自分の子孫にだけ口伝で語り継いでいたの!? そんな重要な情報が王都のすぐ近くに眠ってた!?」

「そういうのを片っ端から探すのがゾーラの仕事なんだろ? 道から外れた村にある、村人以外誰も興味がない祠の中を見たり」

「そうなのだけど! ねえ、そのお婆ちゃんは今」

「去年亡くなったわ!」

「惜しい人がー!」

「アンリ。その人はダークドラゴンについて、他になにか話してた?」


 歴史研究のやり方は興味深い話だけど、今は目の前の出来事の情報がほしい。


「あの息は、かかっただけじゃなんともないの! ただ、吸い込んだら狂ってしまうって!」

「確かに闇は皮膚に触れただけではなんともない。あたしの知ってる性質に矛盾しないわ」


 ゾーラは闇で、平気で人の足を縛りつけてるもんね。


「それから、闇に狂ってしまった人は、聖剣エグダインの力で元に戻せたって!」

「元に戻す? どうやって?」

「それはわからない!」


 大昔のことだから、そのまでは伝わってないのか。

 話している内に、いよいよドラゴンのすぐ近くまで来た。

 そして、奴が一家らしい市民に息を吹き掛けようとしているのが見える。


「行ってくる! 後は任せた!」

「あ! おい!」


 馬車から飛び降り、家の残骸の中から何かの棒を拾い上げ、それが聖剣として機能することを確認しながら一家とドラゴンの間に身を割り込ませる。

 見上げるような大きさのドラゴンが闇の混ざった息を吹きかける。僕は息を止めながら、剣を構えた。


 息が剣に当たり、闇を消滅させていった。僕の後ろにいる人たちには届かなかった。

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