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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第1章 長男

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1-40.急いで戻る

 確かに馬車は必要で、執事にお願いすれば男爵が使っていた物を借りることはできた。しかし馬はみんな魔物にやられたらしく、残っているのはもふもふだけ。

 これを荷車に繋いで。


「よし! 行くわよ!」

「アンリちゃん。馬車を動かす御者は、そこの席に座るのよ。馬に直接跨がったりしないわ」

「わたしは御者じゃなくて、もふもふの友達! だからいいの! しゅっぱーつ!」


 馬車が急加速していく。屋敷の敷地を出て真っ直ぐ進んで。


「待って! 方向が違う! こっち!」

「え? そうなの? もふもふ曲がって! こっちだって!」

「ヒヒン!」

「みぎゃー! 急に曲がりすぎです! ヨナ様大丈夫ですか!?」

「まだ大丈夫……」

「事故が起こっても、わたしちゃんと庇いますから!」

「本当に起こりそうで怖い」


 速度を落とさず曲がったから、車体が大きく傾いて横転しかけた。馬体は安定しているから、アンリはそれを意識してない。

 御者が御者の席に座ってるのって、意味があるんだな。


 町のあちこちに血の跡が見られた。屋敷から出て町中にばらけたゴブリンが討伐されて、流れた血だ。けれど人間の被害者もいるのだろう。

 男爵の屋敷が発生源なのは兵士たちもわかっているらしく、僕たちと入れ違いに鎧を着込んだ彼らが屋敷に入っていくのが見えた。


 鉢合わせれば僕たちも取り調べを受けてたかも。けど急いでいるから、逃げられて良かった。後を任せることになった、あの執事には悪いと思っている。


 馬車は町の門まで向かっていって。


「あ! もふもふ止まって!」

「ぎゃー!?」


 急停止した。


「武器屋があるわ! さっきの弓はわたしには大きすぎたし、ちょうどいいの買ってくる!」

「いや。アタシらとしては、アンリに戦いを期待はしてないんだけど」

「でも! 武器はあった方がいいでしょ!? みんなもこの際、新しい武器買ったらどうかしら!?」

「アタシはナイフで十分だ」

「あたしも杖があるから」

「わたしは……さっき兵隊さんから頂いた剣が」


 頂いたというか、ぶんどったのだけど。しかもその後、しっかり鞘まで回収して、今は腰に差している。


「そう! ヨナも木の棒探すだけでいいものね! じゃあわたしのだけ買ってくるわね!」

「待って! お金持ってないでしょ!」


 それで店主と揉めても時間の無駄だし、そもそもアンリにまともな買い物が出来るとも思わない。

 ついていって急いで買い物を済ませる。子供用の弓なんて売ってるんだなあ。


 というわけで、出発。また全速力で門に向かう。


 と思ったら。


「止めて! アンリちゃんそこで止めて!」

「わぎゃー!?」


 また急停止。ティナが変な悲鳴を上げた。

 停まったのは冒険者ギルドの前。


「アンリちゃんを冒険者登録しないと王都に入れないのよ」

「それはまずい」


 急いで登録しないと。


 昼過ぎとのこともあって、冒険者ギルドの受付に列はできていなかった。しかし人は多かった。中心部で起こった魔物騒ぎのせいだ。

 市民の集まりに過ぎない冒険者たちが原因を知っているはずもなく、今まで関わって来なかった魔物が急に町に出てきたことを不安に思い、仲間を求めて集まったというわけだ。


 既に魔物が討伐されたことはみんな知っていて、大した相手ではなかったのではという憶測も生まれていた。

 そう思いたいだけなんだな。不安だから。また魔物が出ても怖くないと思い込みたいが故に、仲間とそう声を掛け合い、心配を紛らわせている。


 もっとも、言ってる内に気が大きくなっていく者もいる。自分は魔物を倒したわけでもないのに、弱い魔物なんか敵ではないと自信満々になっていく奴らだ。


 で、昨日ギルドに行った時と同じく、女の子の集団と見れば声をかける現象が観測されて。


「よう、お前ら。見ない顔だな。魔物騒ぎで不安になったか? 俺が守ってあげようか? ついでに夜まで付き合ってくれねえかな?」


 なんて、いかにも下品な感じの冒険者が話しかけてきた結果。


「うるせぇ! こっちは急いでんだよ!」

「そうですよ! 早く町から出ないといけないんです! 話しかけないでください!」

「だいたいなんだよ! 魔物から守るだぁ? そういうことは魔物を倒してから言え!」

「わたしたちは倒しましたからね! ゴブリンとか! なんとかレッドウルフとか!」

「ブラッドレッドウルフ」

「そうですそれ! あとリザードマン? とか」

「あれを倒したのは虎だけどね」

「そうでした! なんか動物に勝負を挑んで勝手に負けてました! 魔物も大したことありませんね! あなたに守られる必要はありません!」

「そうだぜ! お前みたいな軟弱者に守ってもらいたくねえよ!」

「顔も正直良くないですし! 態度も軽いです!」

「あと声もキモい!」


 と、ティナとキアに猛烈な反撃を受けることになった。


 もちろん、冒険者としては面食らうだけだろう。すげなく断られるだけならともかく、こんなに罵倒される筋合いはない。

 切実な理由で急いでいる時に声をかけたのが不幸なだけだった。


 男はだんだんと表情を険しくしていき、怒りを隠さなくなっていった。


 それが爆発する前に、受付からゾーラとアンリが戻ってきたのだけど。


「それくらいにしなさいな。あの受付の子、また泣いてるわよ」

「あ……」

「ぐすっ! なんでですか!? 用もないのに冒険者が集まってきてうるさいし! 怖いし! しかも喧嘩まで起こるし! もうやだこの仕事! 辞めてやるー!」

「ごめんなさいね。あたしたちはもう去るから。あなたも、しばらく仕事を休んだ方がいいわ」


 ゾーラが受付をなだめながら、僕たちを連れて外に出る。


 ところが話しかけた男は怒りが収まらないという様子で。


「おい! 待て! 馬鹿にしやがって! 女のくせに生意気だぞ!」

「もふもふ!」


 ヒンッ。と返事がした。


「ごふっ!?」


 真新しい冒険者登録証をキラキラした目で見つめていたアンリも、こっちの騒ぎは聞こえていたらしい。

 不用意にも馬車に近づいた男が、もふもふに蹴飛ばされてしまった。


 かわいそうに。本当にかわいそうに。ナンパしただけで、こんな目に遭うなんて。そもそもナンパするのが悪いんだけど、ここまでされるなんて。

 でも、僕たち急いでいるから。


「もふもふ! 走るわよ!」

「ぐえっ!」


 床に伸びている男の腹を車輪が()く。死んではなさそうだ。これに凝りて、もうナンパなんてしない人間になってほしい。

 問題ごとを全て解決して、馬車は王都へと向かう。


「この馬、本当に速いわね。これなら夜中には王都に着けそう」

「グラドウスに追いつける?」

「それは無理。向こうも急いでいたし、出発時間が違いすぎる」


 グラドウスは魔物と戦ってないもんね。


「とにかく急げばいいのよね! もふもふ! 飛ばしなさい!」

「あの! アンリさん! あんまり飛ばしすぎても怖いんですけど! ぎゃー!」

「遅くした方がいいかしら?」

「いえそれはそれで困ります! 王都に行くのはわたしの都合なので!」

「もふもふ! もっと速くできるかしら!?」

「うわー!?」


 こんな調子でも、速く着けるならありがたいことだ。

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