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追放された第六王子の復讐〜僕が拾った木の棒が聖剣になるんです〜  作者: そら・そらら
第1章 長男

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1-33.男爵の趣味

 アンリはその後も、英雄ジェイザックの物語をニコニコ笑いながら僕に話した。

 ティナはそんな僕たちを見て、やっぱり笑みを浮かべていた。


「なにか嬉しいの?」

「はい! ヨナ様に、歳の近い友達ができるのは良いことなので! それにキアさんやゾーラさんと比べて、教育に悪くありません!」

「なによそれ」

「アタシら別に普通だろ?」

「いいえ! 普通ではありません!」

「というか、なんでティナがヨナくんの教育に口を出すのよ。出すとしたら学者のあたしでしょ?」

「わたしはヨナ様の近衛兵だからです! えっへん」

「無い胸を張るな」

「なっ!? なんですか!? 胸は関係ないじゃないですか! 皆さんより少し小さいだけです!」

「少し……?」

「少しですよ!? そんなに差はないです!」

「どうかなー」

「なんなんですか!」


 相変わらず、みんな賑やかだな。


「ふふっ」


 その光景を見て、アンリが笑顔になった。

 そっか。今この時間が幸せなら、それでいいか。



――――



 ヴェッカルの町に到着したグラドウスを、待ち構えていたかのように男爵の使者が迎え入れた。

 イリダノ男爵は屋敷で待っています。そう告げられて、馬車を先導する。


 それから、こうも言われた。弟君はご愁傷さまでしたと。


 王都や周辺の町の貴族には、ヨナウスが死んだという知らせは既に話は伝わっているか。早いものだ。町の一般市民には、まだ広まってはないだろうが。

 広まってほしくない話ほど広まってしまう。バレては困る嘘なら、なおさら速い。


 早いところ、この嘘を本当にしたいものだ。グラドウスは自然と不機嫌になる。


 王都に比べれば、随分としょぼくれた町だ。こんな時でなければ行くことはない。

 グラドウスを誘ったイリダノの趣味を知れば、なおさらだ。


 彼を待っていたのは男爵の配下の者だけではなかった。この町へヨナウスの捜索に向かわせたグラドウスの近衛兵も、連絡を受けて主を出迎えた。

 周りの村々に派遣した他の近衛兵も向かっているそうだ。


 ヨナウスは見つかっていない。もうこの町を抜けたのだろうか。イリダノの屋敷へ向かうため町を貫く大通りの様子を馬車の上から眺めたが、それらしい顔は見なかった。

 貧しい格好をした庶民がいるだけ。なんてつまらない町。王都にある品格のようなものも、ここには見当たらなかった。



 やがて馬車は一軒の屋敷の前で止まる。屋敷の格式だけは、王都にある貴族のそれと遜色がない。というか、下手な貴族の屋敷よりも立派だ。



 広い庭園が特に特徴的。庭には大きな馬小屋の他、各地から集めた様々な動物が鎖に繋がれて飼われていた。


 牛や羊のような、ありふれた家畜ではない。珍しい動物だ。

 馬に似ているが、体に白と黒の縞模様が刻まれているシマウマなる生き物や、黄色と黒の縞模様のトラなる生き物が鎖に繋がれている。


 逃げないようにはしているが、この動物が存在することを外に知らしめている。これこそがイリダノの自慢だから。


「馬小屋の方を御覧ください。先日手に入った素晴らしい名馬です」

「馬?」


 使者に促され、そちらを見る。普通の馬を、イリダノ今更が求めるはずがない。

 しかし馬小屋から顔を出していたのは、確かに立派な馬だった。


 並の馬よりもふたまわりは大きな体躯と、艶のある毛並み。毛は吸い込まれるような漆黒。


黒躯馬(こっくば)。男爵はそう呼んで可愛がっています」

「そうか」


 自慢したくなるのも理解できる美しさだった。


 これがイリダノ男爵の自慢の屋敷。ただし、これらは所詮は表の顔。

 この家の真のすごさは外からではわからない。



 近衛兵と共に屋敷内に入るグラドウス。イリダノも待ち構えていた。



 五十代半ばの男は、年齢から考えれば随分と若々しい容姿をしていた。肌には張りがあり、目は爛々と輝いている。

 生きる目的があると、こうも元気になるものか。


 歓待を受けながらも、当主であるイリダノはグラドウスを応接室や食堂に通そうとはしなかった。もっと他に連れて行きたい場所があるからだ。


「殿下、こちらへどうぞ」

「ああ……」


 グラドウスとしては、あまり気が乗らないのが事実なのだけれど。どうしてあんなに気持ち悪い物を見なければならないのだ。

 しかし招きに応じた以上は付き合うのが基本。上流階級同士の関わりというのは、そういうもの。



 階段を降りていく。この屋敷には広大な地下室がある。

 大きな庭を持っているから敷地自体が広く、それに合わせて拡張工事をしたそうだ。


 階段から降りるとすぐに大きな檻が見えた。


 ギャッギャッっと不快な鳴き声を立てる存在が、いくつも檻の中にいる。

 小さな体に緑がかった肌の色。ゴブリンだ。


 檻の中にいると理解しているのかは不明だが、狭い空間に閉じ込めらているのが不満なのか怒っているようだ。

 しかしイリダノが前に来れば、途端におとなしくなった。



 これが彼の持つ異能。魔物と呼ばれる存在を前にすると、奴らをおとなしくさせる。



 人を見れば害することしか考えない魔物という種族を前にして、これができる異能持ちは他に例がなかった。魔物が数多く跋扈する未開拓地域の指揮官にでもなれば重宝されただろうに、彼は王都のすぐ近くの町の貴族生まれて、その家の当主になった。

 そもそも魔物がいない地域。そこから出ずに過ごしていれば、本人すら異能に気づかずに生涯を終えていただろう。


 イリダノは異能を親しき者か必要な者以外に明かすことを避けていた。


 グラドウスは必要な者の方だ。

 この気持ち悪い趣味を持つ男から親しいと思われたくはなかったが。


 広大な地下空間の中にいくつもの檻が置かれ、そこに様々な魔物が閉じ込められているのを見て、しみじみと思う。


 巨大な体躯を誇るオークや、砂漠に生息するというリザードマン。海辺に生息するらしい、得体のしれない生き物もいた。檻をすり抜けていきそうなスライムは、研磨して透明度を高くしたガラスケースに入れられている。

 魚から人間の手足が生えているような、奇妙な魔物もいた。サハギンというらしい。

 巨大な狼もいた。普通の狼とは明らかに違う、真紅の体毛を持つ狼。


「それはつい先日入手したものです。十五年前に手に入れようとして失敗した狼に再挑戦しました。今いるのはメスの狼です。……前に取り逃がしてしまったオスの狼も、つい最近生きていることがわかりましてね」

「逃がしてしまった?」

「若い頃の過ちですよ。まだ魔物の扱いに慣れていなかった。しかし諦めきれず、手に入れた魔道具で人を使って探させたら、見つかったんですよ。既に私兵を向かわせています、連れ帰ってつがいで飼うことが出来るでしょう」


 なぜそんなことを躊躇なくできるのか、グラドウスには理解できなかった。



 若い頃に遠方に旅行に行った際に魔物と遭遇して、そして己の異能を知ったイリダノは、家の当主の座についてからは地下に魔物を飼い始めた。


 表に飼っている動物のことを考えれば、生き物全般が好きなのだろう。あるいは珍しい物か。

 それと異能が噛み合った結果、魔物の収集に熱を上げることになったわけだ。


 密かに各地に人をやって魔物を捕まえて、ここに連れてくる。

 もちろん違法行為だ。ここは王都ではないとはいえ、王家の直轄領の中。王族のお膝元に魔物を持ち込むなど危険すぎる。


 しかも王家であり次の王であるグラドウスにそれを明かすなんて、ありえない。しかしイリダノは、金や人間の知的好奇心を満たしてやるという報酬をちらつかせ、隠蔽していた。

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