1-31.孤児院
ゴブリンが来る方向に駆けていったけれど、孤児院らしき建物は見つからなかった。ただし、大きな荷台からゴブリンが数体出てくるのを見つけた。
荷台の近くには、見覚えのある冒険者の格好をした死体がふたつ転がっていた。
飛びかかってきたゴブリンの一体の爪を回避しつつ、そいつの首を掴んで別の一体にぶつける。揃って怯んだゴブリンが二体、折り重なって地面に倒れ込んだのを棒で纏めて串刺しにする。
もう一体の攻撃も回避。着地したゴブリンに向けて足を大きく上げて、全体重を乗せて踏み潰す。
「誰かがゴブリンを町の中に運び込んだの? でもなんのため?」
「ゴブリンを運び込んだ奴らって、あの狼関係で人を雇った奴らと関係してるのか?」
「同じ魔物。無関係とは思えないわね」
襲ってくるゴブリンを斬り殺すのは僕に任せて、ゾーラとキアは話し合っている。
荷台を覗き込めば、中は無人だった。冒険者の死体を確認したけれど、完全に息絶えていた。
「なんにせよ、解き放たれたゴブリンは有限ね。柵の向こうの森に実はゴブリンの集落があって、柵を壊して入ってきたとかじゃない」
ゾーラがちらりと後ろを見る。遠くから微かに、統率の取れた足音が聞こえてきた。
「兵士が到着したみたいね。ゴブリンの相手は彼らに任せましょう。すぐに掃討できるわ」
「わかった。家に……」
悲鳴が聞こえた。小さな子供の声に聞こえた。
荷台のすぐ横の建物からだ。兵士が到着するのには、まだ時間がかかる。
「ここだけ助けて行こうかな」
「ヨナくんもお人好しね」
「自分の国の人を守るっての、嫌いじゃないぜ」
からかわれながら、建物の中に踏み込む。途中、ちらりと看板が見えた。ここが孤児院らしい。
普通の家と何も変わらないじゃないか。子供を何人も世話する大きさはない。
ゴブリンが五体、怯える子供たちに迫っていた。
その内の一体は他のと比べれば倍の大きさがあった。つまり僕と同程度。
「ゾーラ。動きを」
「ええ」
杖を振ってゴブリンたちの足に蔓を這わせる。五体くらいなら同時に動きを止められる。小さなゴブリンたちは動けなくなったことに戸惑っていた。
が、巨大な個体は違った。片足が拘束された時点で瞬時に自由な方の足を上げ、こちらに振り返りながら踏み込んだ。
足に全力を集中して踏ん張ると、蔓がブチブチと音を立てて千切れる。ゴブリンの方も無事では済まず、蔓と擦れた足が血を流していた。
自分が怪我する恐怖や痛みを無視すれば、理性など持たないゴブリンは抜け出せるのか。小さい方は無理そうだから、相応の知力と体力がいるのだろうけど。
「ゾーラは他のゴブリンの拘束を維持して! キア!」
「わかってるよ」
拘束から完全に抜け出したゴブリンに斬りかかる。ゴブリンは向こうからも仕掛けてきた。鋭い爪が光る。それに向けて棒を振った。
ゴブリンの片手が切り落とされた。しかしゴブリンは怯むことなくこちらへ突進。
「ぐっ!?」
体当たりを食らった僕はなんとか転倒は免れた。しかし持っていた棒を落としてしまう。
「こっちだ!」
ナイフをきらめかせたキアが誘えば、ゴブリンはそっちに向かう。しかし片手とはいえ、本気の殺意で襲ってくるゴブリンにキアは苦戦していた。
助けないと。武器は? 木の棒がどこかに転がってない?
「ヨナ! これを使って!」
アンリの声がした。結局追いかけて来たんだな。仕方ない子だ。妙に期待のこもった声で呼びかけてきた。
さっき壊れた弓と対になっていた矢の方が飛んできた。確実に僕が受け取れる軌道で投げられたそれを、避けた。
「ちょっ!? なんで受け取らないのよ!?」
「直接渡したら駄目なんですー! 一旦落としたのを受け取らないと!」
息を切らしたティナも追いかけてきた。
とにかく矢を拾う。その鋭さで、先端に被せてあった布が自重で切り裂かれていって落ちる。
布が取れても、先端は丸くて殺傷能力は無さそうだった。なのにこれをゴブリンの背中に刺せば、あっさりと体を突き抜けた。
「聖剣ってすごいな」
改めて呟きながら、小さなゴブリンたちも殺していく。ゴブリン四体の首がスパスパと落ちる様は、残酷でありながら楽しくもあった。
静かけさが戻る。外では、兵士たちが奮闘する声がまだ聞こえていた。
「みんな怪我はない? 先生は?」
部屋の隅で身を寄せ合って震えていた子供たちに、アンリが駆け寄る。孤児たちの中ではアンリが最年長なのだろう。
子供のひとりが、ある方向を指差した。
「先生、オレたちを置いて逃げようとしたんだ。そしたら向こうから、この、怪物? が来て」
子供たちはゴブリンという言葉を知らない。日常では触れない存在だし、ろくに本も読ませてもらっていなさそうだ。
そちらへ行けば、半裸の中年の女の死体が転がっていた。これが、孤児院の先生か。あまり世話を焼かない、雇われ先生。
「そう。いい気味だわ。みんなに怪我がなくて本当に良かった。でも、孤児院はめちゃくちゃになっちゃったわね」
建物内は荒れ果てていたし扉も壊されている。元々粗末なものだったらしい家具も壊れたのが多い。なにより管理する先生が死んだ。
元からお金がかけられてない孤児院に、町の貴族たちが現状回復に金を出すとは思えないな。これからの子供たちの生活が、少し心配だ。




