1-26.雑魚冒険者と受付嬢
「ゾーラ。そのくらいに」
「いいえ。この際、冒険者としてどっちが上かはっきりさせておきたいもの」
「冒険者としてなら、明らかに向こうが上では? もっとこう、人としてとか、そういう比べ方をした方が……」
「冒険者としても、こっちの方が上よ。こいつらに魔物退治はできない。あなたの言う通り人間の出来を比べても、あたしたちの圧勝だけどね。だから残念なのよ。彼らにも、邪悪な心の無かった純粋な少年時代があったはずだって。時の流れは残酷よね」
「でもゾーラさん。あなたが男の子を好きなの、どっちかというと中身より顔ですよね?」
「それはそうだけど。彼らも今は見る陰もないけど、美しかった頃があったと思えば」
「ふざけてんのかてめぇ!?」
好き勝手に、相当に無礼な物言いをして一切やめようとしないゾーラと、僕に隠れながら話し相手をするティナ。こっちも人間としてどうかと思うけれど、とにかく男たちは怒った。先に手を出そうとしたなら向こうが悪い。
僕はすかさず前に出て、剣を抜こうとした男の腹に頭突きを食らわせる。よろけた男の剣の柄を掴んで抜いて、首筋に突きつけた。
「ひっ!?」
「動きが遅いです」
もうひとりも慌てて剣を抜こうとしたけれど、その手は空を切る。
「なにっ!?」
「探してるのはこいつか?」
いつの間にか背後に回っていたキアが、気づかれない内に抜き取っていたらしい。剣を振って見せびらかした。
「てめぇ……返せ!」
「やだよ。返したら襲ってくるだろ。来るなら素手で来い」
「この野郎……」
「あ。あの。皆さん。それくらいにした方が……お姉さんが泣いてます」
「え?」
全員の視線が受付の方へ向く。登録証を用意するために一旦奥に引っ込んでいた受付嬢が。
「ぐすっ。なんで。なんでですか。なんでわたしの担当する時間に限って面倒が起こるんですか。ひっぐ。いつもそうです。ぐすん。もうやだこの仕事!」
無表情だと思ってたけど、内心でとんでもない辛さを抱えてたんだな。
「ごめんなさいね。無礼者がいたから挑発しちゃった。みんなもそれくらいにして。冒険者同士の私闘は、本当は禁止されてるのよ」
「そ、そうなんだ」
普通にやり合おうとしてたけど、駄目なんだな。てか向こうも手を出そうとしてたけど、どれくらい厳しいルールなんだ。
とにかく剣は返した。男たちはなおもこちらに思うことがあるのかチラチラ見てたけれど、何も言わずに去っていく。
「怖かったですねお姉さん。もう大丈夫ですよ。この人たち、変だけど悪い人ではないので。ちょっと変なだけですから」
「ひっぐ。そ、そうみたいですね……ティナさんは優しいですね。いい冒険者になれると思います……」
「えへへっ。ありがとうございます!」
「ティナはティナで変な人だと思うけどな」
「ティナさんみたいな冒険者がこの町に増えれば、仕事も怖くなくなるのに。ティナさん頑張ってください」
「あ、わたしたち町に長居するつもりはないです」
「え……」
お姉さんの絶望的な顔に、少し心が痛む。
「ほら。それくらいにして。登録証ありがとうね。説明はいいわ。わたしからするから。後でこの四人をパーティーにする申請を出すからよろしくね。みんな、依頼を見に行きましょう」
ゾーラに追い立てられて、みんな壁際の掲示板の方に向かう。僕は受け取った登録証を見つめていた。
当然ながら等級は十。駆け出しで、一番低いランクだ。
「十から九はすぐ上がるわ。そこからも、依頼をこなす数だったり期間だったりで、七等級くらいまでなら楽に上がれる。そこから先は審査が厳しくなるけどね」
だからさっきの男は、この小さな町ではこれ以上の昇格は難しい。ゾーラはそれを知っていて馬鹿にしていた。
いや、だからって馬鹿にしていいわけじゃないけれど。今も奴らはこっちをチラチラ見てるし。
「一等級まで上がるのは稀ね。国王が認可して、国の仕事に就くとかの特別な立場を押し付けられるから、冒険者の方も応じるか微妙なところ。大きな名誉ではあるけどね」
「王から認められて名誉? あの父に?」
「世間一般の話よ。受けたい依頼はある?」
「えーっと。おじいさんの話し相手になってください。犬の散歩を代わりにしてください。赤ちゃんのお世話。雑草刈り。引っ越しの手伝い」
「ウサギ退治すらねえじゃねえか」
「そういうのは朝の内に取られるのよ。まあいいわ。身分証が欲しかっただけだし、お金に余裕はあるしね。やるべきこともあるし」
この町でやるべきことは他にある。
「なんでしたっけ。あ、武器を買わなきゃですね! 冒険者として必要です!」
「それもあるけど、頼まれごとがあったでしょ。あの冒険者の家族が病気だから様子を見てこいって」
「あ! そうでした! ええ! もちろん! 忘れてませんよ!」
忘れてたな。
城壁で囲まれた都市の中で栄えてる場所というのは、大きな傾向で決まっている。中心部と門の付近だ。
中心部には都市の長である城主がいて、そこから大通りが伸びて門まで続いている。そして門は、疲れた旅人を休ませる飲食店や宿屋が集まりがちだから。
逆に寂れているのは中心部からも門からも離れた場所。つまり都市の円周部の、門と門の中間地点なのが多い。
そして、小規模になった町でも傾向は変わらない。
この町の場合は南北に門があるから、東西の柵の付近が該当する。
そして例の冒険者から教えられた自宅は、まさにその方向にあった。
大通りから西へ向かうにつれて、人通りは少なくなり建物も小さく、間隔が開いていく。
良く言えば庶民的、悪く言えば中心部の地価の高い土地には住めない人の暮らす地域になっていく。
「ここね。お邪魔するわ。あなたのお兄さんから頼まれて来たの。しばらく帰れないそうだから、様子を見てほしいって」
目的の家を見つけて、遠慮なくお邪魔させてもらう。近くに柵が見えた。




